(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第二巻:夏は、夜

面談÷めんどう

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 津々木との面談は、事務所への所属自体は決まっているので、今後どんな仕事をしたいかがメインだ。
「・・・それが、」
 どうも言い難そうなのを聞く、と俺と仕事内容が被っているからだった。
「でも、津々木君の専門家そして研究者としての立場と、専務の知識人は違うから。逆に二人セットもアリだと思う」
 専門家・知識人・一般人の順での知識量だから、知識人は、専門家の言葉を翻訳して一般人に伝える意味合いが多い。
「ああ、最先端な話をして、キョトンとされてもフォローしてもらえるわけですね」
「それそれ」
 でもそれ、俺の負担が、大きくないか?
 最先端を理解する勉強があってこその前提だ。
 部屋に積まれた「勉強せよ」と買い与えられて読んでいない科学雑誌が、脳裏に浮かんだ。
「津々木君は、本業があるから、スケジュールを詰め込み過ぎないようにします。そこでも、分業できると思う」
「確かに、学会シーズンは、ほぼ無理ですから」
 いや、俺にも学業という本業がありますけど?
 彼の一番の心配は、俺への気遣いと差別化だったので、ほぼ解消した。
 そもそも、俺は、芸能の仕事がなくなっても困らない。
「それで、結婚は、いつするの?」
 食堂の耳全部が、ザっとこちらへ向いたのがわかった。
「向こうの両親への挨拶は済ませたのですが、結納をやるかとか式場の予約、まだまだ先です。決まりましたら、ご報告します」
「うん。でも、式とか披露宴とか、人数に入れなく良いから。遠慮でもフリでもないわよ?」
「え?それは、」
 食堂からも「ええー」と声が上がる。
 花嫁を直接見たい憧れがあるのだろう。
「お祝い映像でも祝電でも、なんでも協力する。けど、会場へ行くと周りが気を使うはずよ」
 社長は、有名女優だからな、似た経験も多いのだろう。
 確かに、同じテーブルに座られたら、親戚のオジチャンは話題に困って酔い潰れそうだ。
「・・・わかりました」
「でも、二次会は、別日にこっちで企画するから、ぜひ花嫁さんと来てね」
「もちろんです」
 食堂で歓声が上がるので、つい見る、とキラキラした期待する目がこちらへ向いていたので、視線を逸らした。
 津々木のエピソード・トーク、相手の実家へ挨拶に行ったとき、なぜか食事が用意されていて、「お嬢さんをください」をやろうとする度に、未来の義理父に酌をされて妨害された、が世代別に違う笑いを誘った。
 結婚そして離婚経験者な俺は、そういえば坂井マネージャーも産休なのだから、出産祝いを用意しないとだな、と現実逃避気味に考えていた。

「お待たせしました」
 タオルで頭を拭きつつ、シャワーあがりの大谷がソファーに座った。
「そんなに、急がなくても良いのに」
 形山は、缶ビール片手に苦笑するが、
「いえ、他にも待っている方が、いるので」
 この生真面目さこそが、彼の美徳だ。
 だからこそ、ストイックにトレーニングできるのだろうが、騙されやすくもあるのだろう。
 昨夜聞いた、彼が女性に持ち逃げされた金額が、思い出される。
 大谷は、所属が決まっている津々木とは違い、ウチの事務所へ移籍するかは、まだ未確定だ。
「それで、事務所を移ったら、どんな仕事がしたいの?」
 そう社長は聴きつつも、今までと同様だと予想しているだろうし、俺もだった。
 いろいろありすぎたので、新天地で心機一転したいだけ、と。
「実は、役者になりたいです。演技を自腹で良いので、学びたいと考えています。ミュージカルなどにも出演できるように、ダンスや歌なども基礎から習いたいです」
 役者と聞いて志桜里の、ダンスと聞いてミホの、歌と聞いてあみの耳が、こちらへ向く。
 俺と形山は、目を見合わせ、缶ビールをテーブルに置いた。
 予想外の答えだったのだ。
「僕、シュワルツェネッガーになりたいです」
 確かに彼もボディビルダー出身ではあったけど、ちょっと軽い思いつきにも聞こえてしまった。
「もう少し、詳しく説明して」
 大谷は頷き、
「日本の芸能界に、身体が大きくて、演技ができる人は少ないと思っています」
 そうかな?
