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第二巻:夏は、夜
不しょう÷ふ傷
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「・・・そういえば、今日だったか」
珍しく、今日はあみと聴講が被らず、教室から一人で学食に来たら、人だかりができていた。
その中心にいるのが、並んで座るあみとレイチェルだ。
今日、彼女の特別講義「メイド学」があり、それをあみが聴講、そのまま昼食となったのだろう。
二人は、メイド喫茶での師弟関係な上、アイドルグループの冠番組での次期二期生リーダー対戦でレイチェルがあみの応援団長をしたこともあり、仲が良くて、いいことだ。
俺は、くるりとそれに背を向けた。
わざわざ炎に近づく虫はいない。
あれは、炎による上昇気流のせいなのだが、そのうち俺の講義で使うとしよう。
今日は暑いから、冷やし麺系か、だからこそ敢えてのカップラーメンもありだな、などと既にコンビニ昼食メニューに思いを馳せていたら、がっと腕をつかまれた。
誰かと思えば、志方だった。
「レイチェル様が、お待ちです」
お前、またキャラ変わってるぞ。
あみのマネージャーだよな?
形山社長のときといい、染まりやすすぎないか。
酔い潰れたときに背負うと重いだけあって、彼女のパワーで強引に引きずられ、女王様たちの前に、引っ立てられ、正面の席へ肩に手を置いて座らせられる。
「あ、先輩」
「あら、沢田様」
それは、こんな美女二人の前に、俺なんかが正面に座ったら、ギャラリーはザワつきますよね。
なんの香りだろう。
以前、メイド喫茶で嗅いだ、香か香水か、独特な、甘いが刺激的、スパイシーと言えばいいのだろうか、不思議な匂いが漂ってくる。
これは、メイド服そのものからの匂いなのか。
「先輩、店長さんの講義、すごかったんだよ。メイドさんの歴史とか、世界での資格とか、メイド喫茶の経営とか、とっても勉強になった」
「・・・それは、よかった」
問題は、その横の化け物の思惑の方だ。
志方を使ってまで連れてきて、俺に何を言うつもりだ?
『秘密』を握られているので、逃げるわけにもいかない。
「わたくし、沢田様に、お願いがありますの」
もっと、もったいをつけるのかと思ったが、案外と前置きがなかったので、続を促す。
「わたくし、メイドではありませんか。ですから、学園でどなたか、お仕えする方がいないと、メイドとしての存在に、意味をなさないのです」
そうきたか。
「ぜひ、わたくしのお友達、あみさんのお友達の沢田様に、わたくしが仕える主様になっていただきたいのですわ」
『おおー』
ギャラリーから、歓声があがる。
うらやましいなら、変わってやるぞ、と言えれば、どれだけ楽か。
だが、舞台が悪かったな
「つまり、学園の外では、マネージャー。学園では、店長さんにお世話していただけるわけですね?俺『一人』のときが、なくなってします」
それを聞き、あみが『二人っきり』ができなくなると理解して、目を見開く。
あみとの関係性から、店長には、彼女の感情を無視して、俺の側には居座れないはずだ。
「・・・残念ながら、わたくし毎日は学園には登校できませんので、沢田様には、ご迷惑をおかけしてしまいます。それに、」
毎日じゃないと強調した上で、あみの方を向いて、
「わたくしは、メイドとして、沢田様とあみお嬢様ご夫婦のお世話をさせていただくつもりですわ」
「え?ご、ご夫婦?」
「ああ、失礼いたしました。お友達、でございましたわね」
真っ赤になって、嬉しそうなあみ。
だめだ、一撃で堕とされたか。
そのとき、彼女たちの向かい、俺の隣に、志桜里が座った。
俺にとっての援軍のはずなのだが、纏った雰囲気は、物騒だった。
メイドに対し、臨戦態勢の志桜里が口を開く前に、
