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第二部 第4章
521.こびりついた汚れ
しおりを挟む「おぃち~!」
「ぅ~ちぃ!」
「それはようございました。ぺーちゃん様、お口の周りに食べカスが……はい、取れました」
「ぁーちょ、みゃじー」
いつの間にかマディソンとカミラも神殿から戻ってきており、フロちゃんとぺーちゃんにおやつを食べさせている。二人のお世話をするマディソンは、孫馬鹿全開のおばあちゃんのようで微笑ましい。
多分、マディソンはテオ様と王女様が協力関係にある事を知っていたのだわ。だからこそ子供たちの気持ちを優先させ、危険な場所に転移する事を許したのね。
でないと、マディソンが子供だけで戦う事を許すわけがなかったのよ。
「見事に騙されましたわ……」
溜め息を吐きながら、まだおやつに手を付けていないノアとイーニアス殿下に声をかける。
「ノア、イーニアス殿下、皆と一緒にお茶にするのはどうかしら?」
ノアやイーニアス殿下もおやつを、と思ったが、しかし二人は話を聞きたいと断ってきたのだ。
「食べながら聞いてもいいのよ」と諭せば、二人は互いを見て、嬉しそうに頷くではないか。なんて可愛らしい様子を見せるのか。
天使がたくさんおりますわ。
「───少し話がそれてしまったが、エンプティについて知ってもらいたかった……」
「わかっておりますわ。その話をわたくしが知らなければ、テオ様と皇后様との話には入れませんのよね」
王女は頷き、皇后様とテオ様を見る。
「出来損ないと言われ続けてきた私は……、それでも必死に足掻き、生きようとした。死ぬのが怖かったからだ」
「死ぬという事に恐怖を感じるのは当たり前ですわ」
わたくしも、前世で死を身近に感じた時、心底怖いと思った。
「……私は、自分が生きる為に……兄弟たちを殺したのだ」
兄弟を、殺した───
「ディバイン公爵夫人、エリスは……っ、エリスはね、殺したくて殺したわけじゃないよ!」
少女が王女の前に出て、わたくしから守るように両手を広げる。
「そうだ。当時の王に殺し合いを強要されて、断れば俺たちを殺すと言われたから……っ」
侍従も、泣きそうな顔で王女を庇う。
「エリスは悪くない。悪いのは全部、王という権力に惑わされ、狂った愚か者たち」
「うす」
透明だった女性が徐々に姿を現し、愚かな権力者を批判する。その隣の大男もまた、王女様を庇うのだ。
この方たちは、強い絆で結ばれているのね。
『ベル~、チロ、コワイ、オモッタノ、オージョノタマシー、ニンゲンノ、チノイロデ、ソマッテタカラナノ~』
チロがわたくしのほっぺにすり寄りながら、小さな身体を震わせ、王女を見て両手で目を塞ぐ。
『アオ、まっか、こわいー!!』
そうでしたのね。エリス王女が人を殺めていたから、魂が真っ赤に染まってしまいましたのね……あら? でも、それならテオ様は……
『ベル、チガウノ~。ケツエンシャ、アヤメルト、タマシー、アカクナッテイクノ~』
『おーじょ、あかはあかでも、まっかっかー!!』
先ほど王女様は、兄弟たちを殺したと言っておりましたわ……。強要され、血縁者を何人も殺めて自分の魂を汚してしまいましたの……? それならば、なんて辛い……っ
『あのおじょうちゅんの、たまちゅうがよごれているのは、じぶんのことを、ゆるちゅてないから、でござんちゅよ』
ノアの頭の上から、わたくしの手のひらにやって来て、そう言うのはももんちゅだ。
「自分の事を、許していない……?」
『そーいえば、ベルも、じぶんをゆるしてないとき、たましー、へんだったー!!』
アオの言葉に、回帰前の自身の行いを許せず、魂がブレていると言われた事があったのを思い出す。
『ふちゅう、よいたまちゅうをもちゅものは、よごれても、ちゅぐきれいになるで、ござんちゅ』
けれど、自らを嫌えば嫌うほど、汚れはこびりついていくのだと、ももんちゅは教えてくれた。
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