「それは、主人公が、細身で努力する人物像が、好まれるからだと思います」
 確かに、始めから筋骨隆々で強そうな主人公って、日本では少ないかも?
 ラノベでも無双するのは、極最近だし、体型は瘦せ型の方がインパクトある。
「やはり、誰もが主役を目指して役者になるでしょう。そうなるとデカい役は日本では層が薄くて、元プロレスラーや力士などが演じることになります」
 形山も思い当たる節があるのだろう、頷いている。
 確かに、個性派俳優やバイプレイヤーという言葉は、最近な気がする。
 銀幕なんて呼ばれていた時代は、美男美女ばかりなイメージだ。
「なので、身体がデカいとアホで噛ませ犬なヤラれ役。それとは一線を画したデカい役者をやりたいです。そのためには、演技やダンス、いろいろと学びたいのです。英会話も勉強を始めました」
 本気なのは、わかった。
 ただ、ニーズがあるか、と勉強をどうするかだ。
「ダンスなら、タダで教えるよ」
 食堂で、ミホが手を挙げて言った。
「少しなら、演技も教えられます」
 おずおずと小さく手を挙げて、志桜里も言った。
 他事務所のあみは、参加できずに口を尖らせている。
 それを見て、悩む素振りの形山。
 学ばせてやりたいのは山々だろうが、持ち出しばかりで収益が出るとは思えないからだ。
 投資と慈善事業は違う。
「鳳凰学園方式は、どうだ?」
 俺が言う、と注目が集まった。
「どういうこと?」
「事務所で学びたい人を集めて、お互いに教え合えばいい」
 もっと筋肉をつけたい俳優もいるだろうし、体脂肪率を落としたいモデルもいるだろう。
 声の演技やナレーションが得意な者が、教えてくれるかもしれない。
 もっとも、仕事のライバルを増やすかもしれないので、ギブ・アンド・テイクだとしても講師役の名乗り出は多くないかもだし、希望するようなマッチングがないかもしれない。
 ただ、芸能事務所「セカンドチャンス」は、移籍など中途入所の苦労人が多いから、どうだろう。
「事務所は、『教える・習いたい』を書くホワイトボード一枚と教室用に会議室を一つ貸してやればいい」
 しばらく考えて社長は、顔を上げた。
「大谷君。すぐには希望に添えないかもしれない。当分、今までと変わらない仕事が続くかもしれない。でも私、頑張る。それでも、ウチに来てくれる?」
「はい、喜んで!」
 俺たちは、未来のシュワルツェネッガー誕生の瞬間に立ち合ったのかもしれない。

「ミホちゃん?ミホちゃん、聞いてる?」
「・・・あ、ごめん」
 次に面談の席についたのは、ミホだった。
 彼女の所属事務所は、ウチのような表舞台に強い事務所と業務提携し、本業の裏方な振付師以外でも活躍してほしい、という意向だ。
 ミホも映画の幽霊役出演をきかっけに、この話にノリノリだったはずなのだが、なんだか上の空だ。
 ほろ酔いとはいえ事務所社長、敏感に、別のことを考えている気配を察して、
「出役に、興味なくなっちゃった?」
「そうじゃないけど、」
 歯切れ悪く、食堂をチラチラ見る。
 その先には、面談を終えた大谷が腰に手を当て、ペットボトルに口をつけず、注ぐように水を飲んでいる姿があった。
 ペットボトルに口の雑菌が入らないので、衛生的っぽいが、慣れていないと顔ビチャビチャになりそうだ。
 しかも、緊張で喉が渇いていたのか、飲み干していれば、清潔だろうが、ペットボトルはリサイクル行きだ。
「大谷君にダンス教える時間がなくなるほど、お仕事いれないわよ?」
 冗談めかした形山の言葉に、みるみるミホの目の焦点が合った。
「・・・そうか」
「なあに?」
 ミホは、ソファーの上で、居住まいを正した。
「ボク、教えたい!」
「大谷君のこと?」
「それもだけど、もっと教えたい!」
 以前ミホは、知り合いのダンス教室で、代行レッスンをやっていた。
 そういうことだろうか?
