42 / 59
第2章
43.ジュスタンが倒れたそうです
しおりを挟む確かにレティシアはバンジャマン達を地獄に堕としたいとずっと思っていた。
ただその事を他人に協力してもらうとは思っていなかった。リュシリュー公爵家の大きさは身をもって知っていたから、無傷でいられないと分かっていたから。
巻き込みたくなかった。けれどレティシアの為に怒り、心配してくれる人がいる。
それに亡命のために協力してくれている時点で、既に巻き込んでいるのだ。それならば、レティシアが主導で動けば守ることが出来る。覚悟を決めるべきだ。
「ええ、わたくし、覚悟が足りなかったようです。改めてわたくし、覚悟を決めましたわ」
レティシアはバンジャマン達に復讐したいと言いながら、無意識のうちに復讐に対して恐怖を抱いていたのかもしれない。
「嬉しいです。私、レティシア様を甘やかす事にしているので、ようやくと言ったところです」
「お嬢様を甘やかす人は、何人いてもいいですからね」
「……甘やかされすぎだと思うのですが」
レティシアはロチルド商会に行く時は、利用されに行くような心積もりだったのだ。自身の出自を考えれば、相手に対してデメリットが大きくなると分かっていたから。
なのに、目の前の人たちは、レティシアを労ってここまで動いてくれている。
「何度だって言いますが、お嬢様は今まで頑張りすぎているんです。これから甘やかされたって、今までの甘えを取り戻しているだけですよ」
「ルネさんの言うとおりです。レティシア様は甘えることを覚える必要がありそうですね」
ルネとセシルの言葉に、胸がむず痒くなるのを感じる。
それを誤魔化すように、諸々の計画を立てるのだった。
◇◇◇
亡命先の最終決定は、クロード達が先方に連絡を取ってから決めることになった。一旦待機である。
レティシアの周囲は家・学園含め、概ね平和である。ストレスが溜まることは、相変わらず日々発生しているが。
あしらうのも慣れて来てしまい、向こうも疲弊しているようだった。ざまあみろとしか思わない。
(と言うか、わたくしのやり返していることなんて、アイツらにやられてきたことより全然優しいものだわ。なのにこの程度で疲弊するなんて、なんて情けないのかしら。自分がやられたら耐えられないことを他人にやるなんて、頭がイカれているわ)
撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけだ、という前世の格言を思い出す。バンジャマン達には、その人物の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
そんな折、俄かに屋敷が騒がしくなった。レティシアの方には何も来ないので、関係ないようなので放っておく。
巻き込まれたら、それこそ面倒臭いしストレスだ。
そう思い、部屋で亡命・復讐計画について考えていると、扉がノックされる。
この音はジョゼフだ。大体ルネがいる時に来ることが多いので、珍しい。
「どうぞ」
「失礼します、お嬢様」
「珍しいわね。どうしたの?」
「外が煩いので、私も避難しに来ました」
「まあっ!」
ジョゼフの言葉に、吹き出してしまう。全く予想出来なかった。
「だったらルネも巻き込まれているんでしょう? 一緒に連れてきてあげれば良かったのに」
笑いながら言うと、ジョゼフも笑いながら答えた。
「ええ。思いきり巻き込まれてましたね。逃げようとしてましたが、捕まっていました」
「そんなに大きな騒ぎなのね。もしかして、何か告発でも受けたのかしら?」
「残念ながら違います。ここまで騒ぐ必要もないのに、大騒ぎですよ。ルネは本当にとばっちりです。たまたま近くを通りかかってしまったんですから」
「そこまで見ていたのに、助けられなかったのね」
「私も巻き込まれていた側ですから」
巻き込まれていたのに、よく躱せたなと笑ってしまう。
ジョゼフも最近は公爵達に、距離をとるようになったのでそれもあるだろう。それにもバンジャマン達は絶望していたらしいから笑える。
それよりもジョゼフが頑なに騒動の原因を話さないのが気になってきた。
十中八九、騒動の中心はバンジャマンかジュスタンだと思うのだが、言ってこないのはジョゼフの優しさであろう。
今もこうしてここに居るのは、レティシアが巻き込まれないようにするためなのかもしれない。
聞かない方がいいと分かっているのに、聞きたくなってしまうのは人間の性か。
「聞かない方がいいのだろうけど、何があったのかしら?」
「……ジュスタン様が倒られました」
「あら、そう。命に関わるの?」
「いいえ」
「では確かに聞かなくても良かったわね。わざわざありがとう」
さすがに命の危機なら見舞いの一つ行ったかもしれないが、そうでないならどうでもいい。
「ところでジョゼフ。ルネから亡命のことは聞いているかしら?」
「いえ、タイミングが合わなかったもので」
「そう。まだ確定ではないけれど、良い国があるわ。……それから亡命した後は、セシルさんの提案で恐らくしばらく休養することになりそうなの」
「それは良うございました。お話で聞くだけですが、セシルさんはお優しい方ですね」
「ジョゼフまで、賛成している……」
「当然でしょう? お嬢様はしばらく何もせずのんびりされた方がいいと思います。何せずっと走りっぱなしなのですから」
そういわれるとやはり、むず痒い。当事者だから大丈夫と思っているのか、レティシアが思うより自分は大変らしい。
その時、再び扉がノックされる。ルネだ。無事に逃げられたらしい。
「失礼しまあす……お嬢様、ジョゼフさんも。厨房からスイーツを拝借してきたので、食べましょう。疲れました」
押してきたワゴンの上には、お茶とスイーツが載っている。
「ルネ、最近お茶とか持ってきているけれど、怒られないの?」
