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第一章 修復の絆編【第一話】
偉大なる魔術師と見捨てられた少女②
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ユーリは心優しい少年だ。この国の皇子としての教養もあり美しさも兼ね備えている。きっと将来、国民達を正しく導いてくれる皇帝となるのだろう。けれど…。
(ユーリ殿下は、原因はいつも私にあると考えている)
ルクレツィアにとって、聖君だろうがなんだろうがそんなことはどうでもいいことなのだ。彼にノーマンだと嘲られた事はないが、庇ってもらったこともない。
ユーリが手を差し伸べてくれるのは、いつだってルクレツィアが傷付いた後だ。自分が笑われている間、ユーリはただの傍観者となる。
優しいけれど、優しくない。それがルクレツィアにとってのユーリだった。
「…この辺りで結構です」
「……うん、そっか」
ルクレツィアが手を離すと、ユーリは少し安堵した様子だった。
「屋敷まで送ってあげられなくてごめんね。僕がパーティーホストだから、抜けることは出来なくて…」
「いえ。ここまでエスコートして頂きありがとうございました」
ルクレツィアは丁寧にお辞儀をしてユーリと別れる。そして、暫くして到着した馬車に乗り込み、自分の屋敷に帰っていった。
(…今頃、皆はパーティーで楽しく過ごしているのかな)
ルクレツィアは、自分の泣きべそな目に苛立ちながら涙を拭ったのだった。
屋敷に到着したルクレツィアの姿を見た門番は、挨拶することなく静かに扉を開いた。
ルクレツィアはそのまま敷地内へと入り、そして屋敷の扉を開く。玄関ホールでは使用人達が動き回るいつもの光景だった。
皆、ルクレツィアにチラリと視線を送るが話しかける者はいない。使用人にさえ馬鹿にされ見下されているのだ。それがルクレツィアの当たり前だった。
最低限の衣食住は提供してくれるから、ルクレツィアも何も言わずに使用人達の無礼を傍観している。
ルクレツィアは真っ直ぐ二階にある自室へと向かい、到着すると勢いよく扉をしめて、大きく深呼吸をした。
自室の中だけが、ルクレツィアが唯一ちゃんと呼吸出来る場所だった。本当は部屋に引きこもっていたいけれど…ただでさえノーマンなのに、そんな事をしてクラウベルクの名に泥を塗ったら本当に捨てられるかもしれない。
ルクレツィアはトボトボと歩き大きなベッドの脇に立つと、ぽすっとダイブするように体をベッドへ預けた。その時——。
——ガサ、と窓の外で木の葉が揺れる音がした。
「……?」
ルクレツィアは疲れた顔をベッドから上げて、音の正体が気になりベランダへと出る。下を覗き込んでみたが、誰もいなかった。
「…気のせい…?」
と、ルクレツィアが呟くと…ポタ、と上から何やら赤い液体が滴り、ちょうどルクレツィアの鼻先にその液体が落ちてきたのだ。
「!?」
驚いて上を見上げるルクレツィア。
そこには、手負いした様子の小さな黒い竜が木の枝に引っかかっていたのだった。
「え!?」
初めて目撃した竜にルクレツィアは思わず小さな叫び声を上げる。
この世界には、人間以外の種族もたくさん住んでいてエルフはたまに見かけるけれど、竜はとても珍しい。
ルクレツィアの住むこの国は人間が統べる魔術師の国だが、世界には獣人の国や魚人達の地底湖の国もあるらしい。
その中でも竜は魔族にカテゴライズされる種族で、人間では辿り着けないような瘴気に包まれた未開の地に竜の国があるという。なんでも遥か昔、何千年も昔の時代で魔王が統べていた国だとか。
そんな中、竜と貴重な出会いを果たしたルクレツィアは驚きのあまり固まっていたが、すぐに竜が怪我していることを思い出して赤子ほどの大きさの竜を助けてやろうと手を伸ばした。
ベランダの塀に足をかけて、恐ろしいので下を見ないように黒竜に手を伸ばす。
すると竜の目がパチリと開いて、真っ黒な瞳がルクレツィアの姿を映した。
グル…、と小さな唸り声をあげる竜。
「手当てしてあげるだけだから…降りておいでよ」
ルクレツィアが両手を伸ばして声を掛けるが、竜は上体を起こすと彼女の手が届かないところに身を寄せた。
腕が痺れてきたのを感じて、ルクレツィアは一度部屋に戻ろうと視線を下に向けた時、ぐらりとバランスが崩れてルクレツィアの体はベランダの向こう側へと傾いた。
ここは二階だ。まだ小さなルクレツィアが下に落ちたら、怪我だけでは済まないだろう。
ルクレツィアの頭からサァッと血の気が引き、何処かへ掴まろうと腕をバタつかせるが届かず…。
いよいよ体の半分がベランダの塀から向こう側へ出た時に、何かがぱしりとルクレツィアの腕を掴んでこれ以上傾くのを阻止してくれた。
「あぶないぞ!」
ルクレツィアがガクガクと震えながら腕の先に目をやると、そこには見知らぬ少年がいた。焦った表情で木の枝の上から身を乗り出してルクレツィアの腕を掴んでいる。
「た、たすけ…」
ルクレツィアの怯える声に少年は仕方なさそうな様子で彼女の腕を持ち上げるように引き寄せて、あっという間にルクレツィアを抱きかかえてしまった。
そして身軽に木の枝から降りると、ベランダでルクレツィアを下ろす。片腕で自分と同じくらいの身長のルクレツィアを軽々と持ち上げるなんて凄い力だ。
ルクレツィアは驚きのあまり、落ちそうになっていた恐怖はすっかり何処かへ飛んでいき、目の前に立つ少年に目を向ける。