「志桜里お嬢様ですわね。はじめまして。メイドのレイチェルと申します」
「・・・どうして、志桜里の名前を?」
「沢田様、あみお嬢様のご学友は、承知しております。メイドのたしなみですわ」
気勢を削がれたようだが、気をもちなおしたらしく、再び口を開こうとしたが、メイドが立ち上がった。
そして、両手を天に広げて、声高に宣言する。
「お嬢様方は、メイドを誤解していらっしゃる」
肩を落とす。
「ご主人様の側に佇む影を、邪魔者だとお考えになる」
まさにその通りの感想なのだろう、志桜里が、彼女を睨む。
「ですが!」
メイドは声を、片手を上げ、
「だからこそ、悪い虫を寄せつけない、お手伝いができる」
更にもう片手を上げ、
「ご主人様が、意地悪を言われたときには、メイドが、たしなめてさしあげられる」
志桜里が、俺を見た。
その顔では、俺がいつも意地悪を言っているみたいじゃないか。
「メイドが、雑務をこなすからこそ、こんな風に、」
くるりと回ったメイドは、志桜里の肩を、ぽんと押した。
急なことに、彼女は、ぱたりと俺に膝枕で倒れた。
「ご主人様と寛げるのです!」
おい、志桜里、はやく起き上がって、反論してやれ。
「・・・先生」
真っ赤になって、嬉しそうな志桜里。
だめだ、堕とされたか。
「これぞ、メイドのあるべき姿でございます」
これはもう、ショーだ。
一礼するメイドに、ギャラリーから拍手喝采が起きる。
「ズルい!志桜里ちゃん次、私!」
これ、何の公開羞恥プレイ?と俺は思った。
一日の聴講を終え、俺たちは、学園の出口へ向かって歩いてた。
俺にメイドを仕えさせるがどうかへの回答は、あみと志桜里の膝枕争奪戦によって、有耶無耶になった。
あみと俺が友達以上なこともバレてないか気になったが、メイド・ショーの演出の一環と捉えられたようで安心した。
今日、ミホを見なかったのは、もうホラー映画の撮影が始まったからだ。
そして、なぜかまだいる志方。
彼女は、午後から、仮入学ながら聴講するメイドに、付き従っていたのだ。
お前、あみのマネージャーだよな?
「私、お腹へった。みんなでご飯いかない?」
「俺は、パス。疲れた」
メイドに憑りつかれて、食事なんて、どんな目にあうかわからない。
メイドに「あーん」なんてされた日には、あみ「お嬢様」と志桜里「お嬢様」が、何をなさることか。
「志桜里は、先生と食べたいです」
「お疲れなら、わたくしのお店に、癒されにいらっしゃいませんか?」
俺の疲れの元凶が、巣窟に来いと言ってくるが、無視。
「あ、それいい」
「あたしもまた、メイド服着ようかな」
やめておけ、志方。
あの時より太くなったウエストに悩んでるのを、俺は知っているぞ。
「志桜里ちゃんも、メイド服を着てみたらいいのに、似合うよ」
「・・・先生がお好きで、見たいなら、着ます」
彼女らの勝手な俺の性癖妄想を聞き流し、学生カードをかざして、改札口のような、学園のゲートを通る。
メイドが、ひっかかった。
どうやら、仮入学なので、守衛がいる有人のところしか、通れないらしい。
遠回りするメイドをみなが待ったので、俺も仕方なく、立ち止まる。
頭上の街頭が、まるで消える直前のロウソクのように、ふわあっと明るくなった。
その光に照らされた、小太りの少年、いや青年?
その手に、光るもの。
少年は、こちらに向かって走り出したが、それほど動きは素早くない。
それを見て俺は、ブレザーを脱いで、左手に巻きつけた。
この男に気がついているのは、俺だけ・・・いや、メイドも走り出していた。
なので、俺は待つのを止めて、走って少年との距離を詰めた。
彼の攻撃目標は、俺ではなかったらしく、近づく俺に、驚いていた。
右手のナイフに、ブレザーで守った左腕を巻きつけ、ネジるようにして、動きを止める。
ナイフを握る手首に、固めた右拳を叩きつける。
一回、二回、三回!
