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第1章:記憶の狭間編
第7話:2010年 ミライのメジャーデビューへ
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◆未完成の旋律◆
2010年、東京。
レコーディングスタジオ。
ミライはヘッドフォンをつけ、マイクの前に立っていた。
ガラス越しにはシュン。
「ミライ、もう一度サビから」
音楽が流れ、彼女は歌い出す──。
しかし、シュンは手を挙げて演奏を止めた。
「……違う」
「何が?」
「お前の歌から、何かが抜け落ちてる」
「……そんなこと言われても」
シュンは腕を組み、じっと彼女を見つめた。
「お前の歌──まるで望月来人みたいだ」
ミライの胸がざわつく。
「……どういう意味?」
「完璧で美しい。ただ、自由に放ちたいのに、どこか感情が押し込められているようにも感じた」
その言葉を聞いた瞬間、ミライの口から思わず言葉がこぼれる。
「……お父さんみたい」
シュンの目が大きく見開かれた。
「……お父さん?」
ミライははっとして、口を手で押さえた。
「今……なんて?」
シュンの声が震えていた。
「まさかお前……望月来人の娘なのか?」
◆ミライがシュンに惹かれた理由◆
ミライはシュンを見つめた。
彼の音楽にどこか懐かしさを感じた理由が、今はっきりと分かった。
(……そうか。私、最初からこの人の音楽に、お父さんの影を見てたんだ)
思い返せば、シュンのプロデュースした音楽には、どこか父のスタイルに通じるものがあった。
(でも、それを認めたくなくて……ずっと考えないようにしてた)
シュンは信じられないというように、ゆっくりと椅子に座る。
「……ずっと、気になってたの」
「何が?」
「あなたの音楽。どこかお父さんに似てるって、最初に聴いた時から思ってた」
シュンは眉をひそめた。
「俺の音楽が……望月来人に?」
ミライは小さく頷く。
「音の作り方、旋律の流れ、完璧を求める感じ……まるでお父さんみたいだった。でも、何かが違ったの。あなたの音楽には、迷いがある」
「迷い……?」
「うん。お父さんの音楽は、絶対的な正解を持ってた。でも、あなたの音楽は、まるで“正解を探してる”みたいだった」
「だから私は、あなたの音楽に惹かれたのかもしれない。お父さんに似ているのに、違う。正解を探して、迷いながらも音を作ろうとしてる──それが、すごく人間らしくて、心を動かされたの」
シュンはゆっくりと息を吐いた。
「……お前のお父さんが、望月来人だったなんて、知らなかった」
「私も、言うつもりなかった。ずっと、お父さんの名前の影に隠れて生きてきたから……」
「俺は……ずっとあの人の音楽に憧れてた」
「……そうなんだ」
「ガキの頃、初めて望月来人の曲を聴いた時、衝撃を受けた。俺の中で、完璧な音楽っていうのはあの人のスタイルだった」
ミライはそっと目を伏せた。
「私も、お父さんの音楽はすごいと思ってた」
「……だけど、それが呪いになることもある」
「呪い?」
「そう、呪い。お前の歌、たしかにすごいよ。でも、まだ“自由”が足りない」
シュンはじっと彼女を見つめた。
「お前の音楽は、お前自身のものか?」
ミライは言葉を失った。
◆父の書斎──知らなかった想い◆
シュンとの会話の後、ミライは父の書斎へ足を踏み入れた。
目の前には、長年立ち入りを禁じられていた書斎の扉がある。
深呼吸をして、意を決し、ドアノブに手をかける。
部屋の中は静かで、空気が重かった。
ミライの胸が締めつけられる。
机の上には、父の日記があった。
『ミライが生まれた。こんなに嬉しいことはない。』
『初めてピアノを弾いた。下手くそだったけど、最高に楽しそうだった。』
『いつの間にか、音楽を厳しく教えることが増えてしまった。でも、本当はただ、ミライに音楽を楽しんでほしいだけなのに──。』
ミライは震える手で、カバンから封筒を取り出した。
怖くて開けられなかった父の手紙──。
ゆっくりと、封を切る。
封を切る手が震える。
『ミライへ』
最初の一行を見た瞬間、涙が込み上げた。
