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第二巻:夏は、夜
寝言=妄言
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教育特区「鳳凰学園」は、様々な分野・年齢の学生を集め、基礎から最先端の知識を学べる学校だ。
その特徴のひとつに、学生が講師も務める、というのがある。
学生は、それぞれが一芸を持っているので、それを互いに教え合うのだ。
そう、多種多様な学生が通っている。
現役アイドルグループ所属、北乃あみ。
「私は、仰向けで寝るけど、寝相が悪いかな」
俺の腕の中だと、じっとしてるのにな、とは口に出さない。
俺が、昨夜の収録が遅くなり、いつもならマネージャーの茜が部屋まで車で送ってくれるのだが、近くのビジネスホテルに泊められ、枕が違ったせいか肩が痛い、と言ったことから、どんな寝方をしている、という話題が始まっていた。
「だから、ロケ先のホテルがツインで翌朝、頭が足の方になってて、同室の子に笑われたことあるよ」
なかなかにヤンチャな寝方だ。
というより、ベッドから落ちずに回転するとか、器用だな。
なんだろう、エクソシスト的な動きを想像してしまって怖い。
元バレリーナ、現振付師、門崎ミホ。
「ボクはうつぶせ寝。横に顔を向けた方の手足を曲げてる」
それ、まるで事件現場だぞ。
「気をつけないと、自分のヨダレで窒息しそうになるんだよね」
よく干からびないな。
というより、マットレスがいろいろ心配です。
元天才子役で現女優、柳沢志桜里。
「志桜里は、仰向けで、両手を胸に組んで寝ます」
眠り姫のようだ。
寝返りをまったくしなさそうで、心配だ。
「毎晩、先生の声を聴いてます」
俺が昔、ツイキャスで配信した音声を聴いて寝る習慣は、まだ続いているのか。
そういう依存癖のあるところをなんとかしないといけないのかもしれない。
某一流企業からの出向で文化人枠タレント業を、少しばかりしている俺。
表向きには、仕事で得た最先端の専門知識を広めることに貢献している、が。
その実情は、ストレスにやられて仕事でやらかし、心を病み、離婚をした人生の敗北者だ。
いろいろあり、三十歳以上年下アイドルのあみと清いつきあいをしている。
「俺は、」
横を向いて寝ることが多い、と話そうとしたら、あみが何気なく言った。
「先輩は、横向き寝だね」
ミホと志桜里が、「なんで知ってるの?」という目をした。
あみの実家に泊まったときに、寝ている俺の腕の中に入り込んできたことがあったので、それで知っているんだろう。
などと言えるはずがない。
なんとが、ごまかさなければ。
「そう、クッション!俺、クッション抱いて、横向きで寝てるんだ」
オッサンがクッション抱きしめているキモ映像で笑いをとれば、話題をはぐらかせられるか?
「ぷ」
俺が願った想像をしたであろうミホが吹き出しかけ、遠慮するように耐えた。
「ああ、あのクッションですね」
しかし、志桜里は、納得したように頷いていた。
あみとミホが、「なんで知ってるの?」という目をした。
ちょっとした行き違いで、志桜里が一人で俺の部屋に来たことがあり、「適当に座って」と言ったら、ドアを開けっ放しにしていた寝室のベッドに座ったことがあったので、それで知っているんだろう。
あみも風俗通い騒動のときに、俺の寝室に入っているが、そのクッションは俺のマネージャー茜が枕にしていたので、そういう使い方には気がつかなかったのだろう。
などと言えるはずがない。
なんとか、ごまかさなければ。
「俺、あの。そう、最近、寝言が多いんだ」
三人とも、俺を鋭く見たが、意味がわからない。
「・・・さわりん、自分は寝てるのに、寝言を言ってるって、誰が教えてくれた?しかも、最近?」
ミホが、ニヤニヤして聞いてきた。
ああ、そういうことか。
「アプリだ」
寝返りなど睡眠中の動きを感知して、眠りが浅いタイミングで、起こしてくれるアラームのスマホアプリを愛用している。
この機能に、イビキ検知と録音があり、結構イビキをかいてるんだなあ、と聞いてみたら、実は寝言だったのだ。
「なんだ、アプリかあ」
納得してくれたようだ。
「形山社長か、茜ちゃんかと思った」
形山彩芽は、俺と志桜里が所属するタレント事務所の社長兼ベテラン女優で、以前は社長業の傍ら、志桜里や俺のマネージャーでもあった。
おいおい、どうしてかわからないが、疑われてたぞ、二人とも。
だが、よし、ごまかせたようだ。
俺の寝言を聞いてみたい、とリクエストされたので、俺の寝方をあみが、寝室のクッションの存在を志桜里がなぜ知っているかをごまかせて安心した俺は、昨日のホテルでの記録を再生した。
波形の赤いところが、大きな音なので、そこをタッチ。
ぱきっ、ミシっみたいな音。
ごそごそした衣擦れの音。
「・・う・・な・・」
「ボクには、なんて言ってるのかわからないよ」
「まあ、寝言だからな」
それに、大きな音なら感知するので、寝返りや野外のサイレンとかでも録音している場合もある。
また、別の赤い波形をタッチ。
「・・・・ああ、うん・・・」
「相槌をうっているみたいですね」
「先輩の、『聞いてる風』のいつものやつだね」
寝言だ、これは。
「・・・・わかった、ああ。ああ・・・『ふって』・・・」
うわっ、なんだ。
最後の?
