悪役令嬢は最強パパで武装する

リラ

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第一章 修復の絆編【第六話】

少女とアルゲンテウス

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 *



 今日より魔獣討伐作戦を開始する旨を伝える伝達役として、山村へ下りた雪銀の魔兵団アルゲンテウスの新米兵士。

「危ないので、数日は山に立ち寄らないでくださいね」

 彼が親しみやすい口調で村長にそう伝えると、彼は少し不安そうな表情を浮かべて言った。

「魔獣討伐の件は分かりました…ただ、少し気になる事がありましてね?」

 その老人はしわがれた声を小さく顰めてから、周りの住人には聞こえないように、兵士にだけ聞こえるように続ける。

「山を挟んだ向こうに、小さな集落があることはご存知ですよね。それが…ここ最近、その集落の彼らを見かけていないのです」
「…と、いうと?」

 あまりこの辺りの地理に詳しくなかった新米兵士は、村長が伝えたい内容の要領を得ずに困った顔で聞き返す。

 山を挟んだ二つの村は、よく互いに行き通う親交のある村だ。その小さな集落の村よりもこちらの村の方が栄えているので、集落の者たちは自分達では手に入れられない生活用品などを求めて山村にやって来る。たまに、山村の行商人が向こうの集落に向かう事もあるのだ。

 その関係性を兵士に説明してから、村長は言った。

「もう一週間以上、彼らはこの村に来ていないんだ。一昨日に心配して集落に向かった行商人もまだ戻ってきていない……もしや、あちらの村で何かあったんじゃ…?」

 村長はその瞳を心配と悲しみに染めて兵士を見た。兵士もやっと理解して、そしてすぐに思い当たった…。

(もしや、集落が魔獣に襲われて…?)

 それにしては、例年よりも魔獣達の動きが活発すぎる。新米兵士は慌てた様子で、すぐにアスゲイルへ報告しなくてはと思った。

「貴重なお話をありがとうございます! 山には立ち入らず、夜は外出を控えてください! では、僕はこれで!」

 村長に早口気味に挨拶をして、兵士は踵を返すようにアスゲイルの元へと駆け出したのだった。



 *



 村長の話は新米兵士からアスゲイルへ迅速に伝えられて、討伐部隊とは別にその集落へ兵士を調査隊として人を割き派遣する事にした。

 そのような事をディートリヒと話し合っていると、ちょうど山の調査から戻ってきた先遣隊の兵士がアスゲイルに伝えた。

「山には異常ありませんでした。魔獣も例年通りの数です!」
「…なんだって?」

 部下の報告に眉を顰めるアスゲイル。そうだとすれば、村長の話の内容と食い違いが起こる…。

 アスゲイルはすぐに調査隊の編成をするように隊長格の兵士に指示を出し、早急に魔獣討伐作戦を開始する事にした。
 隣ではディートリヒも険しい顔をして強く頷いている。アスゲイルの指示に賛成のようだ。

「イクス」

 ディートリヒは甥であるイクスを呼び寄せて言った。

「お前の隊から数名の兵士を、ルクレツィアの護衛として付けてくれ」

 少し雲行きの怪しくなってきた魔獣討伐作戦…まだ何も確証を得ているわけではないのだが、一抹の不安を覚えたディートリヒはアルゲンテウスの中でも実力者揃いのイクスの隊から護衛兵士を希望した。

「はい、了解しました!」

 イクスは力強く頷いて、グリム達の待つ自分の隊へ戻っていったのだった。



「——で、ルーシーの護衛になんでお前が選ばれたんだよ?」

 ヴィレンは腰に両手をやり仁王立ちをして、とても偉そうな態度でこの度ルクレツィアの護衛兵士に任命されたグリムを見上げたのだった。

「ヴィレン、俺もいるぞ」
「イクスは別にいい」

 イスラーク城の訓練所によく通うヴィレンは、そこで隊員達の訓練を行うイクスとはよく顔を合わせる仲のようで、二人には気安く声を掛けるほどの親交が生まれていた。あと、ヴィレンもイクスも、どちらかというと脳筋思考のため気も合ったみたいだ。

 イクスやグリムの他にも三名の兵士がおり、一人は衛生兵である女性兵士のエイシャと、もう二人は男性兵士のアルバとニックだった。

「僕も知らない。それはイクス隊長に聞いてくれる?」

 グリムも赤い瞳を淡白そうに細めてからヴィレンを見下ろすと、抑揚のない声で答えた。

「ヴィレン、お仕事の邪魔をしちゃ駄目だよ…ほら、図鑑の花を探そう?」

 険悪な雰囲気の二人にルクレツィアは焦った様子で声を掛けた。グリムは一目見てルクレツィアが手に抱えている本が先日彼女に請われて自分が勧めた図鑑だと気付く。

「…………」

 グリムは特にルクレツィアに話しかける事もなく彼女からすぐに目を逸らしたが、その無表情の中で彼の口角が僅かに上がっていたのだった。
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