悪役令嬢は最強パパで武装する

リラ

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第一章 修復の絆編【第六話】

魔獣討伐作戦、一方子ども達は…

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 アルゲンテウスが向かう先は、イスラークから一番近い山の麓にある小さな山村だった。と、言っても馬車や馬で移動するには往復するだけで半日以上を要してしまうので、今回は魔塔の魔術師による転移魔法を使って移動することになった。

 実はルクレツィアを捜索する際にも駆り出されていた転移魔法が使える魔術師達。彼らと顔を合わせたルクレツィアが気まずそうにペコリと会釈すると、魔術師達も苦笑いを浮かべていた。

「よし。準備は整ったな?」
「はい、閣下」

 雪銀の魔兵団アルゲンテウスの軍団長であるアスゲイル・スペンサーがハキハキとした口調で頷く。
 レオノーラの夫であり、イクスの父親だ。彼の長男の息子は魔塔主でもあるディートリヒの補佐官として、魔塔で働いている魔術師のためこの場にはいなかった。

 厳密に言うとアルゲンテウスと魔塔は共にディートリヒの部下として働いているが、全くの別の組織である。グリムのように魔塔出身の魔術師がアルゲンテウスに入団することももちろんあるが…。
 しかし、共に生きる北の領地の安全を守るため、こうして魔獣討伐などは互いに協力し合っているのだ。

 普段の魔獣討伐ならばディートリヒや軍団長のアスゲイルが出てくることはないのだが、今日はルクレツィアという同行者がいるためそうは言っていられない。

 危険性はほぼ無いとはいえ、ディートリヒは万全を期して今回の魔獣討伐に臨んでいた。

 アルゲンテウスの主力でもあるイクス率いる第一部隊を始めとした実力のある兵士達が集められていた。まるで、これから飛竜ワイバーンの巣の駆除討伐に向かうのかと思うほどの戦力だ。

 ディートリヒの合図により魔術師達が呪文を唱え始める。

「ヴィレン。楽しみだね」
「あぁ、そうだな」

 ルクレツィアに話しかけられて、何やら企むような笑みを浮かべるヴィレン。

 ルクレツィアはそんな彼を不思議そうに見つめて瞬きをした次の瞬間、——もう自分の周りの景色がすっかり変わっていることに気付き勢いよく顔を上げた。

 そこは長閑のどかな丘の上で、暖かな陽射しと柔らかな風が地面を埋め尽くすように生えた草を青々と輝かせては揺らしている。丘の下の方には田舎風情のある山村が広がっていた。

「各自、野営テントを張り戦闘準備に取り掛かれ!」

 向こうの方でアスゲイルが部下達に指示を出す声が聞こえてくる。すると兵士達は一斉に行動を開始し、その場は途端に騒がしくなった。

 アルゲンテウスの兵士達は、今日から数日に渡り山に潜む魔獣を駆除していくそうだ。今回、見学のルクレツィアとヴィレンはもちろん今日中に転移魔法で帰宅させられるけど…。

 何でも、春と夏の間に増えた魔獣は秋の時期になると、冬越しのための餌を求めて山を降りては人里を襲うらしい。だから、この時期に行う魔獣討伐はより効率性を重視して少しでも多くの魔獣を狩ることが大事なのだ。
 その為、兵士達はまず自分達の寝床の安全確保をした後、魔獣討伐についての作戦会議を行うようである。

 兵士達の邪魔にならないように端に避けていたルクレツィアとヴィレン。アスゲイルと共に兵士達に指示を出し討伐作戦の確認をする忙しそうなディートリヒを大人しく眺めていた。

 しかし暇を持て余した二人は、ルクレツィアが持ってきた図鑑を広げてすぐ側に生えていた花が載っていないか探し始めるのだった。

「あ。あったよ、ヴィレン!」

 見つけたと嬉しそうなルクレツィアに、ヴィレンはもっと彼女を喜ばせたいと周りを見渡す。

「なぁ、ルーシー! あの花は?」

 そして、とても綺麗な赤い花を見つけては指をさす。

「うわぁ、綺麗な花。見た事ない…」

 北の領地には帝都には流通していない植物がたくさんあるという話は本当だったんだ。と、ルクレツィアは胸を躍らせてその花に近寄っていく。

「おい。二人とも、側から離れすぎるなよ」

 夢中になっている子ども達に気付いたディートリヒが注意するが、果たして二人の耳にちゃんと届いているのか…。

「分かってるって!」

 ヴィレンの軽い返事が返ってきたので、ディートリヒは小さく息を吐いてからアスゲイルに子どもたちの護衛に兵士を数名付けるよう新たな指示を出すのであった。
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