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第二部 第4章
535.おもてなし1
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中央諸国首脳会議も終わり、各国の王は、グランニッシュ帝国にやって来た最大の目的にソワソワと、浮かれる気持ちを隠せないでいた。
「んっふ! わらわの子供たちも、夫たちも、それはそれは楽しみにしておりましたのよ!」
「フォッフォッフォッ、この為に、ワシは来た!」
「私の国にまでその評判は届いておりますぞ!」
「俺も妻も楽しみにしていた!」
各国の王とその家族は、皇城の長い廊下を、アトラクションの行列のような集団になって歩いており、ある場所へと向かっていた。
「父上、早く行きましょう!」
「ハハッ、待て待て。そう慌てずとも、逃げはせぬわ」
全員が嬉々とした表情で、あの緊張感のある会議とは大違いだ。
そしてその浮かれた人々の先頭を歩くのは、グランニッシュ帝国の皇族一家である。
「レーテ、朕はずっと思っておったのだが、何故アレを皇城で開催する事になったのだ?」
後ろを歩く各国の王族たちを、チラチラと気にしながら、グランニッシュ帝国皇帝ネロウディアスは、隣を歩く愛妻のマルグレーテにうっとりした目を向けながらも、小声で囁く。
「何言ってんのよ。さすがに各国の王族を街に放つわけにはいかないでしょ」
放つとは酷い言い様だが、マルグレーテの言葉には説得力がある。
「た、確かに……」
「それに、皇城なら設備も十分だし、アタシたちも全員一緒に楽しめるわ!」
「さすが朕のレーテなのだ!」
自分たちが楽しめるからと、本音が漏れてしまってはいるが、妻にぞっこんなネロウディアスには、朕のレーテはすごい! という考えしかないのだ。
そんな両親のすぐ後ろを賑やかに歩く11人の子供たちの中に、イーニアス第二皇子がソロモン第一皇子に手を引かれながら歩いていた。
「あにうえ、リューちゃんは、いっしょではないのでしょうか」
「リューちゃんは赤ちゃんだからね。たくさんの人がいる所では、怖がって泣いてしまうかもしれないから……」
「リューちゃんが、こわがるのは、ダメです」
「うん。だから、今日はお部屋でお留守番だよ」
リューちゃんとは、彼らの弟である、リューク第三皇子の事だ。生まれて間もない赤ん坊である為、一緒ではないらしい。
「きょうは、ノアもいないので、ミュージカルはたのしみですが、すこしさびしいです」
「そうだね。だけどノア公子は今日、来ていたような……?」
「あにうえ?」
「あ、いや、何でもないよ。ミュージカルは新作らしいから、僕らも観たことがないもののようだよ」
「はい! とても、たのしみです!」
そう、本日は各国の王たちのおもてなしとして、皇后マルグレーテが、皇城内にある劇場に、かの有名な劇団『輪舞』の特別公演を依頼していたのだ。
皇城内にある劇場は、この国でも一番と言っても良いほど絢爛豪華で設備も充実している。さらにそこそこの広さもあり、客人を招いてオペラなどはよく行われているが、ミュージカルはした事がない。
何しろミュージカルというもの自体、今までになかったものだからだ。
『輪舞』は一度、皇族の住居である皇宮内の一部屋に招き、公演してもらってはいるが、大規模なものは今回が初めてで、皇帝も皇后も楽しみにしていた。
「輪舞の公演は一年先まで予約がいっぱいで、チケットが手に入らないそうですね」
「そんな人気の劇団の、しかも新作を観る事ができるなんて!」
「さすがグランニッシュ帝国の皇帝陛下だ!」
図らずとも、他国の王族たちのネロウディアス皇帝への好感度が、爆上がりしていたのだった。
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