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第二部 第2章
371.お願いの作法
しおりを挟む「あ、すうききょうが……」
イーニアス殿下の声にハッとして、枢機卿猊下を見るとすでにそこには居らず、神殿内に駆け込む後ろ姿を見送る事になったのだ。
「フローレンス!」
ドニーズさんが追いかけようとするのを、皇后様が大司教と共に止めているのが目に入り、わたくしがテオ様を止めてしまったからだ、と血の気が引く。
「申し訳ありませんわ……、わたくしが口を挟んだばかりに……っ」
「ちがうのよ。おかぁさま、わるくない!」
ノア……っ、わたくしを慰めてくれますのね。
テオ様も、「君は悪くない。自分を責めるな」と仰ってくださった。
「あのね、だいじょぶよ。ちんでん、アスでんか、かんりちゃ!」
「そうだ。わたしが、しんでんをかんりしている!」
そうでしたわ! イーニアス殿下が神殿を管理しているのなら、何とか……ん?
「あの、イーニアス殿下」
「なんだろうか、イザベルふじん」
「神殿の管理者とは、主にどのような事が出来るのでしょう?」
「ぅむ……、どのような、こと……?」
「例えば、侵入者を追い出す事が出来たり、捕える事が出来たり、そういった事は可能なのでしょうか?」
ふと湧いて出た疑問を、幼いイーニアス殿下に伺っても良いものか迷いましたけれど、今はイーニアス殿下しか答えられそうな者がいませんのよ。
「しんにゅうしゃを、おいだしたり、つかまえる……どうやって、したらいいのだろうか?」
イーニアス殿下は首を傾げると、困ったようにわたくしを見上げてきた。
「わたち、わかるの」
その時、ノアが可愛いおててをはいっと上げたではないか。
「ノア、侵入者の捕まえ方が、わかりますの?」
そもそも、管理者はそのような特殊能力が使えるのかどうかも定かではありませんけれど……。
「わかるのよ。あのね、たまねぎのちんでんに、おねがいしゅるの」
自信満々によくわからない事を言い出した息子は、誰よりも可愛い。
「おおっ、しんでんに、おねがいすればよいのか!」
「しょう。こうちて……おてて、ばんざーいちて、いでよ、たまねぎ。そちて、おねがい、かにゃえたま……って!」
「うむ。こうだな。いでよ、たまねぎ! そして、おねがい、かなえ、たまえ!」
何も集めていませんのに、たまねぎを召喚して願いを叶えようとしていますわ!? そもそも、たまねぎでは願いは叶えられませんわよっ
「ちんにゅーちゃ、ちゅかまえてください」
「しんにゅうしゃを、つかまえてください」
か、可愛すぎる!!
「お姉様、ノアたちは神殿に向かって何をやっているんですか?」
「もし神殿が生き物であれば、何でもいう事を聞いてしまいそうな愛らしさですね。しかし、野菜を召喚しようとするのは……斬新です」
オリヴァーとサリーがそばにやって来て、ノアたちを眺めながら呟いた。
「ど、どうしましょう……。息子が、絵本を鵜呑みにしてしまいましたわ」
「お嬢様、これは願いを叶えて差し上げた方がよろしいのではありませんか」
「どうやって!?」
相変わらず、冗談か本気かわからないサリーにツッコミつつ、どうしたら良いのかしら、と周りを見る。すると、さっきまで枢機卿に従っていた謎の女性がそこにいるではないか!
よく見ると、靴が凍って動けないでいるのだ。
テオ様、こちらの女性も捕えておりましたのね!
ぴったりした編み上げブーツを履いているからか、逃げようにも靴が脱げないのだろう。若干諦めているように見えるが丁度良い。
この女性に、枢機卿の事情を詳しく聞けば良いのだわ。
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