(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春は、あけぼの

(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ

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 インターホンが鳴ったので、ドアスコープを覗くと、あみと茜が見えた。
 俺がドアを開けると、二人とも涙目だった。
 迎え入れると、部屋には俺と女性以外に、もう一人男がいて、彼女らは驚いていた。
 部屋の男女二人は、あみへLINEの返事をする前に、訪問者が来るかもしれないことを納得していたので、動揺はないが、緊張はしているようだ。
「この度は、沢田さんに大変なご迷惑をおかけしました。あ、ボク大谷といいます!」
 男が立ち上がり、直立不動で言い、腰を九十度に曲げた。
「あ、立花彩香です」
 もう一人の女性も、挨拶する。
 どうにも、この立花の立ち振る舞いが、俺は嫌いだ。
 社長の形山彩芽と同じ「彩」の字が名前に入っているのもイラつく。
 あみと茜は、大谷を筋肉タレントとして知っているようだが、立花へは、誰それというよりも、何それだろうか。
 一応、あみたちを紹介しておく。
「北乃あみ、俺の同級生。西原茜、俺のマネージャー」
 大谷は、腰九十度のままだ。
 あみも茜も、目がぐるぐるしている。
「あー、俺と大谷さんが、番組で知り合って、交流があるのは、知ってるな?」
 仕事でも被っているし、ジムでいっしょにトレーニングした話もしているはずだ。
「で、だ。立花さんは、彼の元というか、彼女で、」
「申し訳ありません!ぼ、いえ自分が説明します!」
 大谷の腰が、さらに深く曲がっていた。
 大谷が語った内容を要約すれば、立花が悪質な業者からの借金が返せず、風俗で働いて返せと脅された。
 助けを求められた元彼の大谷が、代わりに全額返したが、風俗店の店長がどうあっても月末までの十日間、ノルマを果たせていないピンサロで立花を働かせて、売り上げを稼ぐ、と譲らなかった。
 その分の金も払うと大谷は訴えたが、新しい女性を店に立たせてもいないのに、売り上げが増えたことが上にバレると店長のクビも危ない上、大谷もカモと認識されて、更に無茶な要求をされることになっただろう。
 それで、風俗店で十日間働く立花に客をとらせないために、大谷に頼まれ、ピンサロに毎日、彼女を指名しに通ったのが、俺だ。
 立花のシフトの間中、まわりの嬌声の中、サービスのウーロン茶を飲みながら、固いソファーに座りっぱなしでスマホの書籍を読んでいるのは尻と腰が痛くなったし、ノルマのアフターのために、ラブホのソファーで寝るのは、更につらかった。
 書籍を読んでいるだけで暇な店内では、LINEも返信が早すぎないように、気をつけた。
 ピンサロへ制服で行くわけにはいかないので、毎日わざわざ私服に着替えた。
 ラブホに泊まった翌日は、部屋へ戻ってシャワー、そして寝不足でつい仮眠をしてしまって午前中、学園を休んでしまうことが多かった。
 せっかくの聴講の機会がもったいない。
 本日、晴れて十日間の勤務を達成したので、店を辞めた立花を大谷と対面させるために、ここに連れてきたのだ。
 この後、彼が、今回の苦労をネタに、彼女とどうなるかは知らない。
 ちなみに、大谷本人が指名に行かなかったのは、彼が変装したとしても、その筋肉が目立つためだ。
 そして、彼の知り合いの中で、俺に頼んだ理由は一番、目立たない筋肉だったからだショボン。
「沢田先生、事務所には、せめて社長には、教えてくれてもよくありませんでしたか?」
「どこから、大谷さんの噂が漏れるかわからない」
 茜が言うが、俺は切って捨てた。
 そもそも、真相は誰にも言うつもりはなかったのだが、あみからのLINEで俺の行動がバレているのがわかり、それを知った大谷がどうしても自分が説明すると言ってきかなくて、部屋番号を教えたのだ。
 来なければ、もう後日には話す気はなかったが、まあ来るよな。
 ちなみに、社長に事務所へ呼び出されたときに「どこかのピンサロ嬢に入れ挙げていてるんですって?」と風俗店に入り浸っていることはバレていたようなので、強引にキスして黙らせ「それは俺の勝手で、そんな意見は事務所の社長に求めてないが?」と言ったら、泣きながら物を投げられ、クビと言われたが、後悔はしていない。
 あの壁に刺さった文鎮は、当たったら致命傷だったと思うが。
 茜が、「よかった。ぜんぜん『汚くない』」と呟いていたが、意味は分からない。
「何か、質問は?」
 まるで講義のときのようだな、と思ったら、講義のときのように、あみが手を挙げた。
「・・・どうぞ」
「私の気持ちは?」
 あみが、平坦な目と声で言った。
 怒っている証拠だ。
「・・・ううん、私はいい。でも、何も言ってもらえなかった、茜ちゃんや、志桜里ちゃんや、ミホちゃんや、形山社長の気持ちは?」
 聞かれても、今回の作戦の第一優先は、大谷の名前を表に出さないことなので、黙っていたことに関しては、すまないとしか言いようがない。
 そもそも、この場での説明が、予定外なのだ。
 とはいえ、風俗店通いがバレていたらしく、何も言わないことが、彼女たちの気持ちを蔑ろにしたのかもしれない。
 でも、何も知らない方が、良いと考えたのだ。
「許してもらえないかもしれないが、申しわ、」
「あみさん?」
 茜のいぶかしげな声音とあみが動く気配はしたが、頭を下げた俺には見えなかった。
「・・・ばっかやろー!」
 アイドルらしからぬ腰の入ったあみの拳が、顎に入り、俺の脳髄が揺れた。
「許してもらえないかも?」
 ぼこっ!
「許してもらえるだろうって、甘えてたくせに!」
 ぼこっ! 
「許しちゃう、私たちの気持ち知ってて!」
 ぼこぼこっ!
「許してくれとか、形だけで言うな!」
 ぼこっ!
 俺は、床に崩れ落ち、一流のホテルは、絨毯もふっかふかだな、と感じて、意識を失った。

 俺が意識を取り戻したのは、自分の部屋のベッドでだった。
 俺をホテルから車、そこから部屋まで運ぶために、大谷が連行されていたのは後日、聞いた。
 始発を待って、彼がホテルへ戻ったら、立花彩香が消えていたのは、更に後日に知った話。
「・・・帰って、きたのか」
「うん。おかえり、先輩」
 俺が呟くと、当然のように腕の中にいるあみが、応えた。
 未成年者が、俺の部屋にいることを咎めたら、そっけなく無視される。
「今日の先輩に、文句言う権利ないから」
 今日って、いま何日で、何時だ?
 寝不足だったから、気絶のまま睡眠へ移行してしまったからか、時間の感覚がない。
「私にだけは、話して欲しかった」
「・・・すまん」
 大谷のことを伏せて話せば、よかったのかもしれない。
 だが、座っているだけとはいえ、それでも知られた上で、風俗店に、ラブホテルに、通う俺を見送る顔を見たくなかった。
「茜にも話して欲しかったです」
 背後からの声で、二人きりでないことに気がついた。
 ついでに、ノックダウンされた体中がメチャクチャ痛いことにも気がついた。
 背側にいるので、茜の胸が押しつけられ、腹にまわされた手も微妙な位置にある。
 彼女は、俺を逃がすまいと力を込めて抱き着き、低く囁いた。
「動かないでください。優秀なマネージャーの茜だって、寂しかったんですから、役得です」
 おい、本音を漏らしすぎだ。
 あみも、こちらへ身体をまわして、
「私だって、寂しかった!」
 俺の前後で、寂しかった合戦が始まったが、あみの腹が鳴り、休戦となった。
「そういえば、晩ご飯、ちゃんと食べていませんでしたね」
「最近。喉、通らなかったんだもん」
「・・・そうか」
 ちくちく、罪悪感を刺激してくるが、本日もフルボッコの日なのは確定なので、飲み込む。
 それで、結局、今何時なんだ?
 顔を上げて、ベッドサイドの時計を見る。
 カーテンから陽が入っているので、もう昼近い。
 今日は、平日だ。
「おい、時間」
「え?」
「あ?」
 二人は、慌てて近くに置いていたスマホを確認する。
「二人とも、格好」
 俺は、昨日の私服、カーゴパンツを着たままだったが、彼女たちは、下着姿だった。
 少なくとも、寝間着を手に入れるために、家探しはされていないらしい。
「え?きゃ。見ないで!」
「え?ああ、きゃあ」
 慌てて布団に潜り込むあみ、わざとなのか紫色の下着姿を見せつけて、ゆっくり布団に入る茜。
 俺のマネージャーは、スーツの下、いつもあんなのなの?
 とりあえず見ないように目を閉じた俺は、更に聞こえてきた声に、もっと瞼を強く閉じ、現実逃避したくなった。
「あ!ママから、家にも帰らないで、どこ行ってる?って伝言残ってる。そういえば学園から、一度も家に帰ってない」
「社長から、連絡なしの遅刻は、無断欠勤扱いだとお怒りの伝言はいっています」
 目を閉じていても、二人が俺の方を見ているのがわかる。
『言い訳はお願い」します」
 俺は、男の友情をとったせいで、いったい何人に頭を下げるはめになるのだろう。