『今まで厳しく音楽を教えたのは、自由に音楽をやるためには、本当の音楽を知ることが大事だからだった。だから、必要以上に厳しく当たってしまった。申し訳ない。』
ミライは手を口元に当てた。
『でも、本当はずっとお前の音楽が好きだった。お前の歌が好きだった。だから、もう自分の音楽を自由にやりなさい。』
「……何で、生きてるうちに言ってくれなかったの……」
膝から崩れ落ち、ミライは泣きじゃくった。
(……ずっと、許せなかった。)
(お父さんは、私に完璧を求めた。私の音楽を、私の歌を、全部、お父さんの理想に押し込めた。)
(だから、私はお父さんの音楽を憎んだ。お父さんのことを、憎んだ。)
涙が一筋、頬を伝う。
(……でも、本当は。)
(お父さんも、迷ってたんだ。)
(私に音楽を教えることで、お父さん自身も“正解”を探してたんだ。)
机の上には、埃をかぶった写真立てが置かれている。
写真立てを手に取る。
そこには、小さなミライを抱いて笑う父の姿があった。
「……こんな顔、してたんだね。」
「お父さんも、ただ私に音楽を楽しんでほしかったのかな。」
ミライは優しく語り掛けた。
(お父さん、私は──自由に歌うよ。)
(お父さんの音楽を受け継ぐんじゃなくて、私の音楽を作る。)
「だから……ありがとう。」
涙を拭い、ミライは静かに笑った。
◆シュンのトラウマの解放◆
翌日。
スタジオのピアノの前に座るシュンの元へ、ミライが来た。
「ねえ、シュン。」
「ん?」
「あなたの音楽も、どこか抑えてる気がするの。」
シュンの指が止まる。
「……。」
「あなたはいつも、“正解”を探してる。でも、音楽に正解なんてないんじゃない?」
シュンは、少し驚いたようにミライを見る。
「……そんなこと、考えたことなかった。」
「お父さんも、ずっと正解を求めてた。でも、最後の手紙には“自由な音楽をやりなさい”って書いてあった。」
「……。」
ミライは微笑む。
「だから、シュンも自由になっていいんじゃない?」
シュンは目を伏せた。
「……俺は、音楽が怖かった。」
「怖い?」
「子供の頃から、ずっと完璧を求められた。音楽は数学みたいに、“正しい答え”があるものだって思い込んでた。」
「親父は官僚で、“音楽なんて娯楽にすぎない”って思ってる人間だった。でも、クラシックだけは“芸術”として認めてた。」
「それで、ピアノは許されたの?」
「ああ。……俺の家では、音楽っていうのはクラシックだけだった。」
「親父は、音楽を“勉強”みたいに扱っててな。正しい演奏、正しい解釈、正しい音色──それ以外は全部価値がないって。」
「そんな中で、どうしてギターを?」
シュンが微かに笑う。
「きっかけは、望月来人の音楽だった。」
「お父さんの?」
「ああ。クラシックだから、聴くのは許された。……でも、初めて聴いたとき、衝撃だったんだ。」
「俺が知ってるクラシックって、もっと整然としてて、厳格で、感情を抑えたものだった。」
「でも、来人のピアノはそれとは全く違った。クラシックなのに、自由で開放感があった。まるで型にはまった道を歩くのではなく、自分のペースで演奏しているようだった。」
「音に命が宿っているようだった。」
「それから、俺はクラシックの“正解”に違和感を覚えるようになった。ある日、思い切ってギターをやりたいって言ったら、“くだらん”の一言で終わりだった。」
「そうなんだ。」
「結局、俺はピアノをやるしかなかった。親父に逆らう勇気もなかったし、それが正しいと思い込もうとしてたんだ。」
◆シュンの回想シーン──幼少期◆
夜。静かなシュンの部屋。
母がそっとドアを開け、何かを抱えて入ってくる。
「シュン、ちょっとこっち来て。」
シュンがベッドから降りると、母が布に包まれた細長いものを差し出す。
「……何?」
母は優しく微笑む。
「開けてみなさい。」
シュンが恐る恐る布をほどくと、中から小さなアコースティックギターが現れる。
「えっ……!」
目を輝かせながらギターを抱え、震える指で弦を触る。
「これ……俺に?」
「シー。でも、お父さんには内緒よ。」
母はそっとシュンの肩を抱く。
「あなたが音楽を好きな気持ち、私は知ってるから。」
