悪役令嬢は最強パパで武装する

リラ

文字の大きさ
14 / 80
第一章 修復の絆編【第二話】

竜と皇子の見解の相違②

しおりを挟む
「あのさぁ、さっきから話を聞いてたけどよ…」

 突然、竜が話し始めたので皇后やオルク伯爵たちはとても驚き目を丸くした。

 ヴィレンはぴょんとルクレツィアの腕の中から飛び出ると、人型となりその場に着地する。

 まさか竜が人になるとは思わず、あまりの驚きように四人は言葉を失っている。そんな中、オルク伯爵令嬢はヴィレンの人型の姿に目を奪われたようで頬を赤く染めていた。

「こいつはお前たちの言う魔力なしノーマンじゃないし、皇太子妃にはなんねーよ?」

 そう言って、ルクレツィアの肩を抱き寄せるヴィレン。まるで自分はお前の味方だと言ってくれているみたいで、ルクレツィアは顔を上げて隣のヴィレンを見上げた。

 ヴィレンの言葉に引っ掛かりを感じたのか、今まで傍観しているだけだった筈のユーリがムッとした表情を浮かべて言う。

「ルクレツィア嬢は皇子である僕の婚約者です。彼女から離れて適切な距離を保ってください」

 するとヴィレンは真顔になり首をコテンと傾けると、ルクレツィアの頭に自分の頭をくっつけて更に距離を縮めた。

「おい、ルーシー。信じられない話だが…もしかして、あいつがお前の婚約者なのか?」
「え? うん…」

 ヴィレンの近すぎる距離にルクレツィアは少し顔を赤らめて戸惑いながらも答える。
 彼の不躾な態度にユーリが再び口を開こうとした時、突然ヴィレンに指を差された。

「お前に、ルーシーの婚約者の資格はないぜ」
「……は…?」

 ユーリは心の中が騒めいて、目眩がした。これが怒りなのだと、すぐに気付く。

「婚約者って未来の伴侶のことだろ? その伴侶が馬鹿にされて笑われてる間、お前はそこで何してんだよ」

 ヴィレンの言葉が思いがけなかったようでユーリは目を大きく開く。

「なんで、そこに突っ立って見ているだけなんだ? お前こそ婚約者の自覚はあんのか、皇子様よぉ?」

 ヴィレンの態度は物凄く悪いけれど、それでもルクレツィアは嬉しかった。ボロ、と、ついに我慢していた涙がこぼれ落ちてしまう。

「ルーシー、あんな奴らのせいで泣くんじゃねぇ! なんか俺が腹立つ!」

 顔を顰めるヴィレンに、ルクレツィアは止まらない涙をそのままに笑顔を浮かべた。

「ううん、この涙はもう…ヴィレンのおかげで嬉し涙に変わったわ」

 するとヴィレンは「ふぅん」と相槌を打ち、どこか嬉しそうな様子だった。



 ユーリは何故自分が婚約者として不適合だとこの竜に言われているのか、よく理解出来なかった。

 婚約者が笑われている?

(だってルクレツィア嬢がノーマンなのは事実だし…)

 確かに言い方はあまり良くなかったのかもしれないが、オルク伯爵の言うことは正しい。

 この魔法文化の発展した国で、魔法が使えない者が皇子の婚約者となり皇太子妃を約束された輝かしい未来を掴めているのも、全ては偉大な魔術師を父に持つおかげではないか。

 ルクレツィア・クラウベルク公爵令嬢は美しいが影のある少女だ。いつも俯き、独りで、周りから嫌われている。

 ユーリの本心を言うと、彼は魔力なしノーマンに対して嫌悪感などは持っていなかった。相手がルクレツィアだったからなのかは、分からないけれど…でも、少なからずルクレツィアに嫌悪は無かった。それよりも…。

(可哀想だな…)

 魔法が使えないノーマンに生まれて、と思っていた。

 きっとルクレツィアはこれからも独りだ。父親からの関心もないようだし、ずっと独り。だから自分が彼女を慰めて、優しく接してあげようと思った。

(あの子は僕がいないと独りぼっちなんだ)

 自分なら、あの子の側にいて。何故なら、あの子はユーリの婚約者だから。それって、あの子が将来、ユーリのものになるってことでしょ?

 ユーリは心優しい少年だ。皆に嫌われるノーマンにも変わらず優しさを向けることが出来るのだ。

(僕が側にいてでしょう? 優しくしてでしょう? それなのになぜ…)

 今、ルクレツィアの隣には自分以外の男が立っているのだ。

 ユーリはヴィレンに可愛い笑顔を向けるルクレツィアの姿を信じられない気持ちで眺めていた。

(僕にはそんな笑顔、一度だって見せなかった…)

 これがショックなのか。ユーリは頭の奥で重たい何かがぐわんぐわんと揺れるような感覚に陥った。

「無礼者!」

 怒りで顔を赤くしたアネッサが、ヴィレンを睨み付けながら叫ぶ。

「この竜を皇族侮辱罪で逮捕するわ!」
「はぁ? 人間が竜族の俺を捕まえられると思ってんの? そんな事が出来る奴なんて……一人くらいしか知らねー」

 昨日、まんまとディートリヒに捕えられたことを思い出したヴィレンだった。

「ルクレツィア様!」

 ずっと黙っていたオルク伯爵令嬢が怒った表情でルクレツィアの名を呼んだ。

「躾くらいちゃんとしたらどうなんです? これだからノーマンは! こんな多大な無礼を皇后陛下や皇子殿下に働いて…帝国の恥です!」

 伯爵令嬢の言葉にルクレツィアは怒りのあまり言葉を失ってしまった…その時。

「誰なんだ、この躾のなっていない子供は…」

 皇帝を引き連れたディートリヒがこの場に現れる。その瞬間、空気が凍り付いた。

 先程まで強気な態度だった伯爵令嬢は勢いを失って青褪めており、ディートリヒはオルク伯爵を一瞥すると再びその娘に目を向けた。

「オルク伯爵。子供の躾くらいちゃんとしたらどうなんだ? 帝国の恥だぞ」
「ひっ…」

 ディートリヒの鋭い青紫色の眼光に伯爵令嬢は首を絞められた鳥の鳴き声のような声で小さく叫ぶ。

 今しがたのオルク伯爵令嬢の言葉に返すように、ディートリヒが静かに言うと伯爵は「申し訳ありません!」と、ブルブルと震えながら慌てて娘の頭を鷲掴みにして無理やり頭を下げさせた。

 そんな無価値な謝罪は無視してディートリヒはルクレツィアに向き直る。

「ルクレツィア、待たせたな」

 そう言って彼女を抱き上げては優しく微笑むディートリヒに、この場にいる全員が驚きを隠せなかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

出来損ないと虐げられた公爵令嬢、前世の記憶で古代魔法を再現し最強になる~私を捨てた国が助けを求めてきても、もう隣で守ってくれる人がいますので

夏見ナイ
ファンタジー
ヴァインベルク公爵家のエリアーナは、魔力ゼロの『出来損ない』として家族に虐げられる日々を送っていた。16歳の誕生日、兄に突き落とされた衝撃で、彼女は前世の記憶――物理学を学ぶ日本の女子大生だったことを思い出す。 「この世界の魔法は、物理法則で再現できる!」 前世の知識を武器に、虐げられた運命を覆すことを決意したエリアーナ。そんな彼女の類稀なる才能に唯一気づいたのは、『氷の悪魔』と畏れられる冷徹な辺境伯カイドだった。 彼に守られ、その頭脳で自身を蔑んだ者たちを見返していく痛快逆転ストーリー!

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 不定期更新になります。  

処理中です...