38 / 67
第二巻:夏は、夜
商談÷怪談+怪談
しおりを挟む
「どうしても、断れないのか?」
俺は、車の助手席で、後ろに向かってゴネていた。
「断れるんだったら、私も車に乗ってないわよ」
後部座席の社長も、ご機嫌斜めだ。
「茜は、ちょっとだけ楽しみですけど」
運転席の茜は、妙にワクワクした顔をしている。
俺たちは、怪談番組の収録へ、急ぎ向かっていた。
出演者二名が急病でドタキャン、と社長が世話になっているプロデューサーに泣きつかれたのだ。
現在、収録は俺たちの到着待ちという、危機的な状況にある。
あまりに急な依頼に、社長自身と学園帰りに拉致された俺が、ブッキングされた。
「俺、文化人枠じゃなかったっけ?」
「しょうがないでしょう、他いないんだもの」
志桜里は、空いているようだったが、怪談など心霊系は無理なのだそうだ。
初のバラエティー出演に、俺が抗議し続けていると、社長は逆ギレしてきた。
「なに?怖いの?」
「初バラエティーが怖いんじゃなくて、俺の売り方の戦略的な話を、」
「沢田先生、違うと思います」
茜に、否定されて、遮られた。
「違う?戦略がか?」
「いいえ。社長がおっしゃられる『怖いの?』は、怪談が、ではないでしょうか」
俺が、答えられないでいると、社長が「ぷぷっ」と噴き出した。
「やっぱり、怖いんだ?」
「茜、車止めろ。降りる、今すぐ止めろ」
「すみません。怖がる沢田先生を早く見てみたいので、茜はアクセル踏み込んでます」
押しに押しているので、俺は制服のまま、顔だけ簡単に塗ってもらって、ひな壇に車中でメイク済の社長と並んで座らせられると同時に、ドタバタの収録は開始された。
出演者が、自分の恐怖体験などを語るのだが、話の最中にセットの部品が外れて落下したり、暗転した照明が戻らなかったり、意図しない効果音が流れたり、スタッフが人形が動いたとか騒いだり、ドタバタしているせいか、トラブルが続く。
そして途中の休憩中、社長が世話になっているプロデューサーから、取れ高が微妙なため、カット前提で、エピソードトークを頼めないかと懇願された社長は、急な出演とは別の貸しとして受け、俺に丸投げした。
「沢田専務、よろ!」
「中学生のときなんですが、夏休みに、友達と地元で有名な廃墟を見に行ったんです。山の中にあるので、バスを利用するしかなくて、昼間に行きました。一見、別荘みたいな一軒家だったんですが、壊れたドアから入ると、中が全部、ペンキで、緑色に塗られていて異様でした。いっしょに行った友達が、二階で音がするというので、階段であがってみると、奥の部屋に少し開いた押し入れがありました。近づいたら、いきなり柴犬くらいのサイズのものが、隙間から飛び出てきて、俺たちの脇をすり抜けて、階段を下り下の階から外へ逃げて行きました。びっくりした私たちは、なんだったんだろう、野良犬が住み着いているのかな、などと言いながら、押し入れを開けると、そこで下半身だけの白骨の遺体を発見しました。当時、新聞に少年たちが白骨発見と載りましたが、逃げていった、あれは、何だったんでしょう?そして、上半身は、どこへ行ったのでしょうか?私の体験は、以上です」
初のバラエティー出演を終え、走る車の中で俺は、ぐったりしていた。
急に依頼されたエピソードトークも、その割には、ちゃんと話せたと思ったのだが、リアクションが薄く、カットされることだろう。
二人もそう感じたのだろう、慰めをためらっているのか、車内は静かだ。
まあ、もうバラエティーには出ないので、爪痕なんていらないのだが。
「茜ちゃんから、プレゼントの話を聞いて、引いてたけど。これほどの破壊力のが、他にもあるとは思ってなかった」
社長がぽつりと言うと、茜は、
「あ、茜は、今回も引いてませんよ」
どうやら、新聞沙汰の話だったからか、ドン引きされていた。
話題を変えよう。
「しかし、セットが壊れたり、やらせの演出が過ぎたな」
『あ』
二人が、気まずそうだ。
「・・・あれ、やらせじゃないそうです」
「ガチのトラブルだって。プロデューサー困ってた」
じゃあ、人形が動いたとかいうのも。
「あんな体験していて、なんで今更そんな顔?」
社長が呆れ、茜は、
「ようやく、怖がっている沢田先生を見られました」
何より一番の恐怖は、せっかくの収録がお蔵入りになったことだったが、それを知るのは後日のこと。
途中で、自宅が局に近い社長を降ろし、茜に車で部屋まで送ってもらった。
全然、早い時間だったので、俺が電車で帰れば、茜は楽ができるのだが、彼女は絶対に譲らない。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、茜」
「はい、おやすみなさい、沢田先生」
鍵を開け、部屋に入る。
明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
夏月が、読んでいた科学雑誌から顔を上げ、
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、急に怪談番組の仕事がはいったんだ」
言ってから、社長との共演は、今回が初めてだったな、と今更気がついた。
「怪談」
手の中の科学雑誌を見て、呟く。
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
