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第二部 第2章
352.内緒話
しおりを挟む「にゃ!」
「ぺーちゃん、おじょーじゅよ!」
楽しそうに積み木を積み上げているぺーちゃんを、ノアがお兄ちゃんらしく褒めてあげている。それをわたくしやマディソン、カミラが口元を緩めながら眺めているのだ。
「ぺぇちゃ、ぅにょ、じゅ!」
「しょうよ。ぺーちゃんおじょーじゅ」
「にゃ!」
緊急事態とは思えないほど、ほっこりする光景である。
「お二人とも、とっても可愛らしいですね! 奥様」
「そうですわね」
カミラが胸元で両手を合わせ、頬を上気させて破顔している気持ちはよくわかる。わかるが、カミラ、あなたのような年頃のお嬢さんが頬を上気させる相手は、恋人や婚約者でなくてもいいのかしら?
と、その時、コンコンと扉がノックされ、マディソンが対応する。暫くして戻ってくると、イーニアス殿下のメイドが来た事を教えてくれた。
「奥様、イーニアス殿下が勉強を終えられたので、こちらにお越しになるそうです」
「まぁっ、このような荒れた天気ですけれど、殿下は大丈夫かしら!? ここは殿下の宮へ繋がっているとはいえ、幼い殿下では馬車を使用しなければ来れませんのよ!?」
などと話をしているわたくしの後ろで、突然何かが発光しだす。
ま、眩しいですわ!
「何事ですの!?」
その光が人型を作り、その光の中からなんと、イーニアス殿下が出てきたではないか。
「ノア、わたしが、きたぞ!」
『アカも、きたー!』
イーニアス殿下は、転移でこの部屋にやって来たのだ。
「あっ、アスでんか!」
「にゃ!?」
イーニアス殿下の姿を目に留めたノアは、いつも通り嬉しそうに駆け寄って来る。ぺーちゃんは転移に驚いたのか、目を剥いて仰け反り、そのままふかふかのカーペットに倒れた。
「あらあら、ぺーちゃん大丈夫? びっくりしちゃいましたわね」
ふかふかだから怪我もしないし、痛くもないでしょうけど、転倒防止リュックを背負わせておくべきかしら。
ぺーちゃんを抱き上げながら、以前作った赤ちゃん用転倒防止リュックの事を考える。
確か持ってきていたはずですわ。
「ノア! あ、イザベルふじん、ほかのものも、てんいで、おどろかせてしまい、もうしわけない」
イーニアス殿下はわたくしやマディソン、カミラを見ると、頭を下げた。
「イーニアス殿下、頭をお上げくださいまし。簡単に、臣下に頭を下げられるものではございませんわ」
イーニアス殿下の前に膝をつき、目線をイーニアス殿下に合わせる。
「うむ。あの……、ほんとうは、へやのそとに、てんいしようとおもったのだが、だれかにみられてしまうのは、ダメなのだそうだ。ははうえが、おっしゃっていた」
「そうですわね。皇族付きの使用人と、ディバイン公爵家の使用人でしたら魔法契約をしておりますので大丈夫ですが、皇宮には様々なかたが出入りしますので、お気をつけになりませんと……」
「うむ。きをつける。ごちゅうこく、いた、いた……み? いる」
イーニアス殿下はとても素直ないい子ですわね。
「フフッ、殿下は難しい言葉を沢山知っておりますのね」
「マナーのじゅぎょうで、ならったのだ」
まぁ。可愛らしいドヤ顔ですこと。
「アスでんか、むじゅかちぃの、たくさん、ちってる!」
「あちゅ、ぅぎょっ!」
「うむ。わたしは、おにいさん、だからな」
「わたちも、ぺーちゃんと、おにゃ……、おなか、のなかの、あかちゃんにょ、おにいさまよ!」
「にゃ!」
最近、子供たちはお兄ちゃんごっこがブームなのよね。微笑ましい光景ですわ。
「しょうだ! アスでんか、たいへんなのよ」
「む? どうしたのだ、ノア」
「じちゅはね……あ、ぺーちゃん、こっちよ」
「にゃ……?」
わたくしの腕の中からぺーちゃんを下ろし、円陣を組むような体勢で、コソコソと内緒話をしている子供たち。円陣の外にいるわたくしには聞こえない小声が、少し寂しい。
あの甘えん坊のノアが、お母様には内緒のお話をしていますのね。
「……なんだと!?」
「アスでんか、ちー、よ」
「あちゅ、ちぃっ」
「あ、うむ。しーだな」
一体なんのお話をしているのかしらね。
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