「……でも、父さんが知ったら……」
「大丈夫。あなたが本当にやりたいことなら、きっといつか分かってもらえる。」
「ありがとう……母さん。」
母はそっとシュンの頭を撫でる。
「さあ、寝る前にちょっとだけ弾いてみなさい。」
シュンは嬉しそうにギターを構え、小さく音を鳴らし始めた──。
──回想空けて──
「だから、俺はピアノの練習をするふりをしながら、影でギターを練習した。自分の音楽を探したかったんだと思う。」
「……。」
「でも、ミライの歌を聴いて思った。音楽に正解なんてないのかもしれないって。」
シュンはそっと目を閉じ、深く息を吸った。
◆レコーディング、二人の音楽の融合◆
数日後。
レコーディングスタジオのロビー。
シュンはミライを見つめながら、静かに言った。
「完璧な音楽なんて、もう求めなくていい。君が歌いたいように歌え。俺がその音楽を全力でプロデュースする。」
ミライは微笑んだ。
「ありがとう、シュン。わかった!」
静かに息を整えるミライ。
シュンはギターを手に取り、レコーディングブースのドアを開けた。
──数分後、レコーディングスタジオ。
ミライがマイクの前に立つ。
シュンが機材の前に座り、指示を出す。
「ミライ、思いっきり歌え。」
「シュン、正解なんて求めないで演奏してね」
ミライは深く息を吸い込み、目を閉じる。
シュンはその様子を見て集中力を高める。
そして、ミライはゆっくりと歌い始めた。
シュンのギターとミライの声が重なり合う瞬間、空気が弾けたような感覚があった。
誰もが息をのむ「音楽」は、ここにあった。
「……これが、私たちの音。」
ミライが呟く。
シュンが静かに頷いた。
「俺も……自由になってみるよ。」
シュンの中で何かが変わった。
抑制された子供時代の記憶と、歌声をなくしたあの日の悔しさを打ち破り、音に魂が宿った。
今までとは違う──自由な音が広がっていく。
シュンは笑った。
「これだよ!これが俺たちの音楽だ!」
ミライも笑う。
「うん!私たちの音楽!」
こうして、二人の音楽が、ようやく一つに溶け合った。
…… そして、メジャーデビューへの道が、静かに動き出す──。
(第8話へ続く)
2010年、東京。
レコーディングスタジオ。
ミライはヘッドフォンをつけ、マイクの前に立っていた。
ガラス越しにはシュン。
「ミライ、もう一度サビから」
音楽が流れ、彼女は歌い出す──。
しかし、シュンは手を挙げて演奏を止めた。
「……違う」
「何が?」
「お前の歌から、何かが抜け落ちてる」
「……そんなこと言われても」
シュンは腕を組み、じっと彼女を見つめた。
「お前の歌──まるで望月来人みたいだ」
ミライの胸がざわつく。
「……どういう意味?」
「完璧で美しい。ただ、自由に放ちたいのに、どこか感情が押し込められているようにも感じた」
その言葉を聞いた瞬間、ミライの口から思わず言葉がこぼれる。
「……お父さんみたい」
シュンの目が大きく見開かれた。
「……お父さん?」
ミライははっとして、口を手で押さえた。
「今……なんて?」
シュンの声が震えていた。
「まさかお前……望月来人の娘なのか?」
◆ミライがシュンに惹かれた理由◆
ミライはシュンを見つめた。
彼の音楽にどこか懐かしさを感じた理由が、今はっきりと分かった。
(……そうか。私、最初からこの人の音楽に、お父さんの影を見てたんだ)
思い返せば、シュンのプロデュースした音楽には、どこか父のスタイルに通じるものがあった。
(でも、それを認めたくなくて……ずっと考えないようにしてた)
シュンは信じられないというように、ゆっくりと椅子に座る。
「……ずっと、気になってたの」
「何が?」
「あなたの音楽。どこかお父さんに似てるって、最初に聴いた時から思ってた」
シュンは眉をひそめた。
「俺の音楽が……望月来人に?」
ミライは小さく頷く。
「音の作り方、旋律の流れ、完璧を求める感じ……まるでお父さんみたいだった。でも、何かが違ったの。あなたの音楽には、迷いがある」
「迷い……?」
「うん。お父さんの音楽は、絶対的な正解を持ってた。でも、あなたの音楽は、まるで“正解を探してる”みたいだった」