女性の声に聞こえた。
怖っ。
肩が痛いのは、このせいじゃないのか?
「こわー、さわりん、肩痛いの平気?」
ぞくっとしたのか、自分で自分の肩を抱いたミホが、恐怖を共有して、俺を心配してくれた。
でも、可動域が広いから、なんだかミホ、キモい。
だが、あみと志桜里は、違う目をしていた。
「先生、ホテルに泊まったのでしたよね?誰と?」
「先輩、誰よ、この女?まさか、仕事帰りに、茜ちゃんと?」
いや、そこは、心霊的な心配をしようよ、ミホみたいに。
そんなに女性関係で信用ないのか、俺?
ああ、風俗通い疑惑、という前科がありましたね。
「沢田先生?」
声をかけられて振り向くと、俺のマネージャー西原茜が立っていた。
元セクシー女優だったことを揶揄する者がいなくなったくらい、敏腕マネージャーに成長している。
最近では、俺の仕事が少ないのもあり、兼任で別のタレントも担当するようになったくらいだ。
そちらは、彼女が担当してから、売れている。
なのに、俺を訪ねて、よく学園に来るので、暇なんじゃないか、と思ったりもする。
「沢田先生、今朝スケジュールの変更をLINEしましたが、『いつものように』リアクションがないので、確認させていただきに参りました」
暇だと疑って、すまん。
俺と軽く打ち合わせる茜を、『ふって』の声の主では、と探っていたあみが、少し茫然として、呟いた。
「・・・茜ちゃん。寝てないの?」
確かに、化粧で隠しているが、目の下にクマがある。
「どうして、寝ていないのです?」
どうやら二人は、
俺がホテルに泊まった。
茜が寝ていない。
ゆえに、ホテルで俺が茜を眠らせなかった、といった妄想に憑りつかれたようだ。
それであれば、俺の寝言もないはずなのだが。
「沢田先生をホテルへお送りした後、社長のドラマ収録にヘルプで行って、徹夜になってしまいました」
でも、茜はあっけらかんと答え、ぺこり、と俺に頭を下げた。
「それで昨夜は時間がなくて、ご自宅までお送りできなくて申し訳ありませんでした」
だから、ホテルに泊めさせられたのか。
「それはいいが。茜が、その後も仕事だと知っていれば、自分でホテルまで行ったぞ?」
「沢田先生は、茜が徹夜かもしれないって聞いたら、心配するじゃありませんか」
俺は、「ソンナコトナイデスヨ」という顔をしたが、周りは「ああそうだよね。意外と心配性だからねコイツ」といった雰囲気になった。
「それに、」
疲れを見せない笑顔で、
「茜は、沢田先生の近くに、ちょっとでも長くいたかったんです」
茜のホテル宿泊疑惑が晴れたのに、なぜだか、空気がギスギスした気がする。
「それ、どうしたんですか?」
その空気を物ともせずに、茜は、俺のスマホを示した。
「ああ」
俺の録音された寝言を聞いていた、と説明したら、彼女はくすくすと笑った。
「沢田先生、寝言が多いですものね。お疲れになった夜は、特に」
あみと志桜里とミホが、「なんで知ってるの?」という目をした。
『疲れた夜』の俺の寝言を、茜がどうやって聞いたのか、誰もが想像してしまう中、空気を読まずにミホが、一休さんばりに回答した。
「車で?」
「ちっ」
俺のマネージャーが、舌打ちしましたよ?
「はいそうです。沢田先生をお仕事の後、ご自宅にお送りする車の中で、うとうとされての寝言をよく聞きましたっ」
種を明かされれば、なんてこともなかった。
ドキドキして、損した。
いや、心当たりは、ないが、なんか不安になるものだ。
これは、「話がある」といわれたら「どれだろう」と思ってしまうのと同じくらい、よくある現象だ。
「志桜里、お待たせ。沢田専務も、みなさんもこんにちは」
形山社長が、午後から仕事の志桜里を迎えにきたようだ。
彼女は志桜里、そしてその後しばらく俺の担当マネージャーだったが茜を雇い、志桜里にはベテランを付けたことで、社長と女優業に専念。
しかし、志桜里の後任マネージャーが先週、急に産休に入ってしまったので、再び担当していた。
彼女は、元々は形山のマネージャーで、事務所独立についてきてくれた、社長の右腕だ。
浮いた話もなく、突然の産休に驚いたが、まあお目出たいと思おう。
ちなみに、俺が専務なのは、経費削減のため書類上のことだけで、偉くもなんともないが、俺が専務と呼ばれるのを嫌っているのを知って、社長はわざと専務呼びしてくる。
「茜ちゃん、何かあったのかしら?」
彼女は、変な空気に気がついたようで、部下に聞いた。
「沢田先生の寝言のことで、」
ちょっと気まずそうに、アプリの説明をすると、社長は、なぜだか誇らしげに言った。
「沢田専務、寝言が多いものね。お疲れの夜は、特に」
空気が、固まった。
会心のネタを振ったつもりなのだろうが、すでにスベっている。
無残な大事故に、顔を背ける俺たち。
「え?え?」
予想外の反応に、対応できない社長。
話を振ってしまった上に、自分が上司を窮地に追い込む結果となった茜は、悟った目になっていた。
「・・・行きましょう、社長」
「え?ねえ、どうして知ってるのって、聞かないの?」
「はいはい。どうしてでしょうね?」
志桜里が、社長を引きずって行ってくれた。
事故の処理は、お任せしよう。
そして、あの声のことは、すっかり忘れてしまっていた。
その特徴のひとつに、学生が講師も務める、というのがある。
学生は、それぞれが一芸を持っているので、それを互いに教え合うのだ。
そう、多種多様な学生が通っている。
現役アイドルグループ所属、北乃あみ。
「私は、仰向けで寝るけど、寝相が悪いかな」
俺の腕の中だと、じっとしてるのにな、とは口に出さない。
俺が、昨夜の収録が遅くなり、いつもならマネージャーの茜が部屋まで車で送ってくれるのだが、近くのビジネスホテルに泊められ、枕が違ったせいか肩が痛い、と言ったことから、どんな寝方をしている、という話題が始まっていた。
「だから、ロケ先のホテルがツインで翌朝、頭が足の方になってて、同室の子に笑われたことあるよ」
なかなかにヤンチャな寝方だ。
というより、ベッドから落ちずに回転するとか、器用だな。
なんだろう、エクソシスト的な動きを想像してしまって怖い。
元バレリーナ、現振付師、門崎ミホ。
「ボクはうつぶせ寝。横に顔を向けた方の手足を曲げてる」
それ、まるで事件現場だぞ。
「気をつけないと、自分のヨダレで窒息しそうになるんだよね」
よく干からびないな。
というより、マットレスがいろいろ心配です。
元天才子役で現女優、柳沢志桜里。
「志桜里は、仰向けで、両手を胸に組んで寝ます」
眠り姫のようだ。
寝返りをまったくしなさそうで、心配だ。
「毎晩、先生の声を聴いてます」
俺が昔、ツイキャスで配信した音声を聴いて寝る習慣は、まだ続いているのか。
そういう依存癖のあるところをなんとかしないといけないのかもしれない。
某一流企業からの出向で文化人枠タレント業を、少しばかりしている俺。
表向きには、仕事で得た最先端の専門知識を広めることに貢献している、が。
その実情は、ストレスにやられて仕事でやらかし、心を病み、離婚をした人生の敗北者だ。
いろいろあり、三十歳以上年下アイドルのあみと清いつきあいをしている。
「俺は、」
横を向いて寝ることが多い、と話そうとしたら、あみが何気なく言った。
「先輩は、横向き寝だね」
ミホと志桜里が、「なんで知ってるの?」という目をした。
あみの実家に泊まったときに、寝ている俺の腕の中に入り込んできたことがあったので、それで知っているんだろう。
などと言えるはずがない。
なんとが、ごまかさなければ。
「そう、クッション!俺、クッション抱いて、横向きで寝てるんだ」
オッサンがクッション抱きしめているキモ映像で笑いをとれば、話題をはぐらかせられるか?
