(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第二巻:夏は、夜

停電+弟妹

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「あれ?停電でしょうか?」
「ああ、でも、ここだけみたいだな」
 収録に出るはずの外国から来日した大学教授の到着が遅れているのを、楽屋で俺たちは待っていたところ、部屋の照明が消えてしまったのだ。
 楽屋は、内開きのドアを入ってから窓まで細長く廊下と同じカーペット敷きのスペースがあり、そこには壁にカウンター状のテーブルがついている。
 その脇が、靴を脱いであがる四畳半の和室になっていて、ローテーブルが置いてある。
 カウンターテーブル前に椅子は、ひとつだけで俺が座ると、マネージャーの茜は畳に正座するので、椅子は彼女に譲っている。
 俺も、茜も各々ノートパソコンに向かっていた。
 廊下、窓からの明かりは入ってくるので、物は見える。
 二人で、畳と椅子で、顔を見合わせたが、とくに停電に関して謝罪にスタッフが来る様子もない。
「この部屋だけの故障かな?」
「茜が聞いてきます」
「頼む」
 茜が、照明が明るい廊下へ出ていった。
 俺は畳に胡坐をかきながら、停電が関係ないノートパソコンで、今日の解説内容の確認を続けた。
 コンセントにつないでないのでバッテリー残量のせいか、ディスプレイの光量が一段下がった。
 天井から、ぱきぱきいう音が聞こえた気がする。
 なんだろう?
『ふって』
 なんだと思った瞬間に、ドアが開いた。
「沢田先生、原因がわからないので、別の部屋に移動いただけますか」
「・・・わかった、茜」
 ドアが開く前、何かが聞こえたと思ったのだが?

『はい、一回、止めまーす!』
 収録中、地震があった。
 軽い揺れだったが、収録が止まる。
「この付近が震源で、震度二くらい、津波はないそうです」
「ありがとう」
 茜が駆け寄ってきて、教えてくれた。
 余震の続報もなく、天井のライトの揺れも収まったからか、
『収録、再開しまーす!』
 その声に、茜が離れていく。
 収録中、茜にADらしき小太りの男が近寄って、遠目にも彼女が眉をひそめたっぽいのが、気になった。
 遅れてやってきた外国人大学教授が途中、居眠りして通訳に蹴られていた以外トラブルもなく、無事収録が終了した。
「おつかれさまでーす」
 周りのスタッフに、誰にともなく言いながら、茜の元に歩いていく。
「沢田先生、さっき報告があったのですが、はじめにいた楽屋の天井が、地震で落ちたようです」
 ADからの件だろう。
「なにそれ?」
 天井が落ちたといっても、コンクリートが崩落したわけではなく、施工不良の石膏ボードが、地震で落下したようだ。
 偶然はいった楽屋から、偶然照明の故障で移動し、偶然施工不良で、偶然の地震で、偶然天井が落下した。
 まあ、偶然収録中だったので、怪我もしなかっただろうが。
 この件の報告を受けたらしいプロデューサーが、慌てて謝罪にきたが、何の被害もなかったので、にっこり笑って「貸しは、ひとつ」だけにしておいた。
 社長に、毒されてるかなあ。

 数日後、楽屋の畳の上で、俺は大の字になって、ワイヤレスのイヤホンでASMRのライブ配信を聴いていた。
 先日、天井が落ちた局なので、楽屋も同じつくりのカウンターテーブルと和室の部屋で、茜は椅子でスマホを見ている。
 今日の収録は、俺が聞き役なので、あまり準備することもなく、時間までリラックスして待機しているのだ。
 あみと志桜里は、俺がASMRを聴くことを、蛇蝎の如く嫌っている。
 俺が、彼女たち以外の声で、癒されているのが、我慢できないらしい。
 それに比べて茜は、そういう部分には、寛容だ。
 逆に、「このユーチューバーお好きだと思います」と教えてくれたりする。
 耳元で、タオルで擦る、がさがさした音が響く。
 他の女性の声で、というが、俺はこういう不規則なホワイトノイズのような音が好きなのだ。
『おにいちゃん、次はお耳を綿棒でお掃除するよ』
 今回は、たまたまチャンネル登録しているこのユーチューバーが、リクエストでこういうシチュエーションを選んで配信した結果で、偶然だ。
 俺が聞きたいのは、声ではないのだが、あみたちに知られたら、また公開裁判だろうな、とは思った。
 がさごそいう音が、響く。
 時々ノイズが混じるが、生配信とは、こういうものだ。
「おにいちゃん、そろそろお仕事のお時間ですよ」
 イヤホンからではない声に目を開けると、茜が、いたずらっぽい目で、覗き込んできていた。
 どうやら、ライブ配信の題名を見て、シチュエーションを知ったらしい。
 俺は身を起こし、
「そう呼ぶってことは、これからは妹扱いでいいんだな、茜?」
「あ、それはそれで萌えるシチュエーションかもしれません」
 本音だだ漏れだぞ、マネージャー。
『沢田先生、本日の衣装になります!』
 俺たちはふざけるのを止め、仕事モードに切り替えた。
 窓の外から、夕立が聞こえ始めた。

 偶然、先日の外国人大学教授ゲストと再会し、偶然また居眠りされて蹴られるのを目撃する、という収録が終わり、茜に車で部屋まで送ってもらった。
 まだ電車はある時間帯だったが、収録が伸びていたら微妙な時間だ。
 俺は別に、電車で行けるところまで行ってタクシーに乗り換えでもいいのだが、こういうスケジュールのとき、茜は自分で送迎するといって、絶対に譲らない。
 しかも、まだ夕立の名残りで小雨が降り続いているなら、なおさらだ。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、茜」
「はい、おやすみなさい、沢田先生」
 車を見送って、夏の雨に濡れたアスファルトの匂いを嗅ぎながら、小走り。
 鍵を開け、部屋に入る。
 明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
 妹の夏月が、科学雑誌を読んでいた。
 それは、ローテーブルに、置きっぱなしになっていた一冊だ。
 「文化人として、ちゃんと勉強しておきなさいよ」と事務所が俺に定期的に買い与えてくるもので、実は今日も茜経由で渡され、鞄に入っていて重い。
「・・・ただいま。まだ、起きていたのか、夏月。待ってなくていいと言っただろう?」
「おにいちゃんなんて、待ってないよ。ちょうど寝るところだっただけ」
 また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
 とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」

 翌朝、登校のとき、集合住宅のロビーの掲示板に、謝罪文の張り紙が貼ってあるのを見つけた。
 どうやら昨日、夕立の雷で、この建物全体に停電があって、俺が帰る直前くらいに復旧したようだ。
 なんだか、停電が多いな、と思った。
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