手からナイフがこぼれ、路上を滑る。
メイドの靴が、それを踏みつけた。
抵抗する少年の腕が勢いよく、すっぽ抜ける。
彼は、そのままよろけ、後ろ向きに転んだ。
逃がさないように駆け寄るが、頭を打ったのか、気絶しているようだ。
一応、脈はあり、呼吸も安定している。
ようやく慌てて警備員が来て、少年を抑えつけた。
南のリゾート観光地で馬鹿たちに絡まれたり、あみにノックアウトされたり、更にダンス教室でのダンサー先生大声乱入騒ぎで懲りた後、格闘技もやっているトレーナー兼研究職の津々木に、簡単な護身術のレクチャーを受けていて、助かった。
本当は、大声出して、警備員が先に対処してくれれば、ベストだったのだが、位置関係が悪かった。
「・・・はい。鳳凰学園の前で、暴漢に襲われました。犯人は警備員が確保してます。え?怪我はわかりませんが、急いで救急車をお願いします!」
スマホに怒鳴る志方の声が聞こえた。
さすがは大手事務所のマネージャー、ちゃんと非常時の訓練を受けているのか、いい対応だ。
白いレースのハンカチで、ナイフを包んでつまんだメイドが、
「ナイフに血がついています。ご主人様、お怪我は?」
言われて気がついた。
ナイフを叩き落としたときに、相手の腕をネジって刃が上になったせいか、少しだけ右手を切ってしまったようだ。
「ご主人様」呼びは無視して、自分でハンカチを出して、押さえる。
路上に落ちたブレザーは、背中がバックリと切り開かれていた。
あーあ、買い替えだな、クリーニングに出したばかりなのに。
学園内はエアコンが効いているので、ブレザーを着て来ていて助かった。
メイドは、レースのハンカチごと、ナイフをぽいっと捨てて、俺の手の傷をハンカチごと握った。
おいそれ、重要な証拠品の凶器だろ。
「・・・どうして、わたくしを待たなかったのですか?」
メイドが走り出したのを知った上で、俺が犯人と距離を詰めたことを言っているのだろう。
「馬鹿かお前。女を盾にする主が、どこにいる」
メイドは、俺の手をぎゅーっと握った。
「痛い、痛い!」
「止血です」
そんなに押さえる必要のある傷じゃないぞ。
「・・・先生」
志桜里が、胸の前で両手を組み、涙目になっていた。
どうやら、志方が、危ないからと、留めてくれていたらしい。
「すぐ、救急車がきますから」
警備員が、犯人を拘束して、詰所に連れていったので、ようやく近寄ってこれたのだろう。
なんだか、見直したぞ、志方。
「怖かっただろう。大丈夫か、志桜里」
傷のない左手で、頭をぽんぽんする。
「先輩!私に負けるくらい弱いくせに、無理しないで!」
あみが胸に飛び込んできた。
「重い!体重預けすぎだ。怪我人を労われ」
サイレンが近づいてきた。
メイドは、俺の手を離さなかった。
珍しく、今日はあみと聴講が被らず、教室から一人で学食に来たら、人だかりができていた。
その中心にいるのが、並んで座るあみとレイチェルだ。
今日、彼女の特別講義「メイド学」があり、それをあみが聴講、そのまま昼食となったのだろう。
二人は、メイド喫茶での師弟関係な上、アイドルグループの冠番組での次期二期生リーダー対戦でレイチェルがあみの応援団長をしたこともあり、仲が良くて、いいことだ。
俺は、くるりとそれに背を向けた。
わざわざ炎に近づく虫はいない。
あれは、炎による上昇気流のせいなのだが、そのうち俺の講義で使うとしよう。
今日は暑いから、冷やし麺系か、だからこそ敢えてのカップラーメンもありだな、などと既にコンビニ昼食メニューに思いを馳せていたら、がっと腕をつかまれた。
誰かと思えば、志方だった。
「レイチェル様が、お待ちです」
お前、またキャラ変わってるぞ。
あみのマネージャーだよな?
形山社長のときといい、染まりやすすぎないか。
酔い潰れたときに背負うと重いだけあって、彼女のパワーで強引に引きずられ、女王様たちの前に、引っ立てられ、正面の席へ肩に手を置いて座らせられる。
「あ、先輩」
「あら、沢田様」
それは、こんな美女二人の前に、俺なんかが正面に座ったら、ギャラリーはザワつきますよね。
なんの香りだろう。
以前、メイド喫茶で嗅いだ、香か香水か、独特な、甘いが刺激的、スパイシーと言えばいいのだろうか、不思議な匂いが漂ってくる。
これは、メイド服そのものからの匂いなのか。
「先輩、店長さんの講義、すごかったんだよ。メイドさんの歴史とか、世界での資格とか、メイド喫茶の経営とか、とっても勉強になった」
「・・・それは、よかった」
問題は、その横の化け物の思惑の方だ。
志方を使ってまで連れてきて、俺に何を言うつもりだ?