 予定外に、大谷の存在を伏せて辻褄を合わせた真相と称する物語を語り、頭を下げてまわる。
 謝罪への反応は、それぞれだったが、みな第一声が「自分にだけは話して欲しかった」だった。
 どちらかというと俺は、他人を信用していない態度を表に出していると思うのに、それでも「次は頼って」と言ってくれる人がいることが、不思議だった。
 ミホは、
「あ、ボクが、風俗店に行くさわりん発見して、あみりんに話したのが、元凶って思ってるな?」
 とあみを支えた親友は、底冷えする目で見てきたが、ソンナコトアリマセンヨ。
 志桜里は、
「志桜里は、先生を信じるって、決めてました」
 と言いながら、両手を胸の前で組んで、涙をポロポロ零した。
 信じていたなら、泣かなくてもいいだろう、と思ったら、
「信じていても、ひどいことされて、つらかったから、泣いてるんですっ!」
 捻りの効いたボディーブローをくらった。
 誰だ、俺の同級生たちに読心術や打撃を教えたヤツは?
 ママは、
 「男の甲斐性ってことで、一度だけ、貸しにしておくよ」
 と包丁を研ぐ手を止めなかった。
 志方は、
「道理で、最近あみのLINEが変な感じ。って全然知らなかったですよ?相談もしてもらえなくて、蚊帳の外だった?」
 今更、泣かれてしまった。
 社長室の閉めたドアを背に、デスクとの距離をとって話す俺に、形山は、席を立ち、歩いてきた。
 これは、また殴られるやつだ、と腹筋に力を込めた。
 ところが彼女は、途中でペタンと床にへたりこむと、お姉さん座りで「えーん」と声を上げて泣き出した。
 幼女か?
 同い年だろう?
 まさかの、ベテラン女優の演技力が、と疑ったが、ギャン泣きなので、困った俺は、近づいて背中を撫でた。
「いい加減、泣き止んでくれ」
「・・・だって、だって」
 しゃくり声をあげる。
「本気で、どっかの知らない女のために、全部捨てて、いなくなっちゃうって、思ったんだもん!」
 おいおい、口調まで幼くなってるぞ。
「あー、だがまあ。だってクビ、なんだろう?」
「・・・ズルい。どうせ許してもらえるって、わかって言ってるんでしょう?」
 あみにも言われた言葉だ。
「ああ、甘えてはいるな、確かに」
 形山は、顔を両手で隠して聞いてきた。
「・・・帰ってきて、くれる?」
「許してくれるならな」
「だから。それ、ズルいよ・・・」
 彼女は、深呼吸を繰り返し、少し自分を取り戻したようだ。
「・・・お化粧、ぐちゃぐちゃ」
「ああ、まあな」
 取り繕っても仕方がないので、正直に言う。
 ただ、それでも綺麗だと思ったのは、調子に乗るので、飲み込んでおく。
「そこは、『そんなことないぞ』とか言って、また強引にキスしてくるところでしょう?」
「え?また?キス?しかも強引に?」
 形山の号泣が聞こえて心配して見に来たらしい茜が、遠い目をして呟いて、社長室のドアを、そっと閉めた。
「ちょ!ちょっと茜ちゃん待って!」
 自業自得だ。
 そして、それは俺自身へのブーメランでもあった。

 学食で、お気に入りのナポリタンを、何日ぶりかで食べる。
 学園から急いで帰り、ピンサロの出勤シフトに合わせた夕食、ラブホテル帰りの朝食、寝坊で遅刻しての昼食は、コンビニおにぎりがメインだった。
 学園でもなんだか、ちゃんとした食事を学食で食べる資格がないように思えて、カップラーメンが多かった。
 少しだけ、摂食障害気味になっていたのかもしれない。
 そんな、学園出向直後なら当たり前に毎日のように食べていた、おにぎりやカップラーメンを「味気ないな」と感じていたらしい自分に、少しだけ驚いていた。
「みんなで食べると、美味しいね」
「あみりん、なんでまた急に、そんな普通な話を?」
「志桜里は、先生がいれば美味しいので、それは正しいと思います」
 『普通』というのは、『正しい』ということなのだろうか。
「先輩は、美味しい?」
 うん、『ここ』のナポリタンは、うまい。
 コンビニで売っているナポリタンと、そんなに違いがないだろうに、うまい。
「ああ、うまいな」
「そう、よかった」
 俺は、『ここ』が、『俺』がいてもいい場所なんだ、と思えた。
 だから、食べ終えて、この数年、口にしていなかった言葉を呟いた。
「・・・ただいま」
「先輩?ごちそうさま、でしょう?」
 ようやく、俺にも居場所ができ、そこに帰ることができた。
 あみの笑顔が、眩しかった。
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