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第一章 修復の絆編【第三話】
皇子の未練
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「……あの黒髪…竜の…」
オルク伯爵令嬢がポツリと呟いた言葉をエリーチカは聞き逃さなかった。
「伯爵令嬢! あの少年を知っているの!?」
「あっ…!」
エリーチカが詰め寄ると、オルク伯爵令嬢はしまった。といった顔をして目を逸らす。
「…彼はヴィレン。竜族の少年だよ」
オルク伯爵令嬢の代わりにユーリが答える。
「ルクレツィア嬢とは愛称呼びを許すほどに仲が良いらしい」
そして、捨てられた男のような惨めな表情でユーリが言った。
『竜』。そういえば、エリーチカの父親が話していたことを思い出す。
どうやらクラウベルク公爵が竜を手なづけたらしい。まだ子どもだが、成長すれば公爵の…ひいては帝国の大きな力となるだろう——と。
(竜ってあの恐ろしく大きなトカゲのことでしょ? 公爵のペットなんて気にもしていなかったのに…)
エリーチカはヴィレンを見る。滅多に見かけることのない竜族のことを人間はよく知らない。彼らが人の姿を持っているなど、聞いたこともなかった。
(あんなに美しい人が、その『トカゲ』だって言うの!?)
そして、エリーチカはオルク伯爵令嬢に向き直ると、キッと睨み付けた。
何故、この令嬢は竜を認識していながら自分に話さなかったのか…意図的に情報を伏せたのか。伯爵令嬢のくせに自分を欺こうとしたその行動が許せなかった。
ルクレツィアがエリーチカの姿を見つけ、ディートリヒと別れるとヴィレンと共に彼女たちの元へと近付いた。
「エリーチカ公女様。この度はお招きいただき、ありがとうございます」
澄まし顔でカーテシーをするルクレツィア。エリーチカは突然のことで、口元をヒクヒクとさせながら挨拶を交わした。
エリーチカは、ルクレツィアの隣に立ちこちらを冷めた目で見てくる竜族ヴィレンにチラリと目を向ける。
見惚れるほどに美しい…が、ルクレツィアと同じ色をした瞳の瞳孔は獣のそれと同じで縦長だった。
(…やはり、この人は竜なんだわ…!)
ヴィレンに恐怖心を抱いたエリーチカは目を逸らすように深くお辞儀をする。
「い、いらっしゃい。今日は楽しんでいかれてね」
そして顔を上げると何とか笑顔を浮かべながらそう言って、エリーチカは友人たちを連れてその場から退散するように去って行ったのだった。
残されたルクレツィアとヴィレン、そしてユーリ。
「先日ぶりだね、ルクレツィア嬢」
「あ、はい。その際はお時間を頂きありがとうございました、ユーリ殿下」
二人の言う『先日』とは、出来上がった婚約解消の認可書にサインをした日のことだ。
父親から婚約解消のことを告げられた時は、ユーリも驚き混乱したことで取り乱してしまったが、今落ち着いて考えればそこまで状況は悪くないことに気が付いた。
(親に決められていた婚約を解消しただけ。僕たちはまだ子供で、これからたっぷりと時間はあるのだからやり直せるはずだ)
そう前向きに捉えていた。
ユーリはヴィレンを見る。すぐにユーリの視線に気付いたヴィレンは「なんだよ」と顔を顰めていた。
(それに竜族と…人間が結婚することなんて不可能だ。僕たちとは種族が違うんだから)
ルクレツィアの側で馴れ馴れしく侍るヴィレンには腹が立つが、二人には種族の壁というものがある。万が一にも結ばれることはあり得ない。
だからユーリは、せいぜいそうやってルクレツィアの側にいて彼女を守っておけば良いとヴィレンに対して思っていた。
(…僕と彼女が結ばれる、その日まで君に彼女を預けるよ)
