継母の心得

トール

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第二部 第3章

484.グランニッシュ帝国の太陽、マルグレーテ 〜 ネロウディアス皇帝視点 〜

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皇帝ネロウディアス視点

「まず、各国の王に宣言したい事が一つある」

自分の心臓の音が聞こえてくるほど緊張しながら、一息置いて、着席した王たちの顔をゆっくり見る。

また愚皇帝が何か言い出したぞ、という軽蔑と呆れの目が突き刺さるが、唾を飲み込み朕は続けた。

朕の中では、新素材ベリッシモよりも、リッシュグルス王国のジェラルド王即位よりも、何よりも、一番大切なのは、この話だからだ。

朕の山場は今この時!

「朕は、皇后マルグレーテに『副帝』という位を与えた」

宣言すると、会議室内には息をのむ緊迫感が漂い始め、にわかに騒がしくなる。

「静まるのだ。……『副帝』とは、皇帝に次ぐ権限を有し、皇帝と同等の発言権を持つ君主号である。つまり、首脳会議に参加し、発言する権利も有している」
「実質二王政ではないか……っ」

誰かが恐れ慄いたような、悲鳴に似た声を上げた。

そうなのだ。これは朕がレーテに出会ってからずっと考えていた事。

「なお、これは今代のみの特例措置であり、代々二王政を強くものではない」

レーテが王ではないからと、他国の王に軽く見られる事は、朕が許さぬ。

「副帝マルグレーテよ。皆に挨拶を」
「ええ」

朕の隣に座っていたレーテが頷き、洗練された動きで立ち上がる。その美しさに、幾人かの王がほぅ、と息を吐く。

「……中央諸国の王たちにおきましては、さぞ驚かれた事でしょう。しかしアタクシは、皇后を降りたわけではなく、引き続き皇后も兼任……」

挨拶を始めたレーテは、途中、言葉を止め朕を見ると……

「いえ、ネロウディアス皇帝の妻としても、このグランニッシュ帝国の副帝としても、その責を全うして参りますわ」

ああ、やはり朕のレーテの輝きには、誰も勝てぬ。彼女こそが、グランニッシュ帝国の太陽。

皇后という位ではなく、『朕の妻』としても、と言ってくれたレーテに、朕は不覚にも泣きそうになったのだ。


◇◇◇


「───新素材ベリッシモについては、一国が独占するのは危険ではないかと考えますが、皆様はどう思われますか?」
「危険は危険だろう。しかし、新素材ベリッシモはグランニッシュ帝国が開発したもので、独占も何もないだろう」
「だが、国が開発したのではなく、実際はいち貴族が開発したのだろう?」 
「だからと言って、情報の開示要求をするのは違うだろう」
「しかし、一国が独占するのは……っ」

先程から堂々巡りで、一向に会議が進まぬのだ……。朕は眠くなってきた。

「先程からおかしな会話が聞こえてくるのだけど」

静かなのに存在感のある……いや、迫力のある声に、皆が口を噤む。

新素材ベリッシモはグランニッシュ帝国の貴族が開発したもの。さらに、彼の者はディバイン公爵家と皇族の後ろ盾を得、販路や条件なども魔法契約を結んでいます。それを独占は危険だ、製造方法の開示要求だなどと、どのようなつもりで話しているのか……」

レ、レーテから、公爵と同様の冷気が!!

「考えてみてください。皆様の国の情報も開示要求する。などと首脳会議の場で会話された時、どう思われますか?」
「い、いや、マルグレーテ副帝、大変申し訳ない。我々にそのようなつもりはなく……っ」
「貴国が開発したものだ! もちろん製造方法を教えてくれなどと、そのような失礼な事は言わん!」

各国の王が、レーテの圧力に屈したのだ……っ

新素材ベリッシモを今回の議題に上げたのは、情報開示する為ではもちろんなく、輸出規制を設ける為です」

レーテ、顔がオーガを通り越しているのだぞ!?
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