継母の心得

トール

文字の大きさ
306 / 369
第二部 第4章

520.出来損ない

しおりを挟む


わたくしの声に、テオ様は目をそらし、ウォルトは眼鏡を曇らせて拭きだす。そして王女様たちの空気が少し緩んでいるではないか。
何がなんだかわからないわたくしと皇帝陛下、子供たちは、呆気に取られた表情をして、事情を知っている目の前の人たちを見ている。

「イザベル様、実はね───」

苦笑する皇后様の話はこうだ。

お父様はエリス王女が殴られている所を目撃し、助けた時にすぐ医師を呼んで手当てをしていた。そこへ話を聞きつけたテオ様と、貴賓である王女様が怪我をしたと聞いて、慌てて駆けつけた皇后様。そこまでは聞いていた話と変わらない。が、違うのはここからだ。
どうして怪我をしたのか、王女様に理由を問い質すが何も話さず、様子がおかしいと気づいて、影と妖精に監視がいないか確認してもらったのだという。

そうですわよね。テオ様と皇后様ならば、徹底的に確認しますわよ。

父が王女様を連れ帰った時、何か違和感があったのよ。などと話を聞きながら納得していた。

影と妖精が調べたところ、やはり監視が複数存在し、ただ事ではないと厳戒態勢を敷いたのだとか。
王女様から監視の目を上手くそらし、彼女の侍従から話を聞き出したのだそうだ。

「話って……あの方たちは、犯罪組織であるエンプティの幹部なのですわよね?」
「それがね……」

王女様は、エンプティのボスなのだそうだ。

「まぁ、王女様がエンプティのボス……ボスですの!?」
「にゃ!」

何故か膝の上にいるぺーちゃんが、胸を張っておりますわ。

「ぺーちゃん、ちってたのね」
「にゃ!」

ぺーちゃん、知っておりましたの!? まさか鑑定眼で?

「エンプティとは言っても、内部は複雑だ……」

王女様が複雑そうな顔で、エンプティについて語りだした。

「女ごときが、裏切ったのか!」などと喚く監視役の男に、影が猿轡をかまし黙らせると、王女はそれを一瞬見てから、話を戻す。

「エンプティ内部は、大きくわけて二つに分かれている」
「えんぷち、ふたちゅあるの?」

王女様の話に素早く反応したのは、ノアたち子供だった。

「ノア、もしかすると、おもてのエンプティと、うらのエンプティかもしれない」
「おもてと、うりゃ!?」
「にゃ!?」
「ふりょ、ぽんぽん、くぅ……」

フロちゃんに何かおやつを……とミランダを見ると、すでに扉の外にいたメイドに子供たちのおやつを持ってくるよう指示をだしていた。

「まぁ、そのようなものかもしれないが……エンプティは私たちのように幼い頃から訓練を受けさせられている、特異魔法の使い手と、兄……王が最近になって雇い入れた者がいる。ああ、それともう一つ、外部の者もいるか……」
「みっつだ」
「みっちゅなのよ」
「にゃっ」
「ふりょ、ちかりゃ、でにゃぃ……」

子供たち、そんなに突っ込まないであげてくださいまし。
だけど王女様の話によると、どうやらエンプティには、正社員、パート、派遣社員、というような構成で分かれておりますのね。

「……そもそも、祖父の時代に、迫害されていた特異魔法の使い手たちが居場所を求め、出来た組織が『エンプティ』だったが、父の時代にはその子孫たちが奴隷のような扱いで犯罪に使われ、殺された」
「奴隷……」
「兄が王になっても、その扱いが変わる事はなかった」

王女は感情のない淡々とした話し方で、壮絶な過去を語る。

「我らは、出来損ないの特異魔法使いだ」
「出来損ない?」
「そう。たとえば私は、警戒心を無くす魔法を使うと言っただろう」
「そうですわ。警戒心を無くすなど、恐ろしい魔法で、とても出来損ないとは思えませんが……」

そもそも、特異魔法の使い手に出来損ないって概念がありますの?

「本来の威力であれば、魅了という、人の心を操る事の出来る魔法になるのだそうだ」

魅了ですって!?

しおりを挟む
感想 11,966

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。