「ぷ」
俺が願った想像をしたであろうミホが吹き出しかけ、遠慮するように耐えた。
「ああ、あのクッションですね」
しかし、志桜里は、納得したように頷いていた。
あみとミホが、「なんで知ってるの?」という目をした。
ちょっとした行き違いで、志桜里が一人で俺の部屋に来たことがあり、「適当に座って」と言ったら、ドアを開けっ放しにしていた寝室のベッドに座ったことがあったので、それで知っているんだろう。
あみも風俗通い騒動のときに、俺の寝室に入っているが、そのクッションは俺のマネージャー茜が枕にしていたので、そういう使い方には気がつかなかったのだろう。
などと言えるはずがない。
なんとか、ごまかさなければ。
「俺、あの。そう、最近、寝言が多いんだ」
三人とも、俺を鋭く見たが、意味がわからない。
「・・・さわりん、自分は寝てるのに、寝言を言ってるって、誰が教えてくれた?しかも、最近?」
ミホが、ニヤニヤして聞いてきた。
ああ、そういうことか。
「アプリだ」
寝返りなど睡眠中の動きを感知して、眠りが浅いタイミングで、起こしてくれるアラームのスマホアプリを愛用している。
この機能に、イビキ検知と録音があり、結構イビキをかいてるんだなあ、と聞いてみたら、実は寝言だったのだ。
「なんだ、アプリかあ」
納得してくれたようだ。
「形山社長か、茜ちゃんかと思った」
形山彩芽は、俺と志桜里が所属するタレント事務所の社長兼ベテラン女優で、以前は社長業の傍ら、志桜里や俺のマネージャーでもあった。
おいおい、どうしてかわからないが、疑われてたぞ、二人とも。
だが、よし、ごまかせたようだ。
俺の寝言を聞いてみたい、とリクエストされたので、俺の寝方をあみが、寝室のクッションの存在を志桜里がなぜ知っているかをごまかせて安心した俺は、昨日のホテルでの記録を再生した。
波形の赤いところが、大きな音なので、そこをタッチ。
ぱきっ、ミシっみたいな音。
ごそごそした衣擦れの音。
「・・う・・な・・」
「ボクには、なんて言ってるのかわからないよ」
「まあ、寝言だからな」
それに、大きな音なら感知するので、寝返りや野外のサイレンとかでも録音している場合もある。
また、別の赤い波形をタッチ。
「・・・・ああ、うん・・・」
「相槌をうっているみたいですね」
「先輩の、『聞いてる風』のいつものやつだね」
寝言だ、これは。
「・・・・わかった、ああ。ああ・・・『ふって』・・・」
うわっ、なんだ。
最後の?
女性の声に聞こえた。
怖っ。
肩が痛いのは、このせいじゃないのか?
「こわー、さわりん、肩痛いの平気?」
ぞくっとしたのか、自分で自分の肩を抱いたミホが、恐怖を共有して、俺を心配してくれた。
でも、可動域が広いから、なんだかミホ、キモい。
だが、あみと志桜里は、違う目をしていた。
「先生、ホテルに泊まったのでしたよね?誰と?」
「先輩、誰よ、この女?まさか、仕事帰りに、茜ちゃんと?」
いや、そこは、心霊的な心配をしようよ、ミホみたいに。
そんなに女性関係で信用ないのか、俺?
ああ、風俗通い疑惑、という前科がありましたね。
「沢田先生?」
声をかけられて振り向くと、俺のマネージャー西原茜が立っていた。
元セクシー女優だったことを揶揄する者がいなくなったくらい、敏腕マネージャーに成長している。
最近では、俺の仕事が少ないのもあり、兼任で別のタレントも担当するようになったくらいだ。
そちらは、彼女が担当してから、売れている。
なのに、俺を訪ねて、よく学園に来るので、暇なんじゃないか、と思ったりもする。
「沢田先生、今朝スケジュールの変更をLINEしましたが、『いつものように』リアクションがないので、確認させていただきに参りました」
暇だと疑って、すまん。
俺と軽く打ち合わせる茜を、『ふって』の声の主では、と探っていたあみが、少し茫然として、呟いた。
「・・・茜ちゃん。寝てないの?」
確かに、化粧で隠しているが、目の下にクマがある。
「どうして、寝ていないのです?」
どうやら二人は、
俺がホテルに泊まった。
茜が寝ていない。
ゆえに、ホテルで俺が茜を眠らせなかった、といった妄想に憑りつかれたようだ。
それであれば、俺の寝言もないはずなのだが。
「沢田先生をホテルへお送りした後、社長のドラマ収録にヘルプで行って、徹夜になってしまいました」
でも、茜はあっけらかんと答え、ぺこり、と俺に頭を下げた。
「それで昨夜は時間がなくて、ご自宅までお送りできなくて申し訳ありませんでした」
だから、ホテルに泊めさせられたのか。
「それはいいが。茜が、その後も仕事だと知っていれば、自分でホテルまで行ったぞ?」
「沢田先生は、茜が徹夜かもしれないって聞いたら、心配するじゃありませんか」
俺は、「ソンナコトナイデスヨ」という顔をしたが、周りは「ああそうだよね。意外と心配性だからねコイツ」といった雰囲気になった。
「それに、」
疲れを見せない笑顔で、
「茜は、沢田先生の近くに、ちょっとでも長くいたかったんです」
茜のホテル宿泊疑惑が晴れたのに、なぜだか、空気がギスギスした気がする。
「それ、どうしたんですか?」
その空気を物ともせずに、茜は、俺のスマホを示した。
「ああ」
俺の録音された寝言を聞いていた、と説明したら、彼女はくすくすと笑った。
「沢田先生、寝言が多いですものね。お疲れになった夜は、特に」
あみと志桜里とミホが、「なんで知ってるの?」という目をした。
『疲れた夜』の俺の寝言を、茜がどうやって聞いたのか、誰もが想像してしまう中、空気を読まずにミホが、一休さんばりに回答した。
「車で?」
「ちっ」
俺のマネージャーが、舌打ちしましたよ?
「はいそうです。沢田先生をお仕事の後、ご自宅にお送りする車の中で、うとうとされての寝言をよく聞きましたっ」
種を明かされれば、なんてこともなかった。
ドキドキして、損した。
いや、心当たりは、ないが、なんか不安になるものだ。
これは、「話がある」といわれたら「どれだろう」と思ってしまうのと同じくらい、よくある現象だ。
「志桜里、お待たせ。沢田専務も、みなさんもこんにちは」
形山社長が、午後から仕事の志桜里を迎えにきたようだ。
彼女は志桜里、そしてその後しばらく俺の担当マネージャーだったが茜を雇い、志桜里にはベテランを付けたことで、社長と女優業に専念。
しかし、志桜里の後任マネージャーが先週、急に産休に入ってしまったので、再び担当していた。
彼女は、元々は形山のマネージャーで、事務所独立についてきてくれた、社長の右腕だ。
浮いた話もなく、突然の産休に驚いたが、まあお目出たいと思おう。
ちなみに、俺が専務なのは、経費削減のため書類上のことだけで、偉くもなんともないが、俺が専務と呼ばれるのを嫌っているのを知って、社長はわざと専務呼びしてくる。
「茜ちゃん、何かあったのかしら?」
彼女は、変な空気に気がついたようで、部下に聞いた。
「沢田先生の寝言のことで、」
ちょっと気まずそうに、アプリの説明をすると、社長は、なぜだか誇らしげに言った。
「沢田専務、寝言が多いものね。お疲れの夜は、特に」
空気が、固まった。
会心のネタを振ったつもりなのだろうが、すでにスベっている。
無残な大事故に、顔を背ける俺たち。
「え?え?」
予想外の反応に、対応できない社長。
話を振ってしまった上に、自分が上司を窮地に追い込む結果となった茜は、悟った目になっていた。
「・・・行きましょう、社長」
「え?ねえ、どうして知ってるのって、聞かないの?」
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