 昨今のダンスブームで、社交ダンス以外の子供へ教えるダンス教室も増えている。
「ダンスを教えたいのもあるけど、身体を動かしたいけど、どうしたらいいかわからない人に教えたい!」
「ミホちゃん、落ち着いて。ちょっと良くわからない」
 情熱が先走りすぎて、伝わってこない。
「前に、あみりんにストレッチ教えたことあって、楽しかった」
 確か、出演するドラマにアクションシーンがあるが身体が堅くて、うまく動けなかったからだっけ。
 「楽しかった」と聞いて、拷問並みの苦行を思い出したのか、あみの顔が歪んでいるのが、遠目でもわかる。
 その顔、アイドルとしてNGじゃないか?
「子供には、スポーツ教室とかあるけど、大人にはない気がする。スポーツとかダンスとか、ジャンルを限定しないで、身体を動かす楽しさを教えたい!」
 やりたい事は、伝わってきた。
 確かに、ジムには初心者向けのプログラムはあるが正直、同時参加の既に慣れている人が退屈しないように、言うほど初心者へ配慮してくれない。
 ただ、
「でも、どうしたらいいか、わからない」
 勢いにまかせて語ってみたが、具体的な方針はないらしい。
「津々木さん、ちょっと良いですか?」
「え?あ、はい」
 大谷と談笑していて、まさか他の人の面談中に呼ばれると思っていなかったのだろう。
 戸惑いつつも、食堂から来てくれた。
「津々木さんの伝手で、どこかのジムの初心者向けの祝日プログラムとかに、ミホをブッキングできませんか?」
「え?さわりん、それ何?」
 面談を聞いていなかった津々木も、当事者のミホも意味がわかってないようだ。
 簡単に経緯を津々木に説明してから、
「ミホは、正直に言って『やりたいこと・できること』が、ふんわりしていて固まってないだろう?」
「・・・う、うん」
 不満気に頷く。
「だから、まずは具体的に初心者を教えることで『やりたいこと・できること』、それにニーズがあるか確かめてみればいい」
 きっと、ミホが想像している以上に参加者の運動能力には差があって、画一的に教えるのは難しい。
 基礎ができていて、技能や趣向によってクラス分けされたダンス教室の代行レッスンとは、訳が違う雑多な集団が相手になる。
 だが、ミホが教えたいのは、そういうことだろう。
 そもそも、その趣旨に人が集まらない可能性だってあるし、初回は物珍しさや若い新人インストラクターで集客が良くても「これは違う」となってリピーターがいないかもしれない。
 「教えたい」からには、相手がいなければ成立しない。
 その過程で、個人向けになるのかもしれないが。
「これでも、元ダンサーや振付師としての経歴は、業界では有名なので、ジムが人を集めるネームバリューとメリットはあると思うのですが、どうでしょう津々木さん?」
「ダンス系プログラムは、人気ですし、資格をとればピラティスもいけるんじゃないですか?ただ、そういう枠に囚われないとなる、とチェーン展開のジムでは難しい気もしますが」
 視線が、社長に集まる。
「はいはい。ミホちゃんがやりたいことが具体的にわかってきたら、番組で『それ』を教える講師として、発信できるようなお仕事、とってくるわ」
 昼間などの情報番組で、そういうのあるよな。
 食堂から、おずおずと小さく手を挙げて、志桜里が、
「YouTube、いっしょにやりましょう」
「おお!僕、生徒役やります!」
 大谷も名乗り出た。
「自分も出てみたいし、監修もしてみたい」
 津々木も乗り気だ。
「うん!楽しそう」
 四人は、それぞれが身体を動かすプロだ。
 互いに教え合え、刺激もあるだろう。
 ミホのジム・スンストラクター・デビューと事務所の公式YouTubeチャンネル開設が決まった。
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