「だから私は、あなたの音楽に惹かれたのかもしれない。お父さんに似ているのに、違う。正解を探して、迷いながらも音を作ろうとしてる──それが、すごく人間らしくて、心を動かされたの」
シュンはゆっくりと息を吐いた。
「……お前のお父さんが、望月来人だったなんて、知らなかった」
「私も、言うつもりなかった。ずっと、お父さんの名前の影に隠れて生きてきたから……」
「俺は……ずっとあの人の音楽に憧れてた」
「……そうなんだ」
「ガキの頃、初めて望月来人の曲を聴いた時、衝撃を受けた。俺の中で、完璧な音楽っていうのはあの人のスタイルだった」
ミライはそっと目を伏せた。
「私も、お父さんの音楽はすごいと思ってた」
「……だけど、それが呪いになることもある」
「呪い?」
「そう、呪い。お前の歌、たしかにすごいよ。でも、まだ“自由”が足りない」
シュンはじっと彼女を見つめた。
「お前の音楽は、お前自身のものか?」
ミライは言葉を失った。
◆父の書斎──知らなかった想い◆
シュンとの会話の後、ミライは父の書斎へ足を踏み入れた。
目の前には、長年立ち入りを禁じられていた書斎の扉がある。
深呼吸をして、意を決し、ドアノブに手をかける。
部屋の中は静かで、空気が重かった。
ミライの胸が締めつけられる。
机の上には、父の日記があった。
『ミライが生まれた。こんなに嬉しいことはない。』
『初めてピアノを弾いた。下手くそだったけど、最高に楽しそうだった。』
『いつの間にか、音楽を厳しく教えることが増えてしまった。でも、本当はただ、ミライに音楽を楽しんでほしいだけなのに──。』
ミライは震える手で、カバンから封筒を取り出した。
怖くて開けられなかった父の手紙──。
ゆっくりと、封を切る。
封を切る手が震える。
『ミライへ』
最初の一行を見た瞬間、涙が込み上げた。
『今まで厳しく音楽を教えたのは、自由に音楽をやるためには、本当の音楽を知ることが大事だからだった。だから、必要以上に厳しく当たってしまった。申し訳ない。』
ミライは手を口元に当てた。
『でも、本当はずっとお前の音楽が好きだった。お前の歌が好きだった。だから、もう自分の音楽を自由にやりなさい。』
「……何で、生きてるうちに言ってくれなかったの……」
膝から崩れ落ち、ミライは泣きじゃくった。
(……ずっと、許せなかった。)
(お父さんは、私に完璧を求めた。私の音楽を、私の歌を、全部、お父さんの理想に押し込めた。)
(だから、私はお父さんの音楽を憎んだ。お父さんのことを、憎んだ。)
涙が一筋、頬を伝う。
(……でも、本当は。)
(お父さんも、迷ってたんだ。)
(私に音楽を教えることで、お父さん自身も“正解”を探してたんだ。)
机の上には、埃をかぶった写真立てが置かれている。
写真立てを手に取る。
そこには、小さなミライを抱いて笑う父の姿があった。
「……こんな顔、してたんだね。」
「お父さんも、ただ私に音楽を楽しんでほしかったのかな。」
ミライは優しく語り掛けた。
(お父さん、私は──自由に歌うよ。)
(お父さんの音楽を受け継ぐんじゃなくて、私の音楽を作る。)
「だから……ありがとう。」
涙を拭い、ミライは静かに笑った。
◆シュンのトラウマの解放◆
翌日。
スタジオのピアノの前に座るシュンの元へ、ミライが来た。
「ねえ、シュン。」
「ん?」
「あなたの音楽も、どこか抑えてる気がするの。」
シュンの指が止まる。
「……。」
「あなたはいつも、“正解”を探してる。でも、音楽に正解なんてないんじゃない?」
シュンは、少し驚いたようにミライを見る。
「……そんなこと、考えたことなかった。」
「お父さんも、ずっと正解を求めてた。でも、最後の手紙には“自由な音楽をやりなさい”って書いてあった。」
「……。」
ミライは微笑む。
「だから、シュンも自由になっていいんじゃない?」
シュンは目を伏せた。
「……俺は、音楽が怖かった。」
「怖い?」
「子供の頃から、ずっと完璧を求められた。音楽は数学みたいに、“正しい答え”があるものだって思い込んでた。」
「親父は官僚で、“音楽なんて娯楽にすぎない”って思ってる人間だった。でも、クラシックだけは“芸術”として認めてた。」
