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第二部 第4章
520.出来損ない
しおりを挟むわたくしの声に、テオ様は目をそらし、ウォルトは眼鏡を曇らせて拭きだす。そして王女様たちの空気が少し緩んでいるではないか。
何がなんだかわからないわたくしと皇帝陛下、子供たちは、呆気に取られた表情をして、事情を知っている目の前の人たちを見ている。
「イザベル様、実はね───」
苦笑する皇后様の話はこうだ。
お父様はエリス王女が殴られている所を目撃し、助けた時にすぐ医師を呼んで手当てをしていた。そこへ話を聞きつけたテオ様と、貴賓である王女様が怪我をしたと聞いて、慌てて駆けつけた皇后様。そこまでは聞いていた話と変わらない。が、違うのはここからだ。
どうして怪我をしたのか、王女様に理由を問い質すが何も話さず、様子がおかしいと気づいて、影と妖精に監視がいないか確認してもらったのだという。
そうですわよね。テオ様と皇后様ならば、徹底的に確認しますわよ。
父が王女様を連れ帰った時、何か違和感があったのよ。などと話を聞きながら納得していた。
影と妖精が調べたところ、やはり監視が複数存在し、ただ事ではないと厳戒態勢を敷いたのだとか。
王女様から監視の目を上手くそらし、彼女の侍従から話を聞き出したのだそうだ。
「話って……あの方たちは、犯罪組織であるエンプティの幹部なのですわよね?」
「それがね……」
王女様は、エンプティのボスなのだそうだ。
「まぁ、王女様がエンプティのボス……ボスですの!?」
「にゃ!」
何故か膝の上にいるぺーちゃんが、胸を張っておりますわ。
「ぺーちゃん、ちってたのね」
「にゃ!」
ぺーちゃん、知っておりましたの!? まさか鑑定眼で?
「エンプティとは言っても、内部は複雑だ……」
王女様が複雑そうな顔で、エンプティについて語りだした。
「女ごときが、裏切ったのか!」などと喚く監視役の男に、影が猿轡をかまし黙らせると、王女はそれを一瞬見てから、話を戻す。
「エンプティ内部は、大きくわけて二つに分かれている」
「えんぷち、ふたちゅあるの?」
王女様の話に素早く反応したのは、ノアたち子供だった。
「ノア、もしかすると、おもてのエンプティと、うらのエンプティかもしれない」
「おもてと、うりゃ!?」
「にゃ!?」
「ふりょ、ぽんぽん、くぅ……」
フロちゃんに何かおやつを……とミランダを見ると、すでに扉の外にいたメイドに子供たちのおやつを持ってくるよう指示をだしていた。
「まぁ、そのようなものかもしれないが……エンプティは私たちのように幼い頃から訓練を受けさせられている、特異魔法の使い手と、兄……王が最近になって雇い入れた者がいる。ああ、それともう一つ、外部の者もいるか……」
「みっつだ」
「みっちゅなのよ」
「にゃっ」
「ふりょ、ちかりゃ、でにゃぃ……」
子供たち、そんなに突っ込まないであげてくださいまし。
だけど王女様の話によると、どうやらエンプティには、正社員、パート、派遣社員、というような構成で分かれておりますのね。
「……そもそも、祖父の時代に、迫害されていた特異魔法の使い手たちが居場所を求め、出来た組織が『エンプティ』だったが、父の時代にはその子孫たちが奴隷のような扱いで犯罪に使われ、殺された」
「奴隷……」
「兄が王になっても、その扱いが変わる事はなかった」
王女は感情のない淡々とした話し方で、壮絶な過去を語る。
「我らは、出来損ないの特異魔法使いだ」
「出来損ない?」
「そう。たとえば私は、警戒心を無くす魔法を使うと言っただろう」
「そうですわ。警戒心を無くすなど、恐ろしい魔法で、とても出来損ないとは思えませんが……」
そもそも、特異魔法の使い手に出来損ないって概念がありますの?
「本来の威力であれば、魅了という、人の心を操る事の出来る魔法になるのだそうだ」
魅了ですって!?
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