『秘密』を握られているので、逃げるわけにもいかない。
「わたくし、沢田様に、お願いがありますの」
もっと、もったいをつけるのかと思ったが、案外と前置きがなかったので、続を促す。
「わたくし、メイドではありませんか。ですから、学園でどなたか、お仕えする方がいないと、メイドとしての存在に、意味をなさないのです」
そうきたか。
「ぜひ、わたくしのお友達、あみさんのお友達の沢田様に、わたくしが仕える主様になっていただきたいのですわ」
『おおー』
ギャラリーから、歓声があがる。
うらやましいなら、変わってやるぞ、と言えれば、どれだけ楽か。
だが、舞台が悪かったな
「つまり、学園の外では、マネージャー。学園では、店長さんにお世話していただけるわけですね?俺『一人』のときが、なくなってします」
それを聞き、あみが『二人っきり』ができなくなると理解して、目を見開く。
あみとの関係性から、店長には、彼女の感情を無視して、俺の側には居座れないはずだ。
「・・・残念ながら、わたくし毎日は学園には登校できませんので、沢田様には、ご迷惑をおかけしてしまいます。それに、」
毎日じゃないと強調した上で、あみの方を向いて、
「わたくしは、メイドとして、沢田様とあみお嬢様ご夫婦のお世話をさせていただくつもりですわ」
「え?ご、ご夫婦?」
「ああ、失礼いたしました。お友達、でございましたわね」
真っ赤になって、嬉しそうなあみ。
だめだ、一撃で堕とされたか。
そのとき、彼女たちの向かい、俺の隣に、志桜里が座った。
俺にとっての援軍のはずなのだが、纏った雰囲気は、物騒だった。
メイドに対し、臨戦態勢の志桜里が口を開く前に、
「志桜里お嬢様ですわね。はじめまして。メイドのレイチェルと申します」
「・・・どうして、志桜里の名前を?」
「沢田様、あみお嬢様のご学友は、承知しております。メイドのたしなみですわ」
気勢を削がれたようだが、気をもちなおしたらしく、再び口を開こうとしたが、メイドが立ち上がった。
そして、両手を天に広げて、声高に宣言する。
「お嬢様方は、メイドを誤解していらっしゃる」
肩を落とす。
「ご主人様の側に佇む影を、邪魔者だとお考えになる」
まさにその通りの感想なのだろう、志桜里が、彼女を睨む。
「ですが!」
メイドは声を、片手を上げ、
「だからこそ、悪い虫を寄せつけない、お手伝いができる」
更にもう片手を上げ、
「ご主人様が、意地悪を言われたときには、メイドが、たしなめてさしあげられる」
志桜里が、俺を見た。
その顔では、俺がいつも意地悪を言っているみたいじゃないか。
「メイドが、雑務をこなすからこそ、こんな風に、」
くるりと回ったメイドは、志桜里の肩を、ぽんと押した。
急なことに、彼女は、ぱたりと俺に膝枕で倒れた。
「ご主人様と寛げるのです!」
おい、志桜里、はやく起き上がって、反論してやれ。
「・・・先生」
真っ赤になって、嬉しそうな志桜里。
だめだ、堕とされたか。
「これぞ、メイドのあるべき姿でございます」
これはもう、ショーだ。
一礼するメイドに、ギャラリーから拍手喝采が起きる。
「ズルい!志桜里ちゃん次、私!」
これ、何の公開羞恥プレイ?と俺は思った。
一日の聴講を終え、俺たちは、学園の出口へ向かって歩いてた。
俺にメイドを仕えさせるがどうかへの回答は、あみと志桜里の膝枕争奪戦によって、有耶無耶になった。
あみと俺が友達以上なこともバレてないか気になったが、メイド・ショーの演出の一環と捉えられたようで安心した。
今日、ミホを見なかったのは、もうホラー映画の撮影が始まったからだ。
そして、なぜかまだいる志方。
彼女は、午後から、仮入学ながら聴講するメイドに、付き従っていたのだ。
お前、あみのマネージャーだよな?
