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第二部 第4章
507.つれていかないで 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
「アカ、ほのおは、ダメだ! ははうえに、あたってしまう……っ」
『だけど、レーテつれていかれる!』
「ははぅえ……っ」
アカの言葉に魔法を躊躇うイーニアス殿下の判断は、間違ってはいない。
しかし、躊躇っている間に皇后が侍従と共に、穴の中へと姿を消してしまった。
「ははうえ!!」
懸命に走るが、子供の短い足では到底追い付く事はできない。悔しいのだろう。涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、皇后を必死で呼ぶ殿下に、アカまで泣きそうな顔をしていた。
「ぅう……っ、ははうえを、つれで、いがないで……!」
足が絡まったのか、穴のすぐそばで転げてしまう。すぐさま風の魔法で支えたので怪我はないようだ。
「イーニアス殿下」
「! こう゛……っ、ごぅしゃぐ……、ははうえ、ははうえが……っ」
涙を流しながら、起き上がって私に駆け寄って来るイーニアス殿下に、私は告げた。
「予定通りです、殿下。何の心配もいりません」
「こぅしゃく……?」
そう、皇后が拐われるのは予定通りだ。
「アカ、卵たちは皇后……副帝に付けたな」
『たまご、レーテのそば、いる! アカ、テオのいうとおり、した!』
「私の言う通りだと? お前は勝手に殿下の所へ転移しただろう」
『アカ、あせった……アス、いちばんだいじ!』
ごめんなさい。と謝る赤いキノコにため息を吐き、驚きで涙が止まったイーニアス殿下を再度見る。
「殿下、状況判断がきちんとできておりましたね」
「じょうきょう、はんだん……?」
「あなた様の魔法は、コントロールをしても威力が強すぎる。あの時敵に炎をぶつけていれば、副帝も怪我をしていただろう」
『アス、えらーい!』
この赤いキノコには、人質を取られた時、殿下に魔法を撃つようけしかける役割を与えていた。その際、イーニアス殿下がきちんと状況を把握出来るかを見るのが目的だ。
「どういう……ことなのだろうか……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
念話をすると、そちらに集中してしまい、周りの声が聞こえなくなるのはわたくしだけだろうか。
偶に口も動きそうになりますのよね。
手や首は動くようなので、口元を押さえながら、小さく溜め息を吐く。
「……上手くやったようだな」
足が動かないので、こちらへ来ると言って聞かないノアの気をそらす為に、わざと明るい話題を出して話していたのだが、ノアは誤魔化されてはくれなかった。
わたくしは納得できないまま、現実逃避にとりとめない事を考えていた時だ。王女が呟いて顔を上げた。
「さて、ディバイン公爵夫人、我々に付いてきてもらうぞ」
ベッドの上に座ったままだった王女が立ち上がり、窓の外を見た。
緊迫した空気が場を支配し、ミランダは必死で動こうとして、顔を真っ赤にしているし、ウォルトは冷たい目を王女に向けている。
この拘束は、いつ解けるのかしら……
「言っておくが、私の魔法が切れかけとはいえ、拘束魔法はまだ解けないぞ。かけたばかりだからな」
わたくしの思考を読んだかのように答えるものだから、つい顔を両手で覆ってしまいましたわ。
「ディバイン公爵夫人は顔に出やすいようだ。そこの侍女も、影だというのに、まだ青い」
ミランダはあまり表情には出しませんわよ?
「主の危機に、必死になっている姿は何と滑稽か」
何ですって……
「滑稽……? わたくしの侍女は、わたくしを大切に思ってくれておりますのよ。強い忠誠心を持ってくれている、誰より信頼出来る人間ですわ」
ミランダを馬鹿にされて、黙っているわけにはいきませんでしょう。
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