39 / 67
第二巻:夏は、夜
非常事態×非常事態+施錠状態
しおりを挟む
『【大至急】事務所に来てください』
一日の聴講を終え、スマホを確認すると、茜からこんな連絡が入っていた。
彼女が、【大至急】という言葉を使ったのは初めてで、なのに理由の追記がないのが、不自然だ。
それに、急ぎの仕事なら、俺が帰る時間を把握しているから、それに合わせて車で迎えにきていても、おかしくはない。
先日の怪談番組も、その手口で拉致られたのだから。
俺は自分で言うのもなんだが、珍しく即「大至急行く」と返信した。
あみたちに事情を話して別れ、事務所に着いたら、大騒ぎになっていた。
業者らしき作業着の数人が、機械を片手に、何か捜索しているようなのだ。
「あ、沢田先生、こちらへ」
俺に気がついた茜が、声を潜めて、俺を駐車場まで連れて行った。
彼女が、いつも使う車の後部座席に乗り込んだので、俺も隣に座る。
「ここは、調べてもらって、大丈夫でしたから」
調べてもらった?
さっきの作業着の業者にだろうか。
俺は、続を促した。
「休憩室にオヤツボックスがあるのは、ご存じですよね?」
事務所や現場での差し入れ、ファンからのプレゼントで市販品のお菓子などが入っている箱で、『ご自由にどうぞ』と書いてある。
「スタッフが、ポテトチップスの袋を開けて、盗聴器を発見しました」
それで、この騒ぎか。
事務所に、まだあるかもしれない盗聴器を警戒して、ここに連れてこられたわけだ。
「幸い、確認したら、既に電池は切れていました。もしかしたら、始めから電波を出していなかったから、チェックに引っかからなかったのかもしれません」
ファンからのプレゼントは基本、すべて盗聴器などを調べている。
それで見つからなかったのだ、始めから動いていなかったのだろう。
それでも念のため、業者に頼んで、調べていると。
あまりダメージはなさそうだ。
今後のためにも、対策は練らないといけないが。
なんだか、『専務』だから、と社長に仕事を押しつけられそうだな、などと思いながらも、ほっとしていた。
茜のスマホが鳴り、俺のも振動した。
確認すると、社員全員参加グループLINE。
『社長宅で盗聴器発見』
「中古のマンションだから、前の住人へのかもしれないんだけど」
社長宅のキッチンのコンセントにささった三個口タップから、盗聴器が見つかった。
電源をコンセントから得るので、電池式と違い半永久的に使える。
業者が中を開け、型式を確認したら、古いタイプで、埃の具合からも、社長が越してきた前から、あったのだろうと推測された。
今回のポテトチップスの盗聴器とは、別件かもしれない。
しかし、社長宅には、志桜里も住んでいるので、ターゲットは社長とも限らない。
志桜里は、
「先生に食べていただくお料理の特訓を聞かれていかたもしれませんね」
と何故か、顔を赤らめて、嬉しそうだった。
まあ、盗聴の精神ダメージがないなら、それでいい。
もっとも、もう誰も聴いていなかったのかもしれないが。
それでも、万が一を考え、所属のタレント全員の自宅を調査することになった。
『ぴんぽーん!』
インターホンが鳴り、出ると茜が写っていた。
『えへっ、きちゃった』
無視してドアを開け、彼女にはリアクションせずに、業者に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
茜が連れてきた業者が部屋にあがり、盗聴器の調査を始める。
茜も、よく送ってはくれるが建物の前までで、部屋に上がるのは、俺の風俗通い疑惑であみに殴られ気絶したまま運ばれた以来で、興味津々に見渡している。