「大丈夫ですよ。最初嫌な目で見られましたが、旦那様が自分達と同等に接しろと言っていたと脅せば問題ないです。それだけは感謝してあげてもいいですかね」
「いえ、そもそもの元凶が旦那様なので、感謝する必要はないですよ」
「それもそうでした」
ルネは慣れた手付きでお茶を用意する。この部屋にはソファなんて物はない。机と椅子もレティシアの分だけだ。
「流石にソファくらいは必要ね。折角一緒に食べるのに、2人は立たせたままな申し訳ないわ」
「私は構いませんが、確かにソファはあると便利です。手配しておきましょう」
ジョゼフが頼もしい。仕事も早いので、そこまで待たずに来るだろう。
お願いね、とレティシアが頼んでいると、ルネが既にお菓子を摘みながら言った。
ちゃんと3人分(レティシアの分だけ多め)に取り分けながら言う。
「お優しいですね。私、そのおかげで自分がお嬢様と一緒に食べるの、慣れてしまったんですけど」
「1人で食べたり飲んだりするのも、味気ないじゃない? あ、味覚ないから味気ないのは変わりなかったわ」
「その自虐は笑えないんですが」
ルネは苦笑いする。現在進行形でストレスが蓄積する一方なので、味覚が戻るのはまだまだ先になりそうだ。
レティシアだって、早くスイーツの甘さやお肉の味などを思う存分味わいたい。
亡命しても戻るのは先になりそうだなあと、遠い目になってしまう。
3人でスイーツを食べていると、段々騒がしいのが近づいてくる。
折角楽しい時間なのに、水を刺されそうだ。
ジュスタンが倒れたと言っていたから、何かしらこっちにも飛び火しそうだなと予想はしていたが。
するとジョゼフが扉の方に行く。
「さて、私は長居してしまいましたね。今から来るものをついでに追い払っておきますので、お嬢様とルネはゆっくりしていてください」
「申し訳ないわね」
「何のこれしき。では失礼します」
そう言うとジョゼフは部屋から出て行った。恐らくジョゼフは最初からこれをするために、レティシアのところへ来たのだろう。
途中から騒がしい声が静かになった。
「ジョゼフには世話をかけるわね」
「大丈夫です。それに私には止められないので、適材適所ですよ」
「ルネも巻き込まれていたと聞いたけど、大丈夫だったの?」
「大変ではありましたが、大丈夫でしたよ。全く、恥知らずですよね、ジュスタン様って」
「全部は聞いていないけれど、何? もしかして羞恥のあまり倒れたの?」
ジュスタンの自業自得のような言い方をするルネ。その様子から想像してしまったが、羞恥で倒れるなんてどこの令嬢だと言いたくなる。
多分違うだろうけれど。
「そうであれば、逆に親近感湧きそうですね。いえ、やっぱりないです」
「どっちなの」
ルネの手のひら返しに笑ってしまう。
「大したことではないですよ。私でもその程度でと思ってますから」
「そうなの。まあしばらく大丈夫なら放っておきましょう。どうせいやでもしばらくしたら、詳細がわかるでしょうし」
「その方がいいです。お嬢様は私とジョゼフさんが守りますから」
「頼もしいわ。お願いね」
そして案の定、次の日にジュスタンが倒れた原因を知ることになるのだった。
25
あなたにおすすめの小説
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜
As-me.com
恋愛
事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。
金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。
「きっと、辛い生活が待っているわ」
これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。
義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」
義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」
義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」
なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。
「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」
実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!
────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)
凪ルナ
恋愛
転生したら乙女ゲームの世界でした。
って、何、そのあるある。
しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。
美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。
そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。
(いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)
と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。
ーーーーー
とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…
長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。
もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる