(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第二巻:夏は、夜

メイド×面倒事-メイド

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「あみをメイド喫茶で働かせろ?」
「はい、それが事務所に届いた脅迫メールの要求です」
 あみのマネージャー志方に呼びだされたら、そんな問題が勃発していた。
「このことを、あみは?」
「はい、もちろん知っています。でも」
 志方は口ごもり、
「沢田さんには、内緒にしろと言われてます」
 それで、この場に、あみがいないわけか。
 偉いぞ志方。
「よく、話してくれた。ありがとう」
「きょ、共犯者ですから」
 志方は、俺とあみがつきあっていることを知った上で、秘密にしている共犯者であり、事務所への裏切り者だ。
 それにしても、
「脅迫の目的が、分からないな」
「そうなんです」
 あみを害したいなら、脅迫などしないで、いきなり狙えばいい。
 テレビを見て、あみメイドに会いたいなら、店なり番組なり、事務所に要望を出した方が、実現の率が高い。
 単なる愉快犯ぽいのだが、それにしては、「メイド喫茶で」というのが、具体的で不気味だ。
「事務所とあみの反応は?」
「こういうのは、よくあることなので、事務所は無視の指示です。あみさんは、ちょうどいい機会なので、メイド喫茶に行くつもりです」
 大人数のタレントを擁する事務所だ、脅迫メールなんて、日常茶飯事なのだろう。
 うん?
「脅迫って、メイド喫茶で働らかなかったら、どうするって?」
「いえ、ただ、あみをメイド喫茶で働かせろ、とだけです」
 つまり、実は脅迫ではなく、言葉使いを知らないだけの要望メールなのかもしれない。
 だとしたら、あみがメイド喫茶で働いた既成事実ができれば、感謝のメールが届いて、一件落着するのか?
 あみもそんな風に捉えていて、俺が過剰な心配をしないように、内緒にしたのか。
 そんなに心配する必要はないのかもしれないが、心配だ。
「俺が、つきそうのも無理だしな」
 メイド喫茶だ、男の俺は、客として行くしかなく、長時間居座れば、写真週刊誌に載ってしまった身だ、それはそれで別の問題に発展しそうだ。
 そもそもそんなことをすれば、この件を俺が知ったことも、誰がバラしたのかも、あみにモロバレになる。
「どうしましょう?」
 あみに、俺が知ったことを伏せつつ、念のためメイド喫茶で、あみの周りを警戒する。
 ああ、ちょうどいいのが、いるじゃないか。
「え?沢田さん、なんで、そんなに見つめてくるんですか?え?」
 顔を赤らめて、もじもじするな志方。