リビングのローテブルに置かれた、事務所から「勉強せよ」と買い与えられている科学雑誌に、読まれた形跡があるのを見て、うんうん頷いている。
さり気なく、リビングと続きの部屋にあるデスクトップパソコンのマウスに触れるが、スリープではなく、電源を切ってコンセントも抜いてある。
「ちっ」
舌打ちをするな、業者が、驚いて見てるぞ。
業者は、ドアを開けっぱなしの寝室を調べた後、もうひとつのドアに手をかけ、戸惑った声をかけてきた。
「鍵がかかっているのですが、開けていただいて、よろしいですか?」
「・・・ああ、すみません。物置にしているので、普段は開けないので」
俺の誕生日に、あみたちを招いたとき、ホームセンターで買った鍵をかけた後、開ける機会がなく、そのままだったのだ。
「あの日も鍵かかってましたね」
下着姿で寝ていたから、家探ししていないと思っていたが、そうでもないのか。
あの時は、デスクトップパソコンの電源は入れっぱなしだったが、スリープをとくのに、パスワードが必要だから大丈夫だったと思いたい。
物置の鍵を開けて、ドアを開ける。
間取り的に、リビングと寝室、洗面所、隣の住人の部屋との壁に囲まれていて、窓がなく真っ暗なので、照明をつけた。
中には、ここに引っ越してきて以来、開けてもいない段ボールや通販の空箱などが、置かれている。
「一部屋、もったいないですね。お掃除しますので、茜が住んでもいいですか?」
いいわけないだろう。
調査の結果、俺の部屋も含め、所属タレントの住居から、盗聴器は発見されなかった。
社長宅の盗聴器は、事務所のとは別件と判断され、オヤツボックスは廃止されなかったものの、ファンからのお菓子は、市販品だろうと、すべて破棄と決まった。
事務所のウェブサイトでも、今回の件を公表し、ファンへプレゼントの自粛をお願いして、一件落着となった。
中身が減ってしまったオヤツボックスに、なぜか『専務』へ自腹で随時補給せよ、と社長からの命が下ったが、役員手当では足りないのを理由に絶賛、交渉中だ。
「・・・おにいちゃん、誰かきたの?」
リビングのテレビで、推理ドラマを見ていたら、急に夏月に聞かれた。
「盗聴器の調査で、業者がきた。見つからなかったから、安心していい」
茜も来たが、別に話すことでもないだろう。
「そう。もう寝るね」
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
と自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
『見つかって、処分されていたのか、どうりで聞こえないはず』
一日の聴講を終え、スマホを確認すると、茜からこんな連絡が入っていた。
彼女が、【大至急】という言葉を使ったのは初めてで、なのに理由の追記がないのが、不自然だ。
それに、急ぎの仕事なら、俺が帰る時間を把握しているから、それに合わせて車で迎えにきていても、おかしくはない。
先日の怪談番組も、その手口で拉致られたのだから。
俺は自分で言うのもなんだが、珍しく即「大至急行く」と返信した。
あみたちに事情を話して別れ、事務所に着いたら、大騒ぎになっていた。
業者らしき作業着の数人が、機械を片手に、何か捜索しているようなのだ。
「あ、沢田先生、こちらへ」
俺に気がついた茜が、声を潜めて、俺を駐車場まで連れて行った。
彼女が、いつも使う車の後部座席に乗り込んだので、俺も隣に座る。
「ここは、調べてもらって、大丈夫でしたから」
調べてもらった?
