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第一章 修復の絆編【第五話】
大魔術師の造った魔法の扉
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「…だって仕方ねぇだろ。ルーシーが俺の目の前で突然居なくなったんだから!」
魔術師たちの間から姿を現しこちらへ近付いてくるディートリヒに反抗するようにヴィレンは言い返した。そして次に、ルクレツィアへと目を向ける。
「…ル~シ~…!」
ルクレツィアを責めるような目付きで見つめては、ヴィレンは怒った様子で叫んだ。
「一人でどこに行ってたんだよ! 俺、ずっと探してたんだからな!」
膨れっ面のヴィレンを見て、彼が普段通りの様子に戻ったのだと思いルクレツィアはホッと安堵の息を吐く。
「ごめんね、ヴィレン…。氷の扉の向こうが気になって、開けてみたら魔塔に繋がっちゃって…」
ルクレツィアがヴィレンに納得してもらえるように理由を話し謝罪すると、ヴィレンよりもディートリヒが早くに反応した。
「それはおかしいぞ、ルクレツィア…」
ディートリヒの表情は険しく、娘の目の前にまで到着した彼は彼女と目線を合わせるように膝を折り床に片膝を付けた。
「確かに、氷の扉はイスラーク城と魔塔を繋ぐ魔法の扉だ。俺もこれまで何度となく使用しているから分かる、でも…」
ディートリヒは少し震える手でルクレツィアの小さくて華奢な両肩を優しく掴む。両手に娘の感触を感じて初めて、ディートリヒは心から安心出来た。
「異空間を渡ってどちらに移動するのも一瞬だ。なのに…お前は、半日も姿を消していたんだぞ…!」
父の言葉にルクレツィアは目を大きく開く。
「ルクレツィア…今までどこにいたんだ?」
ディートリヒは続けて、ルクレツィアを強く抱き締めたのだった。その声は震えていて、ルクレツィアは父がとても自分を心配してくれているのだと分かった。
「お前が無事で、本当に良かった…!」
どれだけ探し回った事か…と、自分を抱き締めながら呟くディートリヒに、ルクレツィアは戸惑いを隠せなかった。
何故ならルクレツィアは、氷の扉を通って一時間も満たない時間しか魔塔で過ごしていないのだから。
ディートリヒは腕の中からルクレツィアを解放して、ヴィレンを拘束していた氷の魔法を解くと改めてルクレツィアに事情を説明した。
父の話では、ルクレツィアが氷の扉に引き摺り込まれ姿を消してから、ヴィレンと共に彼女を探し回って四時間以上もの時間が過ぎていたと言うのだ。
「これまでずっと…何度もルーシーの魔力を辿ったけどダメだった。まるで、ルーシーがこの世界に存在していないみたいに魔力を辿れなかったんだ」
ディートリヒの説明にヴィレンが付け加える。
だから二人は当てもなくルクレツィアを探すしかなかった。城や魔塔の中は勿論、街にも捜索隊を派遣し、それでも手掛かりひとつ無かった為、捜査網を街の外にまで拡げようとしていた所だったのだ。
そんな矢先に、ヴィレンはディートリヒと共にイスラークの都を出て近くの山を捜索しようとしたところで、突然現れたようにルクレツィアの魔力を感知した。
そうして二人は、急いで真っ直ぐにこの魔塔へ向かったのだという。魔塔の正面から中に入るのがじれったくて、ヴィレンは飛んで外から大穴を開けて侵入したわけだが…。
ルクレツィアは二人の話を聞いても信じられなかったが、ふと、ヴィレンが開けた穴の向こうに目を向けると、空には朱色が滲んでいた。北の空は帝都と比べて日が暮れるのが早いとはいえ…。
(…夕暮れ空…)
ルクレツィアがイスラーク城にいた時は、確かに昼頃だった。ルクレツィアには分からない。ディートリヒやヴィレンと自分の間にあるこの『空白の時間』のズレが気味悪く感じた。
「ま、待ってください! 僕が彼女を保護したのはほんの数十分前ですよ?」
彼らの会話に違和感を感じたグリムが焦る表情で言うと、ディートリヒは難しい顔をして黙り込んだ。
「…ルクレツィアは、確かに氷の扉を通っただけなんだな?」
「は、はい…」
ディートリヒはもう何百年もイスラーク城に鎮座する氷の扉を思い浮かべていた。
(初代クラウベルク公爵は未来を見通す大魔術師だったと聞く…そんな魔術師が造ったとされる氷の扉…)
ディートリヒはこれまで、氷の扉のことを『移動の手間を省く便利な魔法の扉』としてしか認識していなかった。
(もしかして…他にも重要な何かが隠されているのか…?)
そう疑問に思うと少し納得する。初代クラウベルク公爵ほどの魔術師が、僅か数キロ先を移動するためだけに『絶対零度』という大層な魔法を施してまで魔法の扉を造るのか?と…。
それに気になるのはヴィレンの先ほどの発言だ。
『ルーシーがこの世界に存在していないみたいに…』
「…………」
ここで考えてみても、今は何も分からない。ディートリヒは小さく息を吐いてから「この事については、俺の方で調べてみよう」と言って、この話題を終わらせる。
(はぁ…考えるべき事がたくさんあるな…)
まずはルクレツィアの無事な姿が見れて一安心だ。とりあえず…。
「ヴィレン。頼むから、これからはもう少し理性ある行動を心掛けてくれ…」
大きな穴が空いた魔塔、そしてヴィレンが暴れ回って出来たであろう床や壁一面の傷や焦げ跡。
「うっ…ごめん…」
さすがの魔塔内の惨状に彼も後ろめたい気持ちがあるのか素直に謝るヴィレン。ディートリヒは小さな息を吐くだけでそれ以上は何も言わなかった。その代わり…。
「城に帰ろうか」
レイモンドや他の皆が心配している、とディートリヒに言われて、ルクレツィアは自分が思うよりも大事になっているようで申し訳ない気持ちになった。
魔術師たちの間から姿を現しこちらへ近付いてくるディートリヒに反抗するようにヴィレンは言い返した。そして次に、ルクレツィアへと目を向ける。
「…ル~シ~…!」
ルクレツィアを責めるような目付きで見つめては、ヴィレンは怒った様子で叫んだ。
「一人でどこに行ってたんだよ! 俺、ずっと探してたんだからな!」
膨れっ面のヴィレンを見て、彼が普段通りの様子に戻ったのだと思いルクレツィアはホッと安堵の息を吐く。
「ごめんね、ヴィレン…。氷の扉の向こうが気になって、開けてみたら魔塔に繋がっちゃって…」
ルクレツィアがヴィレンに納得してもらえるように理由を話し謝罪すると、ヴィレンよりもディートリヒが早くに反応した。
「それはおかしいぞ、ルクレツィア…」
ディートリヒの表情は険しく、娘の目の前にまで到着した彼は彼女と目線を合わせるように膝を折り床に片膝を付けた。
「確かに、氷の扉はイスラーク城と魔塔を繋ぐ魔法の扉だ。俺もこれまで何度となく使用しているから分かる、でも…」
ディートリヒは少し震える手でルクレツィアの小さくて華奢な両肩を優しく掴む。両手に娘の感触を感じて初めて、ディートリヒは心から安心出来た。
「異空間を渡ってどちらに移動するのも一瞬だ。なのに…お前は、半日も姿を消していたんだぞ…!」
父の言葉にルクレツィアは目を大きく開く。
「ルクレツィア…今までどこにいたんだ?」
ディートリヒは続けて、ルクレツィアを強く抱き締めたのだった。その声は震えていて、ルクレツィアは父がとても自分を心配してくれているのだと分かった。
「お前が無事で、本当に良かった…!」
どれだけ探し回った事か…と、自分を抱き締めながら呟くディートリヒに、ルクレツィアは戸惑いを隠せなかった。
何故ならルクレツィアは、氷の扉を通って一時間も満たない時間しか魔塔で過ごしていないのだから。
ディートリヒは腕の中からルクレツィアを解放して、ヴィレンを拘束していた氷の魔法を解くと改めてルクレツィアに事情を説明した。