ルクレツィアは公爵令嬢だから、『結婚』からは逃れられない。最後に自分の元へ戻ってくればそれでいいと、ユーリは自分にそう言い聞かせた。
オルク伯爵令嬢がポツリと呟いた言葉をエリーチカは聞き逃さなかった。
「伯爵令嬢! あの少年を知っているの!?」
「あっ…!」
エリーチカが詰め寄ると、オルク伯爵令嬢はしまった。といった顔をして目を逸らす。
「…彼はヴィレン。竜族の少年だよ」
オルク伯爵令嬢の代わりにユーリが答える。
「ルクレツィア嬢とは愛称呼びを許すほどに仲が良いらしい」
そして、捨てられた男のような惨めな表情でユーリが言った。
『竜』。そういえば、エリーチカの父親が話していたことを思い出す。
どうやらクラウベルク公爵が竜を手なづけたらしい。まだ子どもだが、成長すれば公爵の…ひいては帝国の大きな力となるだろう——と。
(竜ってあの恐ろしく大きなトカゲのことでしょ? 公爵のペットなんて気にもしていなかったのに…)
エリーチカはヴィレンを見る。滅多に見かけることのない竜族のことを人間はよく知らない。彼らが人の姿を持っているなど、聞いたこともなかった。
(あんなに美しい人が、その『トカゲ』だって言うの!?)
そして、エリーチカはオルク伯爵令嬢に向き直ると、キッと睨み付けた。
何故、この令嬢は竜を認識していながら自分に話さなかったのか…意図的に情報を伏せたのか。伯爵令嬢のくせに自分を欺こうとしたその行動が許せなかった。
ルクレツィアがエリーチカの姿を見つけ、ディートリヒと別れるとヴィレンと共に彼女たちの元へと近付いた。
「エリーチカ公女様。この度はお招きいただき、ありがとうございます」
澄まし顔でカーテシーをするルクレツィア。エリーチカは突然のことで、口元をヒクヒクとさせながら挨拶を交わした。
エリーチカは、ルクレツィアの隣に立ちこちらを冷めた目で見てくる竜族ヴィレンにチラリと目を向ける。
見惚れるほどに美しい…が、ルクレツィアと同じ色をした瞳の瞳孔は獣のそれと同じで縦長だった。
(…やはり、この人は竜なんだわ…!)
ヴィレンに恐怖心を抱いたエリーチカは目を逸らすように深くお辞儀をする。
「い、いらっしゃい。今日は楽しんでいかれてね」
そして顔を上げると何とか笑顔を浮かべながらそう言って、エリーチカは友人たちを連れてその場から退散するように去って行ったのだった。
残されたルクレツィアとヴィレン、そしてユーリ。
「先日ぶりだね、ルクレツィア嬢」
「あ、はい。その際はお時間を頂きありがとうございました、ユーリ殿下」
二人の言う『先日』とは、出来上がった婚約解消の認可書にサインをした日のことだ。
父親から婚約解消のことを告げられた時は、ユーリも驚き混乱したことで取り乱してしまったが、今落ち着いて考えればそこまで状況は悪くないことに気が付いた。
(親に決められていた婚約を解消しただけ。僕たちはまだ子供で、これからたっぷりと時間はあるのだからやり直せるはずだ)
そう前向きに捉えていた。
ユーリはヴィレンを見る。すぐにユーリの視線に気付いたヴィレンは「なんだよ」と顔を顰めていた。
(それに竜族と…人間が結婚することなんて不可能だ。僕たちとは種族が違うんだから)
ルクレツィアの側で馴れ馴れしく侍るヴィレンには腹が立つが、二人には種族の壁というものがある。万が一にも結ばれることはあり得ない。
だからユーリは、せいぜいそうやってルクレツィアの側にいて彼女を守っておけば良いとヴィレンに対して思っていた。
(…僕と彼女が結ばれる、その日まで君に彼女を預けるよ)
ルクレツィアは公爵令嬢だから、『結婚』からは逃れられない。最後に自分の元へ戻ってくればそれでいいと、ユーリは自分にそう言い聞かせた。
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