「それで、ピアノは許されたの?」
「ああ。……俺の家では、音楽っていうのはクラシックだけだった。」
「親父は、音楽を“勉強”みたいに扱っててな。正しい演奏、正しい解釈、正しい音色──それ以外は全部価値がないって。」
「そんな中で、どうしてギターを?」
シュンが微かに笑う。
「きっかけは、望月来人の音楽だった。」
「お父さんの?」
「ああ。クラシックだから、聴くのは許された。……でも、初めて聴いたとき、衝撃だったんだ。」
「俺が知ってるクラシックって、もっと整然としてて、厳格で、感情を抑えたものだった。」
「でも、来人のピアノはそれとは全く違った。クラシックなのに、自由で開放感があった。まるで型にはまった道を歩くのではなく、自分のペースで演奏しているようだった。」
「音に命が宿っているようだった。」
「それから、俺はクラシックの“正解”に違和感を覚えるようになった。ある日、思い切ってギターをやりたいって言ったら、“くだらん”の一言で終わりだった。」
「そうなんだ。」
「結局、俺はピアノをやるしかなかった。親父に逆らう勇気もなかったし、それが正しいと思い込もうとしてたんだ。」
◆シュンの回想シーン──幼少期◆
夜。静かなシュンの部屋。
母がそっとドアを開け、何かを抱えて入ってくる。
「シュン、ちょっとこっち来て。」
シュンがベッドから降りると、母が布に包まれた細長いものを差し出す。
「……何?」
母は優しく微笑む。
「開けてみなさい。」
シュンが恐る恐る布をほどくと、中から小さなアコースティックギターが現れる。
「えっ……!」
目を輝かせながらギターを抱え、震える指で弦を触る。
「これ……俺に?」
「シー。でも、お父さんには内緒よ。」
母はそっとシュンの肩を抱く。
「あなたが音楽を好きな気持ち、私は知ってるから。」
「……でも、父さんが知ったら……」
「大丈夫。あなたが本当にやりたいことなら、きっといつか分かってもらえる。」
「ありがとう……母さん。」
母はそっとシュンの頭を撫でる。
「さあ、寝る前にちょっとだけ弾いてみなさい。」
シュンは嬉しそうにギターを構え、小さく音を鳴らし始めた──。
──回想空けて──
「だから、俺はピアノの練習をするふりをしながら、影でギターを練習した。自分の音楽を探したかったんだと思う。」
「……。」
「でも、ミライの歌を聴いて思った。音楽に正解なんてないのかもしれないって。」
シュンはそっと目を閉じ、深く息を吸った。
◆レコーディング、二人の音楽の融合◆
数日後。
レコーディングスタジオのロビー。
シュンはミライを見つめながら、静かに言った。
「完璧な音楽なんて、もう求めなくていい。君が歌いたいように歌え。俺がその音楽を全力でプロデュースする。」
ミライは微笑んだ。
「ありがとう、シュン。わかった!」
静かに息を整えるミライ。
シュンはギターを手に取り、レコーディングブースのドアを開けた。
──数分後、レコーディングスタジオ。
ミライがマイクの前に立つ。
シュンが機材の前に座り、指示を出す。
「ミライ、思いっきり歌え。」
「シュン、正解なんて求めないで演奏してね」
ミライは深く息を吸い込み、目を閉じる。
シュンはその様子を見て集中力を高める。
そして、ミライはゆっくりと歌い始めた。
シュンのギターとミライの声が重なり合う瞬間、空気が弾けたような感覚があった。
誰もが息をのむ「音楽」は、ここにあった。
「……これが、私たちの音。」
ミライが呟く。
シュンが静かに頷いた。
「俺も……自由になってみるよ。」
シュンの中で何かが変わった。
抑制された子供時代の記憶と、歌声をなくしたあの日の悔しさを打ち破り、音に魂が宿った。
今までとは違う──自由な音が広がっていく。
シュンは笑った。
「これだよ!これが俺たちの音楽だ!」
ミライも笑う。
「うん!私たちの音楽!」
こうして、二人の音楽が、ようやく一つに溶け合った。
…… そして、メジャーデビューへの道が、静かに動き出す──。
(第8話へ続く)
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