(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

文字の大きさ
61 / 67
第二巻:夏は、夜

ことだま-言葉

しおりを挟む
「ああははははー!」
 けたたましい志方の笑い声で、我に返った。
「こんなこともあろうかと、予備があるのです!」
 勇者の剣みたいに、赤いキャップの容器を掲げて宣言していた。
 どうやら、苺ソースが見当たらなくなってしまったらしいが、二本目も買っていたようだ。
 あれ?
 何か、重要なことを忘れていないか?
 周りは、メイド服で溢れていて、自分もタキシードという異常事態に、少しばかり現実逃避していたのだ。
 電子書籍を読んでいたはずのスマホ画面も真っ暗で、スリープしていた。
 メイドが、ナイフを柔らかな白い蒸しケーキに突き立て、切り裂く。
 爪楊枝などで、液がつかないかは確認していたのだろうが、少しケーキをズラす、と綺麗に蒸しあがっていた。
 細かい気泡の空いた断面が、切った直後の血を噴き出す寸前の肉の見えて、なぜかゾっとする。
 そこへ赤色が飛び散って、背筋が凍った。
「マネージャー、焦りすぎ!」
 あみの声に見る、と志方が苺ソースの容器を握っていた。
 どうやら、注ぎ口を塞いで貼られているアルミ蓋を剥ごうとして、容器を持つ方の手にも力を入れてしまったらしい。
 口が開いた途端に噴き出したソースが、圧力で勢いよくケーキへまで飛んだようだ。
「さなりん、顔に飛び散ってるよ」
 苺スプラッシュで、血しぶきのような赤い斑点まみれの顔になってしまっていた。
 指摘された志方は、メイド服の襟元を引っ張って、覗き込む。
「あ、よかった。汚してない」
 服の汚れを気にしているが、論点は、そこじゃない。
 しかも、引っ張ったことでリボンが解け、ボタンも外れ、より企画物っぽくなってしまっている。
 顔を汚したのが赤で、むしろ良かったのかもしれない。
 つい目を逸らした俺と、大谷の目が合い、理由を互いに察して苦笑している、と茜に睨まれた。
 どこから取り出したか不明なタオルで、あられもない顔を覆うレイチェル。
「さ、あちらで顔を洗いましょう。メイクもし直してさしあげます」
 もごもご言う「のっぺら坊」みたいな志方を引きずっていく。
 なぜか、ナイフを託された俺。
 世のご主人様方(略
「何人分だ?」
 いくつに切り分ければ良いか、確認するために、周りを見渡す。
 先ほどは、うとうとしていた形山だが、本格的な昼寝に部屋へ戻っている。
 午前中の面談で、めちゃくちゃ疲れたのだろう。
 実は、昨夜は各々の資料に目を通したりして、あまり眠れていなかったのかもしれない。
 津々木も部屋だ。
 スマホのメモを整理していたら、何か思いついたらしく、集中したいと籠っている。
 顔を洗っている志方は、食べさせないと苺ソースを直に吸いそうだ。
 発端のあみと志桜里も食べるだろう、と思ったが、
「志桜里は、味見で」
 おずおずと小さく手を挙げた。
 小食の志桜里は、「たべてみたい」と言っていたので元々、そのつもりだったのかもしれない。
「炭水化物なので、僕も味見程度で」
 そして、その糖質を利用して吸収を良くしようと、いつのまにかプロテインが片手にある。
「あ、ボクも。食べすぎてるから一口だけ」
 食べすぎてる、に反応があるか一応、あみを見るが、その食欲に揺ぎはないようだ。 
 茜は、お任せな顔をしている。
 どうやら、志方のメイド服を企画物っぽく見たことへ、密かにご立腹で、自分の要望を読み取りなさいよ的な表情だ。
 もしかしたら、「罰」としてメイド服を着ているから、笑顔にならないような演技かもしれないが。
 俺は、六時三十分だった切れ目を延長して二分割。
 苺ソースがかかってない方の半分を四等分にして、そのうち二つを三つづつに切り分けた。
 八分の一の二つが、あみと志方。
 十二分の一が、味見。
 とりあえず、レイチェルも味見組だ。
 残り半分は、足りない人と形山、津々木へのお伺い用だ。
「じゃあ、いただきます」
 手を合わせて声をかけ、フォークが足りなさそうなので、指でつまんで一切れ食べた。
 あみの「お行儀悪い!」の目は無視。
 もちもちした食感と、仄かな甘味が良い。
 素朴な味わいだ。
 ただ、工夫だったはずのドライフルーツやチョコチップが、変化というよりは、違和感。
 あと、膨らみが足りないからなのか、歯の詰め物を持っていかれそうなくらい粘る。
 これは、ビールと合わなさそうだから、プロテインいいなあ、なんて考えながら咀嚼していたら、メイドがコーヒーを淹れてきた。
 志方が、まだ戻ってきていないが、メイクで自分の顔と格闘中なのだろうか。
「やはり、膨らみが足りませんか?」
「かもしれない」
 元気よく顎を上下させることで、視線も上下して当然ですよ、と演出しながら、答える。
「苺ソースをかけたら、それだけの味になってしまいそうです」
 味見を宣言した志桜里が、ちゃんと食レポする。
 既に、コーヒーにも味が負けてしまっている。
「噛み応えがあるので、腹持ちが良いかもしれないですね」
 大谷の方が、慣れた感じに良い言葉へ変換しているが、真実をついてもいるので、制作指揮を執ったメイドの目に虚無が混じる。
「うー、ドライフルーツは、いらなかったかも」
 ミホには同意だ。
 レイチェル自身も、もぐもぐしながら、
「やはり、膨らみが足りませんわね」 
 肩を落として、ぼそぼそ呟く。
 フォークを唇に当てたままなのは、マナー的にはどうかわからないが、かわいい。
 あみもなんとフォローしたら良いか、考えているようだが、言葉が見つからないようだ。
 さあ、この雰囲気をどうする?と茜が挑発的に見るので、残っていたフォークに一切れ刺して、
「あーん」
 反射的に開いた茜の口へ、押し込む。
 事態に気がついて、みるみる赤くなる頬に、
「どうだ、メイド?」
「・・・とっても、おいしいでしゅ沢、ごしゅじんしゃま」
「だそうだ、レイチェル」
 メイド服マネージャーの機嫌は直ったが、ようやくの「おいしい」にかえってメイド長の目に虚無が広がり、あみは自分にも「あーん」しろと大騒ぎだった。

 昼寝から戻ってきた形山は、メイド服とタキシード、赤蝶ネクタイの集団に一瞬だけ足を止めたが、茜の「嗤われる」んじゃないか、という顔で察したのか、女主人然として、ソファーに座った。
 服装への説明を求めることもなく、
「レイチェル、ビールをお願いして良い?」
「少々お待ちください、彩芽様」
 起きた直後に、もうビールかよ。
「あ、俺にも」
「・・・はい、ご主人様」
 どうして、俺には非難の目が集まるんだ?
 テーブルの上の蒸しケーキへ、
「みんなでつくった蒸しケーキ、これ?」
「ああ」
 もう荒熱はとれたので、乾燥防止にラップをしてあるが、ぴったり張りついているので中身が見える。
 ただ、それは、ビニール袋に入れられた、切り取られて血の気が抜け赤が飛んだ白い肌のようで、見ていて落ち着かなかったし、蒸しケーキをつくったと知っていても、初見ではなんだかわからないかもしれない。
「材料も用意していないのに、すごいよな。食べるか?」
「・・・食べすぎだから、遠慮しておきます」
 結局、丸々半分残ったケーキは、冷蔵庫行となった。
 冷蔵庫の中に、冷たいこれが入っているのは、想像力が過ぎるのか、ちょっとギョっとしそうだ。
 海外漫画「ピーナッツ」の登場人物がチャーリーブラウン宅の冷蔵を開けて言った台詞を思い出してしまう。
 いや、また摂食障害のスイッチが入らないように、頭を振って、考えの方向を変える。
 ビールの方のカロリーは気にしないんだな。
 言えば、ブーメランなので、沈黙は金だ。
 まあ、アルコールのカロリーに関しては、諸説ありすぎるのだが。
「彩芽様、ビールをお持ちしました」
「あ、ありがとう」
 メイドから缶ビールを受け取る。
 社長がグラスを誰が洗うかで気をつかっているのを察しているので、缶のみだ。
「それで、あれは、何をしているの?」
 リビング脇のちょっとしたスペースに食堂の椅子を置き、大谷が座っている。
「イントネーション・ゲームもどき、だそうだ」
「ああ、あれ」
「知ってるのか?寝ていたと思った」
 ソファーで船を漕いでいたのに、聞こえていたのか?