父の話では、ルクレツィアが氷の扉に引き摺り込まれ姿を消してから、ヴィレンと共に彼女を探し回って四時間以上もの時間が過ぎていたと言うのだ。
「これまでずっと…何度もルーシーの魔力を辿ったけどダメだった。まるで、ルーシーがこの世界に存在していないみたいに魔力を辿れなかったんだ」
ディートリヒの説明にヴィレンが付け加える。
だから二人は当てもなくルクレツィアを探すしかなかった。城や魔塔の中は勿論、街にも捜索隊を派遣し、それでも手掛かりひとつ無かった為、捜査網を街の外にまで拡げようとしていた所だったのだ。
そんな矢先に、ヴィレンはディートリヒと共にイスラークの都を出て近くの山を捜索しようとしたところで、突然現れたようにルクレツィアの魔力を感知した。
そうして二人は、急いで真っ直ぐにこの魔塔へ向かったのだという。魔塔の正面から中に入るのがじれったくて、ヴィレンは飛んで外から大穴を開けて侵入したわけだが…。
ルクレツィアは二人の話を聞いても信じられなかったが、ふと、ヴィレンが開けた穴の向こうに目を向けると、空には朱色が滲んでいた。北の空は帝都と比べて日が暮れるのが早いとはいえ…。
(…夕暮れ空…)
ルクレツィアがイスラーク城にいた時は、確かに昼頃だった。ルクレツィアには分からない。ディートリヒやヴィレンと自分の間にあるこの『空白の時間』のズレが気味悪く感じた。
「ま、待ってください! 僕が彼女を保護したのはほんの数十分前ですよ?」
彼らの会話に違和感を感じたグリムが焦る表情で言うと、ディートリヒは難しい顔をして黙り込んだ。
「…ルクレツィアは、確かに氷の扉を通っただけなんだな?」
「は、はい…」
ディートリヒはもう何百年もイスラーク城に鎮座する氷の扉を思い浮かべていた。
(初代クラウベルク公爵は未来を見通す大魔術師だったと聞く…そんな魔術師が造ったとされる氷の扉…)
ディートリヒはこれまで、氷の扉のことを『移動の手間を省く便利な魔法の扉』としてしか認識していなかった。
(もしかして…他にも重要な何かが隠されているのか…?)
そう疑問に思うと少し納得する。初代クラウベルク公爵ほどの魔術師が、僅か数キロ先を移動するためだけに『絶対零度』という大層な魔法を施してまで魔法の扉を造るのか?と…。
それに気になるのはヴィレンの先ほどの発言だ。
『ルーシーがこの世界に存在していないみたいに…』
「…………」
ここで考えてみても、今は何も分からない。ディートリヒは小さく息を吐いてから「この事については、俺の方で調べてみよう」と言って、この話題を終わらせる。
(はぁ…考えるべき事がたくさんあるな…)
まずはルクレツィアの無事な姿が見れて一安心だ。とりあえず…。
「ヴィレン。頼むから、これからはもう少し理性ある行動を心掛けてくれ…」
大きな穴が空いた魔塔、そしてヴィレンが暴れ回って出来たであろう床や壁一面の傷や焦げ跡。
「うっ…ごめん…」
さすがの魔塔内の惨状に彼も後ろめたい気持ちがあるのか素直に謝るヴィレン。ディートリヒは小さな息を吐くだけでそれ以上は何も言わなかった。その代わり…。
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