黒髪に黒い瞳の少年は至る所に怪我をしているらしく、血が滴っている。
「もしかして、君は…」
ルクレツィアは確信していた。
「さっきの黒い竜?」
(ユーリ殿下は、原因はいつも私にあると考えている)
ルクレツィアにとって、聖君だろうがなんだろうがそんなことはどうでもいいことなのだ。彼にノーマンだと嘲られた事はないが、庇ってもらったこともない。
ユーリが手を差し伸べてくれるのは、いつだってルクレツィアが傷付いた後だ。自分が笑われている間、ユーリはただの傍観者となる。
優しいけれど、優しくない。それがルクレツィアにとってのユーリだった。
「…この辺りで結構です」
「……うん、そっか」
ルクレツィアが手を離すと、ユーリは少し安堵した様子だった。
「屋敷まで送ってあげられなくてごめんね。僕がパーティーホストだから、抜けることは出来なくて…」
「いえ。ここまでエスコートして頂きありがとうございました」
ルクレツィアは丁寧にお辞儀をしてユーリと別れる。そして、暫くして到着した馬車に乗り込み、自分の屋敷に帰っていった。
(…今頃、皆はパーティーで楽しく過ごしているのかな)
ルクレツィアは、自分の泣きべそな目に苛立ちながら涙を拭ったのだった。
屋敷に到着したルクレツィアの姿を見た門番は、挨拶することなく静かに扉を開いた。
ルクレツィアはそのまま敷地内へと入り、そして屋敷の扉を開く。玄関ホールでは使用人達が動き回るいつもの光景だった。
皆、ルクレツィアにチラリと視線を送るが話しかける者はいない。使用人にさえ馬鹿にされ見下されているのだ。それがルクレツィアの当たり前だった。
最低限の衣食住は提供してくれるから、ルクレツィアも何も言わずに使用人達の無礼を傍観している。
ルクレツィアは真っ直ぐ二階にある自室へと向かい、到着すると勢いよく扉をしめて、大きく深呼吸をした。
自室の中だけが、ルクレツィアが唯一ちゃんと呼吸出来る場所だった。本当は部屋に引きこもっていたいけれど…ただでさえノーマンなのに、そんな事をしてクラウベルクの名に泥を塗ったら本当に捨てられるかもしれない。
ルクレツィアはトボトボと歩き大きなベッドの脇に立つと、ぽすっとダイブするように体をベッドへ預けた。その時——。
——ガサ、と窓の外で木の葉が揺れる音がした。
「……?」
ルクレツィアは疲れた顔をベッドから上げて、音の正体が気になりベランダへと出る。下を覗き込んでみたが、誰もいなかった。
「…気のせい…?」
と、ルクレツィアが呟くと…ポタ、と上から何やら赤い液体が滴り、ちょうどルクレツィアの鼻先にその液体が落ちてきたのだ。
「!?」
驚いて上を見上げるルクレツィア。
そこには、手負いした様子の小さな黒い竜が木の枝に引っかかっていたのだった。
「え!?」
初めて目撃した竜にルクレツィアは思わず小さな叫び声を上げる。
この世界には、人間以外の種族もたくさん住んでいてエルフはたまに見かけるけれど、竜はとても珍しい。
ルクレツィアの住むこの国は人間が統べる魔術師の国だが、世界には獣人の国や魚人達の地底湖の国もあるらしい。
その中でも竜は魔族にカテゴライズされる種族で、人間では辿り着けないような瘴気に包まれた未開の地に竜の国があるという。なんでも遥か昔、何千年も昔の時代で魔王が統べていた国だとか。
そんな中、竜と貴重な出会いを果たしたルクレツィアは驚きのあまり固まっていたが、すぐに竜が怪我していることを思い出して赤子ほどの大きさの竜を助けてやろうと手を伸ばした。
ベランダの塀に足をかけて、恐ろしいので下を見ないように黒竜に手を伸ばす。
すると竜の目がパチリと開いて、真っ黒な瞳がルクレツィアの姿を映した。
グル…、と小さな唸り声をあげる竜。
「手当てしてあげるだけだから…降りておいでよ」
ルクレツィアが両手を伸ばして声を掛けるが、竜は上体を起こすと彼女の手が届かないところに身を寄せた。
腕が痺れてきたのを感じて、ルクレツィアは一度部屋に戻ろうと視線を下に向けた時、ぐらりとバランスが崩れてルクレツィアの体はベランダの向こう側へと傾いた。
ここは二階だ。まだ小さなルクレツィアが下に落ちたら、怪我だけでは済まないだろう。
ルクレツィアの頭からサァッと血の気が引き、何処かへ掴まろうと腕をバタつかせるが届かず…。
いよいよ体の半分がベランダの塀から向こう側へ出た時に、何かがぱしりとルクレツィアの腕を掴んでこれ以上傾くのを阻止してくれた。
「あぶないぞ!」
ルクレツィアがガクガクと震えながら腕の先に目をやると、そこには見知らぬ少年がいた。焦った表情で木の枝の上から身を乗り出してルクレツィアの腕を掴んでいる。
「た、たすけ…」
ルクレツィアの怯える声に少年は仕方なさそうな様子で彼女の腕を持ち上げるように引き寄せて、あっという間にルクレツィアを抱きかかえてしまった。
そして身軽に木の枝から降りると、ベランダでルクレツィアを下ろす。片腕で自分と同じくらいの身長のルクレツィアを軽々と持ち上げるなんて凄い力だ。
ルクレツィアは驚きのあまり、落ちそうになっていた恐怖はすっかり何処かへ飛んでいき、目の前に立つ少年に目を向ける。
黒髪に黒い瞳の少年は至る所に怪我をしているらしく、血が滴っている。
「もしかして、君は…」
ルクレツィアは確信していた。
「さっきの黒い竜?」
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