継母の心得

トール

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第二部 第4章

494.異分子

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【───フェリクスや、よくお聞き。その瞳は確かに、他にはないものだ……】
【……しっているよ、クレオ。わたしは、このせかいの、いぶんしだ】
【フェリクス、異分子などと……そのように悲しい顔をするでない。おぬしは、魔力のコントロールさえできれば全てを見通す力を持っている。誰も知り得ぬ秘密も、この世界の真実も、おぬしに知れぬ事などないのだろう】
【クレオ……】
【しかしフェリクスよ、中には見てはならぬもの、暴いてはならぬものもある】
【みてはダメなもの……?】
【……その力、場合によってはおぬしが傷つく事になるやもしれぬ。私はそれが心配でならぬのだよ……】
【だいじょうぶ。わたしは、だいじょうぶ。だからクレオ、はやく、げんきになって……】
【フェリクス、私の最愛の孫よ。忘れないでおくれ。おぬしの瞳が好きだという老人がここにいた事を。そしてどうか、その瞳を嫌いにならないでおくれ───】


◆◆◆


「ぅ……っ、ふぇぇ!!」

テオ様が皇城にて泊まり込みの仕事に追われているので、会議の期間中の就寝時は、わたくしとノア、ぺーちゃんの三人で眠っているのだが、夜中に珍しくぺーちゃんが泣き出した。

「あらあら、ぺーちゃんどうしたの? 怖い夢でも見たのかしら?」
「ぅええ~!!」

ノアは熟睡しており、ぺーちゃんの泣き声では起きる気配はない。幸せそうに寝息をたて、穏やかな寝顔だ。

「よしよし。お母様がそばにおりますわよ」

抱き上げてあやせれば良いのだけれど、大きいお腹でぺーちゃんを抱っこできる力が、わたくしにはない。なので横になったまま抱き寄せ、背中をさすってあげると、ぺーちゃんの泣き声が徐々に小さくなっていく。

「あらあら、夜はぺーちゃんのおめめが、きらきら光っておりますわ。綺麗なおめめね」
「ぅえ……、ちぇ……?」
「ぺーちゃんのおめめに浮かぶのは、綺麗で神秘的な魔方陣ですわね」

やっぱり何度見ても、厨二病にはたまらない瞳ですわよね。

「かぁちゃ……ぺぇちゃ、めめ……、ちゅっき?」
「もちろんですわ。わたくしは、ぺーちゃんの可愛いおめめだけでなく、全部が大好きですのよ」
「かぁちゃ……っ、ぺぇちゃ、みょ、ちゅっき!」

まぁっ、ノアに負けず劣らずの可愛さですわね。

「ありがとう、ぺーちゃん。さぁ、怖い夢はお母様が追い払ってさしあげますからね。安心してねんねしましょう」
「ねぇね……」

お腹をぽんぽんしていたら、うとうとと眠り始めたぺーちゃん。

すぐに眠ってくれて良かったですわ。夜泣きなんてほとんどしない子だから、こういう時、焦ってしまいますわね。

「フフッ、可愛い寝顔ですわ。あら、こっちのお兄ちゃん天使様は、眠りながらわたくしにくっついてきて、甘えん坊さんね。どちらもとっても可愛い」

だけどどうしましょう。わたくしの目は冴えてしまいましたわ……。

二人に布団をかけ直した後、ベッドから降りて水差しからお水をコップへ注ぐ。たっぷり入れたそれを飲み干し、喉を潤す。どうやらかなり喉が乾いていたらしい。

「……アオから聞いた事が本当なら……」

サリーに言われた後、わたくしはアオに、なぜ王女様が来た時悲鳴を上げたのか、直接聞いてみたのだ。その時の事を思い出し、自身のお腹を撫でながら溜め息を吐く。

「テオ様もいらっしゃらない時に、どうしたらいいのかしら……」

コップに付いた水滴が、まるで冷や汗のように流れ、机に輪っかの跡を作ったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


「むにゃ……」
「大変、ノアが起きてしまったかしら?」
「ん~……おとぅしゃま……じゅーちゅ……」
「良かった、寝言ですわ。でも、ノアがテオ様の事を寝言で呼ぶなんて、珍しいですわね」
「むにゃ……みかんの、じゅーちゅ……」
「フフッ、夢の中で、テオ様にオレンジジュースを強請っていますのね」
「にゃ……ぺぇちゃ、みょ……」
「ぺーちゃんまで……。同じ夢を見ておりますの?」

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