さっきの作業着の業者にだろうか。
俺は、続を促した。
「休憩室にオヤツボックスがあるのは、ご存じですよね?」
事務所や現場での差し入れ、ファンからのプレゼントで市販品のお菓子などが入っている箱で、『ご自由にどうぞ』と書いてある。
「スタッフが、ポテトチップスの袋を開けて、盗聴器を発見しました」
それで、この騒ぎか。
事務所に、まだあるかもしれない盗聴器を警戒して、ここに連れてこられたわけだ。
「幸い、確認したら、既に電池は切れていました。もしかしたら、始めから電波を出していなかったから、チェックに引っかからなかったのかもしれません」
ファンからのプレゼントは基本、すべて盗聴器などを調べている。
それで見つからなかったのだ、始めから動いていなかったのだろう。
それでも念のため、業者に頼んで、調べていると。
あまりダメージはなさそうだ。
今後のためにも、対策は練らないといけないが。
なんだか、『専務』だから、と社長に仕事を押しつけられそうだな、などと思いながらも、ほっとしていた。
茜のスマホが鳴り、俺のも振動した。
確認すると、社員全員参加グループLINE。
『社長宅で盗聴器発見』
「中古のマンションだから、前の住人へのかもしれないんだけど」
社長宅のキッチンのコンセントにささった三個口タップから、盗聴器が見つかった。
電源をコンセントから得るので、電池式と違い半永久的に使える。
業者が中を開け、型式を確認したら、古いタイプで、埃の具合からも、社長が越してきた前から、あったのだろうと推測された。
今回のポテトチップスの盗聴器とは、別件かもしれない。
しかし、社長宅には、志桜里も住んでいるので、ターゲットは社長とも限らない。
志桜里は、
「先生に食べていただくお料理の特訓を聞かれていかたもしれませんね」
と何故か、顔を赤らめて、嬉しそうだった。
まあ、盗聴の精神ダメージがないなら、それでいい。
もっとも、もう誰も聴いていなかったのかもしれないが。
それでも、万が一を考え、所属のタレント全員の自宅を調査することになった。
『ぴんぽーん!』
インターホンが鳴り、出ると茜が写っていた。
『えへっ、きちゃった』
無視してドアを開け、彼女にはリアクションせずに、業者に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
茜が連れてきた業者が部屋にあがり、盗聴器の調査を始める。
茜も、よく送ってはくれるが建物の前までで、部屋に上がるのは、俺の風俗通い疑惑であみに殴られ気絶したまま運ばれた以来で、興味津々に見渡している。
リビングのローテブルに置かれた、事務所から「勉強せよ」と買い与えられている科学雑誌に、読まれた形跡があるのを見て、うんうん頷いている。
さり気なく、リビングと続きの部屋にあるデスクトップパソコンのマウスに触れるが、スリープではなく、電源を切ってコンセントも抜いてある。
「ちっ」
舌打ちをするな、業者が、驚いて見てるぞ。
業者は、ドアを開けっぱなしの寝室を調べた後、もうひとつのドアに手をかけ、戸惑った声をかけてきた。
「鍵がかかっているのですが、開けていただいて、よろしいですか?」
「・・・ああ、すみません。物置にしているので、普段は開けないので」
俺の誕生日に、あみたちを招いたとき、ホームセンターで買った鍵をかけた後、開ける機会がなく、そのままだったのだ。
「あの日も鍵かかってましたね」
下着姿で寝ていたから、家探ししていないと思っていたが、そうでもないのか。
あの時は、デスクトップパソコンの電源は入れっぱなしだったが、スリープをとくのに、パスワードが必要だから大丈夫だったと思いたい。
物置の鍵を開けて、ドアを開ける。
間取り的に、リビングと寝室、洗面所、隣の住人の部屋との壁に囲まれていて、窓がなく真っ暗なので、照明をつけた。
中には、ここに引っ越してきて以来、開けてもいない段ボールや通販の空箱などが、置かれている。
「一部屋、もったいないですね。お掃除しますので、茜が住んでもいいですか?」
いいわけないだろう。
調査の結果、俺の部屋も含め、所属タレントの住居から、盗聴器は発見されなかった。
社長宅の盗聴器は、事務所のとは別件と判断され、オヤツボックスは廃止されなかったものの、ファンからのお菓子は、市販品だろうと、すべて破棄と決まった。
事務所のウェブサイトでも、今回の件を公表し、ファンへプレゼントの自粛をお願いして、一件落着となった。
中身が減ってしまったオヤツボックスに、なぜか『専務』へ自腹で随時補給せよ、と社長からの命が下ったが、役員手当では足りないのを理由に絶賛、交渉中だ。
「・・・おにいちゃん、誰かきたの?」
リビングのテレビで、推理ドラマを見ていたら、急に夏月に聞かれた。
「盗聴器の調査で、業者がきた。見つからなかったから、安心していい」
茜も来たが、別に話すことでもないだろう。
「そう。もう寝るね」
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
と自分の部屋へ入っていった。
「おやすみ、夏月」
『見つかって、処分されていたのか、どうりで聞こえないはず』
0
あなたにおすすめの小説
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる