継母の心得

トール

文字の大きさ
136 / 369
第二部 第2章

352.内緒話

しおりを挟む


「にゃ!」
「ぺーちゃん、おじょーじゅよ!」

楽しそうに積み木を積み上げているぺーちゃんを、ノアがお兄ちゃんらしく褒めてあげている。それをわたくしやマディソン、カミラが口元を緩めながら眺めているのだ。

「ぺぇちゃ、ぅにょ、じゅ!」
「しょうよ。ぺーちゃんおじょーじゅ」
「にゃ!」

緊急事態とは思えないほど、ほっこりする光景である。

「お二人とも、とっても可愛らしいですね! 奥様」
「そうですわね」

カミラが胸元で両手を合わせ、頬を上気させて破顔している気持ちはよくわかる。わかるが、カミラ、あなたのような年頃のお嬢さんが頬を上気させる相手は、恋人や婚約者でなくてもいいのかしら?

と、その時、コンコンと扉がノックされ、マディソンが対応する。暫くして戻ってくると、イーニアス殿下のメイドが来た事を教えてくれた。

「奥様、イーニアス殿下が勉強を終えられたので、こちらにお越しになるそうです」
「まぁっ、このような荒れた天気ですけれど、殿下は大丈夫かしら!? ここは殿下の宮へ繋がっているとはいえ、幼い殿下では馬車を使用しなければ来れませんのよ!?」

などと話をしているわたくしの後ろで、突然何かが発光しだす。

ま、眩しいですわ!

「何事ですの!?」

その光が人型を作り、その光の中からなんと、イーニアス殿下が出てきたではないか。

「ノア、わたしが、きたぞ!」
『アカも、きたー!』

イーニアス殿下は、転移でこの部屋にやって来たのだ。

「あっ、アスでんか!」
「にゃ!?」

イーニアス殿下の姿を目に留めたノアは、いつも通り嬉しそうに駆け寄って来る。ぺーちゃんは転移に驚いたのか、目を剥いて仰け反り、そのままふかふかのカーペットに倒れた。

「あらあら、ぺーちゃん大丈夫? びっくりしちゃいましたわね」

ふかふかだから怪我もしないし、痛くもないでしょうけど、転倒防止リュックを背負わせておくべきかしら。

ぺーちゃんを抱き上げながら、以前作った赤ちゃん用転倒防止リュックの事を考える。

確か持ってきていたはずですわ。

「ノア! あ、イザベルふじん、ほかのものも、てんいで、おどろかせてしまい、もうしわけない」

イーニアス殿下はわたくしやマディソン、カミラを見ると、頭を下げた。

「イーニアス殿下、頭をお上げくださいまし。簡単に、臣下に頭を下げられるものではございませんわ」

イーニアス殿下の前に膝をつき、目線をイーニアス殿下に合わせる。

「うむ。あの……、ほんとうは、へやのそとに、てんいしようとおもったのだが、だれかにみられてしまうのは、ダメなのだそうだ。ははうえが、おっしゃっていた」
「そうですわね。皇族付きの使用人と、ディバイン公爵家の使用人でしたら魔法契約をしておりますので大丈夫ですが、皇宮には様々なかたが出入りしますので、お気をつけになりませんと……」
「うむ。きをつける。ごちゅうこく、いた、いた……み? いる」

イーニアス殿下はとても素直ないい子ですわね。

「フフッ、殿下は難しい言葉を沢山知っておりますのね」
「マナーのじゅぎょうで、ならったのだ」

まぁ。可愛らしいドヤ顔ですこと。

「アスでんか、むじゅかちぃの、たくさん、ちってる!」
「あちゅ、ぅぎょっ!」
「うむ。わたしは、おにいさん、だからな」
「わたちも、ぺーちゃんと、おにゃ……、おなか、のなかの、あかちゃんにょ、おにいさまよ!」
「にゃ!」

最近、子供たちはお兄ちゃんごっこがブームなのよね。微笑ましい光景ですわ。

「しょうだ! アスでんか、たいへんなのよ」
「む? どうしたのだ、ノア」
「じちゅはね……あ、ぺーちゃん、こっちよ」
「にゃ……?」

わたくしの腕の中からぺーちゃんを下ろし、円陣を組むような体勢で、コソコソと内緒話をしている子供たち。円陣の外にいるわたくしには聞こえない小声が、少し寂しい。

あの甘えん坊のノアが、お母様には内緒のお話をしていますのね。

「……なんだと!?」
「アスでんか、ちー、よ」
「あちゅ、ちぃっ」
「あ、うむ。しーだな」

一体なんのお話をしているのかしらね。

しおりを挟む
感想 11,966

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。