152 / 369
第二部 第2章
368.魔力感知
しおりを挟む「あーっ、とうたぁ!」
可愛らしい声が聞こえた方へと目を向けると、そこには枢機卿に抱っこされたフロちゃんが、ドニーズさんの姿を見て手を伸ばしていた。
すっごく喜んでいますわ。
怪我などもないようで、元気いっぱいのフロちゃんがそこにいて、少し安堵する。
「フローレンス!」
ドニーズさんが駆け寄ろうとしたが、謎の女性が前に出てナイフをチラつかせ、フロちゃんに近付けない。女性はフロちゃんに背を向けているからか、ドニーズさんが近付いて来ない事に、フロちゃんが、どうして? と首を傾げた。
「とうたぁ?」
「フローレンス! ああっ、どうしたら……っ」
「ふりょねぇ、ぽんぽん、くぅちてりゅ」
「なんて事だ……っ、娘が空腹なのに、僕は何も出来ないなんて!」
何だか緊張感がない会話なのだけど……。
フロちゃんはまったく怖がっていないようで、お父さんに普通に話を振っていた。
「フロちゃん、はなちなさい!」
「そうだ! すうききょう、いかげんにしないと、えっと……、あの、お、おこるぞ!」
「ぷんぷんちますわよ!」
「うむ。ぷんぷんだ!」
ぷんぷんする子供たちも可愛すぎるのだけど、危ないから前に出てきてはダメですわよ!?
「ノアは、最近言動がますますベルに似てきたな。さすが私とベルの息子だ」
「おほほっ、イーニアスったら、怒り慣れていないから、ぷんぷんが思いつかないのね。可愛いわ」
テオ様と皇后様が、親バカ全開で呟いた。二人とも、自分の子を溺愛しているので、子供に向ける視線が激甘なのだ。
「テオ様、皇后様、ナイフを持った人の前に出るなんて、子供たちが危険ですわ!」
ノアとイーニアス殿下を抱きしめて、テオ様の後ろに下がらせようと奮闘していると、女性の後ろから枢機卿が呟いた。
「……魔力が消えたと思えば、まさか先回りしていたとは」
今、魔力が消えたって言いましたわよね……?
枢機卿猊下に目をやれば、忌々しいと言わんばかりにわたくしたちを見ている。
やっぱり間違いない。この人の特異魔法は……
「枢機卿猊下、あなた、魔力が感知出来ますのね」
「何で枢機卿猊下がフローレンスと一緒にいるんですか!?」
「フローレンス! フローレンスを返せ!」
ちょっと、オリヴァーとドニーズさん、気持ちはわかりますわよ。けれどわたくし、今まさに確信をつくところですの。少し空気を読んでいただけると有り難いですわ。
「魔力感知か。そうだろうとは予想していたが、ベルはなぜ確信したんだ」
さすがわたくしの旦那様。フォローしてくれましたのね。
「ノアの誘拐は、テオ様とウォルトが皇城に行っていた事と、わたくしたちが外出した事を知らなければ行えないものでした。しかし、それを知る為には公爵家の前で張り込むしかない。けれど、ずっと張り込みをするのは、ディバイン公爵家の影や騎士がいる限り無理があります」
「ああ。偶々にしては出来すぎたタイミングだった」
わたくしの持論に、テオ様が納得している中、枢機卿は何も語らず、ただじっと神殿の入口に目を向けていた。
「他にも、ディバイン公爵家の侵入者騒動の時も、テオ様がお留守でしたし、わたくしが帝都に来ていた事もご存知のようでした」
フロちゃんが聖女だとわかったのも、数多の人とは違い、聖者の魔力が特殊だったから、と考えると魔力感知以外には考えにくい。
「魔力感知の能力をお持ちなら、礼拝堂でわたくしたちが隠れている事も、誰がいるのか把握していた事も説明がつきますわ」
枢機卿猊下は、突然フロちゃんを下ろすと、ゆっくり顔を上げ笑ったのだ。
7,799
あなたにおすすめの小説
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】王妃はもうここにいられません
なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」
長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。
だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。
私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。
だからずっと、支えてきたのだ。
貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……
もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。
「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。
胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。
周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。
自らの前世と、感覚を。
「うそでしょ…………」
取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。
ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。
「むしろ、廃妃にしてください!」
長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………
◇◇◇
強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。
ぜひ読んでくださると嬉しいです!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。