「私、お腹へった。みんなでご飯いかない?」
「俺は、パス。疲れた」
メイドに憑りつかれて、食事なんて、どんな目にあうかわからない。
メイドに「あーん」なんてされた日には、あみ「お嬢様」と志桜里「お嬢様」が、何をなさることか。
「志桜里は、先生と食べたいです」
「お疲れなら、わたくしのお店に、癒されにいらっしゃいませんか?」
俺の疲れの元凶が、巣窟に来いと言ってくるが、無視。
「あ、それいい」
「あたしもまた、メイド服着ようかな」
やめておけ、志方。
あの時より太くなったウエストに悩んでるのを、俺は知っているぞ。
「志桜里ちゃんも、メイド服を着てみたらいいのに、似合うよ」
「・・・先生がお好きで、見たいなら、着ます」
彼女らの勝手な俺の性癖妄想を聞き流し、学生カードをかざして、改札口のような、学園のゲートを通る。
メイドが、ひっかかった。
どうやら、仮入学なので、守衛がいる有人のところしか、通れないらしい。
遠回りするメイドをみなが待ったので、俺も仕方なく、立ち止まる。
頭上の街頭が、まるで消える直前のロウソクのように、ふわあっと明るくなった。
その光に照らされた、小太りの少年、いや青年?
その手に、光るもの。
少年は、こちらに向かって走り出したが、それほど動きは素早くない。
それを見て俺は、ブレザーを脱いで、左手に巻きつけた。
この男に気がついているのは、俺だけ・・・いや、メイドも走り出していた。
なので、俺は待つのを止めて、走って少年との距離を詰めた。
彼の攻撃目標は、俺ではなかったらしく、近づく俺に、驚いていた。
右手のナイフに、ブレザーで守った左腕を巻きつけ、ネジるようにして、動きを止める。
ナイフを握る手首に、固めた右拳を叩きつける。
一回、二回、三回!
手からナイフがこぼれ、路上を滑る。
メイドの靴が、それを踏みつけた。
抵抗する少年の腕が勢いよく、すっぽ抜ける。
彼は、そのままよろけ、後ろ向きに転んだ。
逃がさないように駆け寄るが、頭を打ったのか、気絶しているようだ。
一応、脈はあり、呼吸も安定している。
ようやく慌てて警備員が来て、少年を抑えつけた。
南のリゾート観光地で馬鹿たちに絡まれたり、あみにノックアウトされたり、更にダンス教室でのダンサー先生大声乱入騒ぎで懲りた後、格闘技もやっているトレーナー兼研究職の津々木に、簡単な護身術のレクチャーを受けていて、助かった。
本当は、大声出して、警備員が先に対処してくれれば、ベストだったのだが、位置関係が悪かった。
「・・・はい。鳳凰学園の前で、暴漢に襲われました。犯人は警備員が確保してます。え?怪我はわかりませんが、急いで救急車をお願いします!」
スマホに怒鳴る志方の声が聞こえた。
さすがは大手事務所のマネージャー、ちゃんと非常時の訓練を受けているのか、いい対応だ。
白いレースのハンカチで、ナイフを包んでつまんだメイドが、
「ナイフに血がついています。ご主人様、お怪我は?」
言われて気がついた。
ナイフを叩き落としたときに、相手の腕をネジって刃が上になったせいか、少しだけ右手を切ってしまったようだ。
「ご主人様」呼びは無視して、自分でハンカチを出して、押さえる。
路上に落ちたブレザーは、背中がバックリと切り開かれていた。
あーあ、買い替えだな、クリーニングに出したばかりなのに。
学園内はエアコンが効いているので、ブレザーを着て来ていて助かった。
メイドは、レースのハンカチごと、ナイフをぽいっと捨てて、俺の手の傷をハンカチごと握った。
おいそれ、重要な証拠品の凶器だろ。
「・・・どうして、わたくしを待たなかったのですか?」
メイドが走り出したのを知った上で、俺が犯人と距離を詰めたことを言っているのだろう。
「馬鹿かお前。女を盾にする主が、どこにいる」
メイドは、俺の手をぎゅーっと握った。
「痛い、痛い!」
「止血です」
そんなに押さえる必要のある傷じゃないぞ。
「・・・先生」
志桜里が、胸の前で両手を組み、涙目になっていた。
どうやら、志方が、危ないからと、留めてくれていたらしい。
「すぐ、救急車がきますから」
警備員が、犯人を拘束して、詰所に連れていったので、ようやく近寄ってこれたのだろう。
なんだか、見直したぞ、志方。
「怖かっただろう。大丈夫か、志桜里」
傷のない左手で、頭をぽんぽんする。
「先輩!私に負けるくらい弱いくせに、無理しないで!」
あみが胸に飛び込んできた。
「重い!体重預けすぎだ。怪我人を労われ」
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