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第二部 第4章
524.それぞれの秘密
しおりを挟む「───わたくしたちは、まったく知らされておりませんでしたし、ウォルトは演技とは思えないほどでしたもの。ノアだって怖かったでしょうに、勇敢に立ち向かいましたのよ……っ」
「ベル、すまなかった……。今回の事は、子供たちの訓練の成果も確かめたかったというのが本音だった……」
「そうならそうと、わたくしにも教えてくださったら良かったのに!」
「それは……君に伝えると大事になる予感しかしなかった」
「まぁっ、そんな事仰るの!?」
「ベル、少し落ち着け。身体に障る……」
事のあらましをテオ様から聞かされ、わたくしはノアやぺーちゃんたちの恐怖を考えると、とてもではないが、今回のやり方には許容出来ず、嫁いできた当初のように、テオ様を責めてしまいましたのよ。
テオ様はわたくしの身体を気遣っていて、肩をずっと抱いてくださっておりますが、絆されませんわ。子供たちを怖がらせた事、怒っておりますのよ。ノア流に言いますと、ぷんぷんですわ!
「おとぅさま、おかぁさまに、めっ、されてりゅ……」
「ノア、ここはみぬふりを、してあげるのが、しんしのたいおうだ」
「ちー?」
「そう、しーっだ」
子供たちのヒソヒソ話にハッとし、見せてはいけないものを見せてしまった! と、後悔しつつ、誤魔化すように空咳をする。
「大怪我をなさっていた王女様の容体も気になっておりましたし、お部屋から出てこられないから、本当に心配しました」
「ディバイン公爵夫人、申し訳ない……」
王女様が謝罪されるが、表情はあまり動かない。
やはりこの方は、感情を表に出す事が苦手ですのね。
「エリス王女殿下、お怪我の具合はもう、大丈夫ですの?」
一番気になっていた事を聞けば、王女様はコクリと頷き、
「世話をかけた。痣は残っているが、いつもの事だから……」
「怪我をする事を、いつもの事だと仰らないでくださいまし」
「え、いや、しかし……」
戸惑っている王女様を見据え、わたくしははっきりと言ったのだ。
「暴力をふるわれることに慣れないでください。ご自身を、大切にしてくださいませ」
「ディバイン公爵夫人…」
「王女様、あなたの周りには、あなたを心配する方がたくさんおりますわ」
わたくしが怪我の話を口にした時、自分の事のように辛そうな顔をした人たち。
「エリス……」
透明化する魔法を使える女性は、王女様の名前を呟き、
「お前の痛みは、俺たちの痛みだ」
侍従は真剣な目をしてそう言うのだ。そして、
「そうだよ! あたしたち、エリスが痛い目にあうのは嫌!」
「うす」
大切にされておりますのね。
「お前たち……」
ここにきて初めてではないかしら。王女様の表情が大きく変化したのは……。そういえば、仲間と合流した時も、気安い感じではありましたから、彼らにだけは、感情も出やすいのかもしれませんわね。
「ふりょ、ピカッしゅりゅ?」
王女様の怪我の事を心配したのか、フロちゃんがそんな事を言い出すものだから、慌てて「しー」と口の前に人差し指をだしてジェスチャーする。
「フロちゃん、ピカッは秘密ですわ」
「ぅ? ひみちゅ」
「フロちゃんが、ピカッと出来る事は、しーですの」
「ちー!」
あーい、と可愛いお返事をして、片手を上げるフロちゃんを褒めて、頭を撫で、ぎゅっと抱きしめる。ふわりとミルクのような甘い香りがするのは、おやつを食べたからだろうか。
ぺーちゃんも、ミルクとおひさまの匂いがしますのよね。
「それで、先ほど仰っておりました、皇后様とわたくしの誘拐を指示した人物はどなたですの?」
親指をチュッチュと吸いながら、わたくしの腕の中でリラックスしているフロちゃんをぽんぽんしつつ、話を戻す。
「マルグレーテ皇后陛下と、ディバイン公爵夫人を攫うよう指示したのは……ロギオン国の王である、私の兄だ」
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