「寝てはいたけど。知っているも何も、そもそも志桜里にゲームを買い与えたのは私だし、移動の車の中ででもできるように工夫したのも私だもの」
 エッヘンと胸を張る。
 カワイイが社長としてはどうだ、それ。
 どうやら「もどき」は元々、志桜里が子役から女優へ一皮むけるために、演技指導の一環として、形山が行ったものらしい。
「それを教えてるだなんて、なんだか感慨深いわね」
 その目は、血より濃い絆を感じさせる。
 ただ、年のことは、お互いに言わないのが同い年の、お約束だ。
「それで、どうしてリンチみたいになってるの?」
 確かに、言われてみれば、大谷一人を座らせて、他が取り囲んでいる状況は、そうとも見える。
 しかも、赤蝶ネクタイの周りにメイド服って、サイコパス・ドラマだろうか。
「一回やって、面白かったから、撮影すれば良かった、という話になったんだ。ただ、大谷さんの移籍が今の事務所と話して確定しないと、別事務所の志桜里とかの説明が面倒だから、あのアングルになっている」
「そういうこと」
 志桜里が、大谷の正面に立ち、彼のスマホで撮影している。
 出題の声も消して、字幕にする予定だそうだ。
「お題は『ありがとうござます』で。『ありがとう』でも良いです」
 編集用に声が被らないように、ちょっと間が空き。
「ありがとうございます」
 尺稼ぎに、始めはさっきの出題を志桜里が繰り返すと打ち合わされていたので、今の「ありがとうござます」は、先の自然さとは違い、笑いを取ろうと気合が入っていて、逆にスベっている。
 編集をしやすいように、誰もリアクションの声を出さないのも、盛り下がり感を漂わせる。
 まあ、編集でSEの笑いを入れるのかもしれないが。
「シチュエーションは、サインを求められて」
「あ、ありがどう、ございまず」
「番組の出演が決まって」
「ありがとうございます!」
「それが、減量期の大食い企画でした」
「あ、ありがとう。ございますぅ」
「しかも、用意されたお弁当が、ガッツリしたヤツばかりでした」
「あ、ありがと」
 予定調和はここまでで、ここから新規だ。
「筋肉を褒められて」
 と、あみ。
「ありがとうございます!」
 本当に嬉しいんだな。
「キレてる!キレてる!」
 とミホ。
「・・・ぁりがとぅ」
 小声なのは、「キレてる」がボディメイク大会での掛け声なので、舞台上の自分はリアクションとれない、という演技なのだろう。
「演技を褒められて」
 と形山が乱入。
「あ、ありがとう、ございまず」
 こちらへ背を向けていたので、社長の存在に気がついていなかったのだろう。
 急に、声に緊張が混じる。
「では、お題を変えます。次のお題は、」
「『さようなら』で」
 またもや、形山から。
「はい。『さようなら』でお願いします」
「・・・はい」
 将来の社長がどんな顔をしているか、こちらへ振り向きたいが、撮影しているからできない葛藤が、大谷の背中から溢れている。
 編集でカットしてしまえば良いのだが、そこまで頭がまわらないのか、彼のチャンネルでは無編集インタビューが好評なので、それを意識してなのか。
「シチュエーションは、」
「恋人と別れた」
 と形山。
「さ、さようなら」
 未練ある感じが出ているのが実感があるが、俺が風俗通いの原因にもなった借金まみれの彼女は、別れてよかったんじゃないか?
「それを慰めてくれた女性もいなくなった」
 形山無双がはじまった。
「・・・さよなら」
 実体験から、演技の引き出しを掘ろうとしているのだろうか。
「筋肉を減らす仕事の依頼」
「え?・・・さよなら」
 実感がわかないのか、投げやりだな。
「トレーニング・ジムを解約」
「さよなら」
 今度は具体的で想像できたのか、すっごく悲しさが伝わってきた。
「一種類の物しか食べられない企画の直前に、飲み物じゃないからと言われて禁止になったプロテインへ向けて」
「さよ、なら」
 大谷の目から、ポロっと涙が零れた。
「はい、おっけー!」
 形山の声で、大谷が我に返った。
「あ、なんだか、演技が、ほんのちょっとだけ分かったような気がしました」
 とりあえず、どこまで使うかわからないので、撮影は止めていないようだ。
「演技って、想像でやるのかと思ってましたが、自分の中の引き出しが大事なんですね」
「そうそう。だから、女優には、恋愛が必要なの」
 こっちに視線を投げながら、良いことを言っているつもりだろうが、社長の声も全カットだ。
 いや、誰かわからないように変声にしたら、それはそれで面白いか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...