悪役令嬢は最強パパで武装する

リラ

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第一章 修復の絆編【第三話】

燃え盛る竜の咆哮

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「……ヴィレン…」

 ルクレツィアは目から涙を溢れさせながら大切な友人の名を呼ぶ。

「ルーシー、お前を泣かせたのは誰だ?」

 そう地の底を這うような声で言ったヴィレンの顔には、ビキビキと竜鱗が浮き出てきていた。

 竜は他人の魔力を奪い、自分のものにする力がある。この踊り狂うように燃え盛る炎はヴィレンの仕業だった。

「全員、俺が嬲り殺してやる!」

 そう雄叫びを上げる彼の後ろでは、彼の怒りに呼応するように巨大な火柱が空高くに立ち昇っていった。

 景色が揺らぐ程の高熱が発せられ、後ろに広がる立派な池が一瞬にして蒸発し干からびていく。大量の水蒸気が空に昇っていく中、ヴィレンの口から火が吹かれた。

 初歩魔法どころか高位魔法並みの威力である火柱レーザーがエリーチカの目の前を走り抜けて薔薇の花壇に穴をあける。エリーチカはあまりの恐怖に、へたり…とその場に座り込んだ。

「知ってるか? 竜はなぁ…火を吹くんだ。それも灼熱の炎を。お前ら、覚悟は出来てんだよなぁ?」

 薔薇の楽園があっという間に燃え盛り、地獄と化していた。もうエリーチカや子ども達では収拾を付けられない。この竜の怒りの治め方など、自分達は知らない…!

「ば…化け物…」

 エリーチカは絶望するように呟いた。

 ヴィレンの手は変形していき竜の鉤爪が生えていく。人型を何とか保とうとするヴィレンだったが、怒りから理性を失いそうで少しずつ竜化していった。

 人の姿よりも竜の姿の方が本領発揮出来るヴィレンは、だからこそ理性を保つためにも何とか人型を保とうとしていた。

 ヴィレンの怒りで赤く染まる視界の中に泣いているルクレツィアが見える。彼女が泣いている姿を見るだけで…駄目だ…もう…制御、出来ない…。半人半竜の姿からより一層、恐ろしい獣の姿へと変わっていくヴィレン。

 エリーチカは真っ青な顔でそんなヴィレンを呆然と見つめていた。ふと、彼女の脳裏に幼い頃に母から聞かされた御伽話のような話を思い出す…。

(…かつて、何千年も前に世界を滅ぼそうとした魔王も、竜だったと聞いた…)

 きっとその魔王の姿も、目の前にいるヴィレンのように怒りに満ちた、そして禍々しく恐ろしい姿をしていたのだろう。

 エリーチカは心から後悔した。ルクレツィアに手を出した事で、竜の怒りを買ってしまったことに。

「お前を虐めるこんな国は、俺が滅ぼしてやる——!」

 ヴィレンが咆哮し、そう怒声を上げていたら、こちらに駆け出したルクレツィアがヴィレンに抱き付いてきた。

「ヴィレン…うえ、えぇえん…!」

 ルクレツィアはただ、自分の味方であるヴィレンに泣きついただけだったのだが、結果的にヴィレンの正気を取り戻した。

「………」

 燃え盛る炎が弱まっていく。ヴィレンも元の人型の姿に戻っていった。

「ヴィレン、来てくれてありがとぉ…!」

 そう言って、力いっぱいに抱き付きながら泣くルクレツィアをヴィレンも力強く抱き締めた。

「ルーシー…さっきはごめん。俺、お前の気持ち全然考えて無かった…」

 抱き締めたルクレツィアの髪やドレスが濡れて汚れている…ヴィレンは更に過去の自分を責めた。

(俺がルクレツィアを一人にしたから…)

「…次からはずっと一緒にいような」
「うん…!」

 そんな中、燃える薔薇園が凍り付いていく。

(炎の次は氷…もう、一体何なの!?)

 エリーチカが疲れた表情で辺りを見渡すと、完全に鎮火されたところでディートリヒを始めとした大人たちや、ユーリなどその場に居合わせなかった他の子どもたちがやって来た。

 こんな火事騒ぎを起こせば、嫌でも異変に気付く。

「…ヴィレン。やり過ぎだ」

 険しい顔をしたディートリヒがヴィレンを見る。しかし、その目は全く咎めていなかった。

「お、俺は本気なんて出しちゃいねーぞ。こいつらが弱いだけだろ?」

 しまった。と、いった顔で言い訳するヴィレン。周りの子ども達を見れば、服や髪は焦げ、中には火傷を負っている者も…。オルク伯爵令嬢の手なんか、酷く焼き爛れていた。

「どういう事ですか! クラウベルク公爵!」

 中でも声を荒げたのはオルク伯爵だ。泣く娘の手の酷い有り様に、怒りのあまりディートリヒに怒鳴ったのだ。

 ディートリヒは彼を無視してルクレツィアとヴィレンの元へ歩いた。後ろでは、竜の飼い主ならしっかり躾をしろと伯爵が騒いでいる。

「ルクレツィア、大丈夫だったか?」
「お父様…」

 ルクレツィアは涙を流しながら頷いて「ヴィレンが助けに来てくれたから…」と答えた。

 ディートリヒがルクレツィアの涙を丁寧に指で拭っていると、ルクレツィアの白くて細い腕に二箇所、痣が出来ていることに気が付いた。

 手首と、二の腕だ。どれもオルク伯爵令嬢が掴んだ所である。
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