俺は、車の助手席で、後ろに向かってゴネていた。
「断れるんだったら、私も車に乗ってないわよ」
後部座席の社長も、ご機嫌斜めだ。
「茜は、ちょっとだけ楽しみですけど」
運転席の茜は、妙にワクワクした顔をしている。
俺たちは、怪談番組の収録へ、急ぎ向かっていた。
出演者二名が急病でドタキャン、と社長が世話になっているプロデューサーに泣きつかれたのだ。
現在、収録は俺たちの到着待ちという、危機的な状況にある。
あまりに急な依頼に、社長自身と学園帰りに拉致された俺が、ブッキングされた。
「俺、文化人枠じゃなかったっけ?」
「しょうがないでしょう、他いないんだもの」
志桜里は、空いているようだったが、怪談など心霊系は無理なのだそうだ。
初のバラエティー出演に、俺が抗議し続けていると、社長は逆ギレしてきた。
「なに?怖いの?」
「初バラエティーが怖いんじゃなくて、俺の売り方の戦略的な話を、」
「沢田先生、違うと思います」
茜に、否定されて、遮られた。
「違う?戦略がか?」
「いいえ。社長がおっしゃられる『怖いの?』は、怪談が、ではないでしょうか」
俺が、答えられないでいると、社長が「ぷぷっ」と噴き出した。
「やっぱり、怖いんだ?」
「茜、車止めろ。降りる、今すぐ止めろ」
「すみません。怖がる沢田先生を早く見てみたいので、茜はアクセル踏み込んでます」
押しに押しているので、俺は制服のまま、顔だけ簡単に塗ってもらって、ひな壇に車中でメイク済の社長と並んで座らせられると同時に、ドタバタの収録は開始された。
出演者が、自分の恐怖体験などを語るのだが、話の最中にセットの部品が外れて落下したり、暗転した照明が戻らなかったり、意図しない効果音が流れたり、スタッフが人形が動いたとか騒いだり、ドタバタしているせいか、トラブルが続く。
そして途中の休憩中、社長が世話になっているプロデューサーから、取れ高が微妙なため、カット前提で、エピソードトークを頼めないかと懇願された社長は、急な出演とは別の貸しとして受け、俺に丸投げした。
「沢田専務、よろ!」
「中学生のときなんですが、夏休みに、友達と地元で有名な廃墟を見に行ったんです。山の中にあるので、バスを利用するしかなくて、昼間に行きました。一見、別荘みたいな一軒家だったんですが、壊れたドアから入ると、中が全部、ペンキで、緑色に塗られていて異様でした。いっしょに行った友達が、二階で音がするというので、階段であがってみると、奥の部屋に少し開いた押し入れがありました。近づいたら、いきなり柴犬くらいのサイズのものが、隙間から飛び出てきて、俺たちの脇をすり抜けて、階段を下り下の階から外へ逃げて行きました。びっくりした私たちは、なんだったんだろう、野良犬が住み着いているのかな、などと言いながら、押し入れを開けると、そこで下半身だけの白骨の遺体を発見しました。当時、新聞に少年たちが白骨発見と載りましたが、逃げていった、あれは、何だったんでしょう?そして、上半身は、どこへ行ったのでしょうか?私の体験は、以上です」
初のバラエティー出演を終え、走る車の中で俺は、ぐったりしていた。
急に依頼されたエピソードトークも、その割には、ちゃんと話せたと思ったのだが、リアクションが薄く、カットされることだろう。
二人もそう感じたのだろう、慰めをためらっているのか、車内は静かだ。
まあ、もうバラエティーには出ないので、爪痕なんていらないのだが。
「茜ちゃんから、プレゼントの話を聞いて、引いてたけど。これほどの破壊力のが、他にもあるとは思ってなかった」
社長がぽつりと言うと、茜は、
「あ、茜は、今回も引いてませんよ」
どうやら、新聞沙汰の話だったからか、ドン引きされていた。
話題を変えよう。
「しかし、セットが壊れたり、やらせの演出が過ぎたな」
『あ』
二人が、気まずそうだ。
「・・・あれ、やらせじゃないそうです」
「ガチのトラブルだって。プロデューサー困ってた」
じゃあ、人形が動いたとかいうのも。
「あんな体験していて、なんで今更そんな顔?」
社長が呆れ、茜は、
「ようやく、怖がっている沢田先生を見られました」
何より一番の恐怖は、せっかくの収録がお蔵入りになったことだったが、それを知るのは後日のこと。
途中で、自宅が局に近い社長を降ろし、茜に車で部屋まで送ってもらった。
全然、早い時間だったので、俺が電車で帰れば、茜は楽ができるのだが、彼女は絶対に譲らない。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、茜」
「はい、おやすみなさい、沢田先生」
鍵を開け、部屋に入る。
明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
夏月が、読んでいた科学雑誌から顔を上げ、
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、急に怪談番組の仕事がはいったんだ」
言ってから、社長との共演は、今回が初めてだったな、と今更気がついた。
「怪談」
手の中の科学雑誌を見て、呟く。
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
0
あなたにおすすめの小説
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる