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第二部 第2章
351.枢機卿の過去2 〜 枢機卿視点 〜
しおりを挟むウィーヌス・ウラヌ・ディオネ枢機卿視点
ポレット・フェリス・ナイトレイはナイトレイ子爵家の長女で、ディオネ辺境伯領に住む貴族だ。
彼女には兄が一人と、妹が一人いて、仲の良い兄妹だった。当時のナイトレイ子爵と私の父であるディオネ辺境伯は友人で、ポレットは私の兄の婚約者候補でもあった為、私たちは幼い頃からいつも一緒にいたような気がする。友人というよりは兄妹に近かったと思う。
ポレットは当然、私がディオネ家の異分子で、家族からも使用人からも敬遠されている事を知っていた。文官になるつもりだった事も、アカデミーに入る事もわかっていたのだろう。帝都に行く日、私に黙って用意周到に準備を整えていたらしい彼女が、馬車に乗り込んで来たのだ。
そうして、彼女もアカデミーに入学した。
「……領地にいれば、兄と結婚して何不自由なく、暮らしていけるでしょう。どうしてわざわざ、私と共に帝都に来たのですか?」と聞いた事がある。ポレットは、
「ウィーヌスのお兄さんと結婚したからって、何不自由なく暮らせる保証があるの? そもそもわたし、ウィーヌスのお兄さんの事、好きなわけでもないし、そんな人と夫婦になって一生暮らさないといけないって考えただけで、寒気がするにょにゃ!」
どうやら兄と結婚する気はさらさらないようだった。
「また噛んでますよ。だけど、ポレットのお父様はよく許してくれましたね」
「にゃ! か、噛んでないもん! お父様は、ほとんど家出同然で、金目のものを持って帝都に出てきたから、今頃叫んでいるかも」
「ポレット……」
彼女はよく突拍子もない事をする。だから目が離せなかった。
アカデミーで一緒に過ごすうちに、私たちは大人になって、いつの間にか惹かれ合って……だけど、在学中に、ポレットが病に倒れた。
人間には、魔器官と呼ばれる、魔力の通り道が存在する。血が全身に巡るよう、心臓がポンプになっているのと同じように、魔器官にも、心臓のようなポンプと血管のような管があり、それが機能するから魔法が使えるのだが、ポレットの病は魔管が詰まりやすいというものだった。
魔管の詰まりは魔力を使えなくなるだけではない。徐々に輩出できない魔力が体内に溜まっていき、溜まった魔力は毒のように身体を汚染する。病名は、『魔栓症』。
不治の病だ。
「ポレット、大丈夫ですよ。私が必ず助けます」
「ウィーヌス……」
ポレットの『魔栓症』はまだ初期段階で、完全に詰まっているわけではなかった。だから偶に体調を崩す時もあったが、日常生活には支障はなかった。
私は彼女の病気を治す為、医療を学び始めた。
病気を治す方法は見つからず、藁にもすがる思いで教会の門を叩いた。
聖水が多少、病を緩和してくれていたからだ。
何かあるはずだ。
より詳しく知識を得る為、司祭となった。
そして時は過ぎ、『魔栓症』は確実にポレットの身体を蝕んでいた。管が詰まる間隔が、短くなっていたのだ。
聖水では、間に合わない───
ポレットを助ける為なら、私は何でも出来る。
いつの間にか、犯罪組織とも繋がりを持つようになった。奴らの情報は役に立つ。
犯罪組織の情報、薬、珍しい薬草、その他お金はいくらあっても足りなかった。だから……
「ウィーヌス、あのね、わたし……赤ちゃんができたよ」
嬉しそうに笑ったポレットは、私の子供を身ごもっていた。
幸せだった。たとえ犯罪に手を染めても、ポレットがそばにいてくれるなら。
「私たちの子供です。きっととても可愛い子が生まれますよ」
犯罪組織の力もあり、枢機卿という立場に手が届く所まできていた。その頃に、父が亡くなり一度実家に戻った時、先祖の日誌を手に入れたのだ。
ポレットのお腹がどんどん大きくなっていくのと同時に、病も進行していった。子供が無事に生まれてくるかもわからない。未だ、効果のある薬すら見つけられず、もし、ポレットも子供も失ってしまったら……そんな最悪が、ずっと頭の中を占領して、焦りだけが募っていた。
「ウィーヌス、私、赤ちゃんを無事に産めるのかな……」
「ポレット……、大丈夫です。あなたも、私たちの子供も、私が助けますから……っ」
僅かな光が見えた日誌も、聖女が存在しなければ意味はない。
どうして……っ
そして、なにもできないまま、ポレットが産気づいたのだ。
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