継母の心得

トール

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第二部 第2章

360.ドニーズの特異魔法 〜 ドニーズ視点 〜

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ドニーズ視点


僕が訝しむように見ているからか、大司教は困ったように眉尻を下げて言ったんだ。

「ドニーズさん、この隠し部屋は作られてからそう、時が経ってはいない」
「え? 先ほど入口が経年劣化していると仰っていましたが……」

大司教の言動に矛盾を感じ、まさかこの人は暗殺者の仲間なのではないかと、疑いが出てきた。

「扉になっている本棚は、古いものなのでしょうな」
「なるほど……」
「ホホッ、そのように怪しまんでくだされ。私は奴らの仲間ではないですからなぁ」

顔に出たのだろうか。疑いを持った事が伝わってしまったようだ。

「失礼しました。あ、あの、この部屋が作られてからそう経っていないという事でしたが、それでは誰が何のために作ったというのでしょうか」
「それは……」
「それは?」
「わかりませんなぁ」

えー……

「これこれ。このジジイ、結局何もわからず、ただの好奇心で隠し部屋を探索しているのか、というような顔をなさいますな」
「そんな事思っていませんが!?」

大司教は僕が思ってもない事を、さも真実のように言うのだけど、嫌われているのだろうか……。

「ホホッ、恐らく枢機卿の仕業だろうとは思うのですがなぁ、証拠がないものですから、断定は出来んという事なのですよ」
「まだ推測段階という事ですか……。そのような事、私が聞いても大丈夫なのですか?」
「ドニーズさんはシモンズ伯爵家に仕えるお方ですからな。つまりディバイン公爵家の関係者。それならば問題ありますまい」

という事は、閣下は枢機卿と大司教があまり良い関係にないと知っているのか。

「この隠し部屋に、枢機卿が犯罪に関わっている証拠があると踏んだのですが、鍵が見つからん事には何もわかりませんからな……残念ですが、ここは一旦……、」
「いえ、大司教。鍵がないのであれば、作れば良いのです」
「ドニーズ殿?」

僕は力はないけど、一つだけ特異魔法を使える。

「少し下がってもらえますか」
「何をなさる気ですかな?」

その特異魔法とは───

「鍵を作り出します」

『クリエイト』。シンプルなものしか作れない上、一日に三回しか製作できない、生活魔法寄りの特異魔法とも言い難い魔法なのだけど、まさかこんな場面でそれが役立つなんて。

大司教の前でそれを使い、燭台の根本にある鍵穴の鍵を作り出すと、「特異魔法ですか。これはすごい能力ですなぁ」なんて言ってくれたものだから、褒められ慣れていないので照れてしまう。

「ハハッ、実は大したものは作れないので、あまり役に立たないのです」
「いやいや、現に私は助かっておりますぞ。素晴らしい能力ですよ」

などと話をしつつ、鍵穴に鍵を差し込み回すが、何も起こらない。

「あれ? 鍵を差し込んだだけでは何も起こりませんね……」
「うーむ……こういう時は、燭台を回してみるのが定石ですな」

そんな定石聞いた事がありませんけど?

しかし大司教の言葉通り、燭台を90度に傾けると、壁が扉のように開いたんだ! そんなバカな、と思ったけれど、大司教は気にせずさくさくと進むので、仕方なく後をついていく。

「……大司教、証拠になりそうな書類などはどこにも見当たりませんが」

二番目の部屋には、ソファや机などの家具もあったが、書類などはどこにもなかった。

「おや? どこからか、冷たい空気が……」
「え?」

空気……? 言われてみれば、足元が冷えるような……。

「ここからのようですな。おおっ、やはりここに鍵穴が……」

何やらゴソゴソと探索して、あっという間に鍵穴を見つけた大司教は、どことなく楽しんでいる気がする。

「ドニーズさん、お願いできますか」
「あ、はい」

今度はスムーズに、三番目の部屋が開いた。瞬間、冷気が全身を包み、身体がガタガタと震え始める。冷たいを通り越して痛みすら感じることに恐怖を覚えた。

「氷の棺ですな……」

大司教の言うように、僕らの前には氷で出来た棺があった。

「ドニーズさん、中に死体がありますぞ」
「し、死体!?」

棺を覗き込んだ大司教が、恐ろしい事を言うものだから、尻込みしてしまう。

「女性のようですが……まったく知らぬ人ですな」
「知ってる人だと怖すぎますよ……」

あれ? この棺……よく見ると、溶けかけてないか……?

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