「それで、沢田様とあみさんのご関係は?」
「同級生です」
「ああ、鳳凰学園の学生さんでしたわね、あみさん」
 俺と志方は、メイド喫茶さっきゅばすどりーむの佐伯店長と面会していた。
 メールの件は伏せ、あみが番組でお世話になったお礼に、また働きに来たがっているが、撮影スタッフがいない一人では心配なので、このマネージャーの志方もメイドとしていっしょに働かせたい、という交渉に来たのだ。
 なんの香りだろう。
 店内には、香か香水か、独特な、甘いが刺激的、スパイシーと言えばいいのだろうか、不思議な匂いが漂っていた。
「マネージャーの志方様はわかりますわ。でも、どうして『同級生』の沢田様が、同席されているのでしょう?」
 そんな質問は、想定内だ。
「『同級生』の北乃さんを通じて、志方さんとは知り合いで、相談されました。北乃さんが心配という言い訳で、どうしても自分もメイド服を着たいのだけど、いい歳なので恥ずかしくて、一人では頼みにいけないと」
「ちょ、沢田さん」
 志方を目で黙らせる。
 というか、ここに来ての第一声が、それか。
 お前が説明する段取りだったのが、モジモジしているから俺が話して注目され、こんな質問されているのだろうが。
「『同級生』ということは、沢田様も鳳凰学園の学生さん、なんですよね?」
「はい、そうです」
「鳳凰学園、楽しそうですわね」
 佐伯が、くすくすと笑う。
「ええ、まあ。それで、佐伯店長、この件は、」
「レイチェル、ですわ」
 佐伯店長に、俺は言葉を遮られた。
「はい?」
「わたくしのメイド・ネームは、レイチェルです。レイチェルとお呼びくださいませ、沢田様」
 確かに、その豊な胸の上のネーム・プレートには、レイチェルとあった。
「はい、レイチェルさん、この件、」
「メイドに『さん』も敬語も不要です。沢田様」
 再び、遮られた。
 零れるような笑顔だが、目は笑っていない。
 これが、全国トップ店長としての彼女の本性なのだろう。
 俺とあみとの関係や、この件に、俺が出しゃばってきた理由などの裏を読んだ上で、問うてきているのだ、お前は何者だ?と。
 オーケイ、それなら、俺も素を曝そう。
 俺は、長いため息をついて、
「何も聞かずに、俺の頼みをきいてくれないか、レイチェル?」
 見つめる目が、初めて笑った。
「・・・かしこまりました、ご主人様」
 レイチェルは、椅子から立つと、スカートをつまんで片膝を曲げて一礼した。
「ご主人様が通われる鳳凰学園、本当に楽しそうなところですわね」
 口元に手をあてて、控えめに笑っているが、メイドというよりは、女王然としていて、本性はS気質なんじゃないのか?
 そんな俺の予想は、当たった。
 この後、やりとりを茫然とみていた志方が、メイドをやろうにも接客業の経験がまったくないことが判明して、レイチェル直々のレッスンが行われた。
 俺は客役として、ケチャップをぶちまけられた生贄のようなオムライスを、南方の悪魔召喚のような儀式を経て、食べさせられた。
 そんな仕打ちを受ける俺に、レイチェルの目はらんらんと輝いていて、実に楽しそうだった。

 結局、約半日働いたメイド喫茶で、あみにトラブルは起こらなかった。
 働いた既成事実の告知のため、「メイドあみ接客中」と店のSNSにもアップしたが、番組のときと違って、アイドルグループのメンバーが拡散していないので、リアルタイムでは大きな騒ぎにならなかった。
 志方は、いろいろやらかしてくれていて、そのたびにレイチェルが、志方から聞き出した俺のLINEに、『保護者様宛』として、口調は極上に丁寧なのだがネチっこい俺への苦情と嫌味が綴られてきた。
 しかし、オムライスにかけるケチャップをイチゴソースに間違えたのが、好評だったというのだから、まだまだ世界は神秘に溢れているな、と思った。
 志方からは、メイド喫茶の世界に感激した的な報告と、飛び切りな笑顔のメイド服姿の写真が送られてきたので、いくつかのグループLINEに晒しておいた。
 さっそく、志桜里から「なんの罰ゲームですか?」的なメッセージが入っていた。
 あのね志方、君は、あみの周りを警戒するために、行ったんだよな?
 メイド後あみは、直接自宅には帰らせずに、事務所経由で、ホテルに志方と一泊させた。
 後で聞いたら、俺の風俗通い騒動の最後に、あみに殴られたホテルだった。
 絨毯のふっかふかさ加減を思い出して、目が遠くなった。
 ホテルのあみからは、「退屈!」「まだ起きてる?」「志方さん寝相ワルッ」などとLINEの連打だったが、メッセージが来る度に、無事がわかって安心できた。
 その後、あみがメイド喫茶で働いたことへのリアクションも、追加の要求もなく、解決したのか不明で、消化不良だった。
 あれから毎日、レイチェルから、「これから開店します。ご主人様」「本日の営業終了いたしました、ご主人様」といった、オーナーか上司に送るような感じのメッセージが、謎に届く。
 「店に来い」とかの営業的な言葉や「疲れた」などの感情が一切ないのが、逆に怖い。
 何より驚いたのが、学園の講義スケジュールに、「特別講義メイド学の講師」として、レイチェルの名を見つけたことだった。

「・・・おにいちゃん、メイド喫茶に行った?」
 リビングのテレビで、科学実験番組を見ていたら、急に夏月に聞かれた。
「・・・客では、いってないが」
 交渉に行っただけだ。
 志方のレッスンも、客「役」だ。
「そう。もう寝るね」
 また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
 と自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」

『ちっ、こなかったか』
 メイド喫茶での待ち伏せは、空振りだった。
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