悪役令嬢は最強パパで武装する

リラ

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第一章 修復の絆編【第三話】

公爵令嬢の主張

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「その白い女がルーシーに水を浴びせたんだよ」

 ヴィレンがエリーチカを指差しながら言う。

「そうしたら周りの奴らも笑いながらルーシーに水をかけて…んで、その女がでけぇ火の玉でルーシーに危害を加えようとしたんだ」

 そして次にオルク伯爵令嬢を指差すヴィレン。

 彼はルクレツィアの姿を探すために竜になって上空から薔薇園を見下ろしていた。
 すぐに彼女の姿を見つけたのだが…その一連を見てしまったヴィレンは怒りのあまり、クレーターが出来るほどに勢いよく着地し、その際に地面を割ってしまったのだった。

「な…なに…? 私の娘が、そんな事を…?」

 ヴァイスローズ公爵は青褪めた顔で娘のエリーチカに目を向ける。

 正当防衛を唱えるにしては竜の行いはあまりにも過剰防衛だとは思うが、それにしても自分の娘は無力なノーマンの少女に寄ってたかって魔法を使用したと言うのか…と、その悪質なおこないに信じられない気持ちだった。

(よりにもよって、ディートリヒの娘に…!)

 疑心暗鬼の目を向けてくる父にエリーチカは歯痒い気持ちだった。

 本当はただ、水をかけて馬鹿にするだけのつもりだったのに。そうすれば、水やりの時に誤ってルクレツィアに掛かってしまったという言い訳も立つから。

(それをオルク伯爵令嬢が調子に乗るせいで…こんな大事に…!)

 エリーチカはギリリと奥歯を噛み締めて、何とか自分だけは罪から逃れようと頭をフル回転させた。

「お父様っ、私はただ…皆さんと薔薇の水やりをしようとして事故でルクレツィア公女様にかけてしまっただけなのです…!」

 エリーチカはお得意の気弱そうな表情を作って父に訴えた。

「そうしたらオルク伯爵令嬢が急に悪ふざけを…乾かしてあげるとルクレツィア公女様に火の魔法を使って……あぁ、恐ろしい!」

 あくまでも自分は加害者ではないのだと言い張ったエリーチカ。オルク伯爵令嬢は「えっ」と声をもらした。

「ま、待ってください! 私が火魔法を使っていた時、エリーチカ様も笑ってましたよね!?」

 全ての罪を被せられそうな事態にオルク伯爵令嬢が顔面蒼白にエリーチカに詰め寄ると、彼女は肩を震わせながら父親の胸に縋り付いた。

「私っ、彼女とはずっとお友達だと思っていたけれど…こんな恐ろしい人だったなんて…!」

 エリーチカの白々しい演技にオルク伯爵令嬢の頭に血が昇る。

「エリーチカ様! それはあんまりです! 私は貴女のために——」
「——もういい!」

 叫んだのはヴァイスローズ公爵だった。

「誰がこの事件を引き起こした発端なのかは明白だ…」

 ヴァイスローズ公爵は自分の娘の言葉を信じたい気持ちもあるが、疑ってしまう気持ちもあった。何故なら、信じるも疑うもエリーチカの行動を裏付ける証拠がひとつもないからだ。

 しかし、結果だけを見れば庭園と薔薇は燃えて、子どもたちは火傷を負った…それが竜ヴィレンの仕業だとしても、悪意を持って初めに火魔法を使ったのはオルク伯爵令嬢だ。
 だって、服を乾かすのに普通は火魔法なんて使わない。それは小さな子どもでも分かる事。明らかに故意的な行いだった。

「この罪は徹底的に問わせて貰うから、覚悟しろよ。オルク伯爵!」

 未だ氷付けのオルク伯爵を睨み付けて、ヴァイスローズ公爵はエリーチカを守るように抱き締めた。

 ルクレツィアは全ての責任をこれまでずっと仲良くしてきた友人の一人になすり付けたエリーチカの性根に眉を顰めていた。簡単に友達を裏切り、切り捨てるその浅ましさ…。

(オルク伯爵令嬢は自業自得なところもあるけれど…それでも、信じてた人に裏切られて可哀想…)

 放心状態で涙を流すオルク伯爵令嬢を見て、何故かルクレツィアの方が胸が苦しくなった。

「…おい、事の発端はお前だろ!」

 エリーチカの主張に嫌悪感を露わにしながらヴィレンは強い口調で指摘した。

「仲間を売る気かよ、この…!」
「やめろ、ヴィレン」

 逆上していくヴィレンを制止して、ディートリヒはエリーチカとヴァイスローズ公爵に冷ややかな目を向ける。
 親子は青褪めた表情でこちらを凝視していた。きっと、ヴィレンが暴れ出すのではないかと不安で堪らないのだろう…。

「…ディートリヒ。まさかあの白い女の言葉を信じてねーよな?」
「………あぁ」

 ヴィレンが腹立たしい表情でエリーチカを睨み付けながら言う。

(思うままに力を振るうのは簡単だが…しかしこれ以上の制裁は逆にこちらの立場が悪くなるだけ)

 ディートリヒはルクレツィアを見た。

(俺だけが悪者になるのはいいが、ルクレツィアを巻き込みたくない…)

 引き時は見極めなければ。行き過ぎた力はただの暴力になりかねない…しかし、今日のこの事はルクレツィアを馬鹿にしてきた帝国貴族達にとっていい見せしめになったはずだ。

 この場は怒りを飲み込むことにした。しかし、いつかはこの借りを必ず返してやる。

「ヴァイスローズ公爵、良かったな。今回、ちょうどいい生贄がいて」

 ディートリヒは公爵に凍りつくほどに冷たく鋭い視線を向けながら、次は逃さない。と、目で語る。

 ヴァイスローズ公爵は思わず緊張で唾を飲み、そしてディートリヒから目を逸らした。
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