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第二部 第4章
537.おもてなし3
しおりを挟む「おのれマルグレーテ! わらわを謀っておりましたのねぇ!!」
「オーッホホホ! 一番美味しい物を出し渋るのは当然でしょう!」
「んぐぬぬ……っ、そのアンコとやらをわらわに寄越しなさいよぉ!」
「あらあら、他の菓子でそのようにお腹をパンパンにさせて、アンコの菓子が召し上がれるのかしら」
「ぅうっ、何という卑怯な!」
勝ち誇ったようにどら焼きを口に運ぶ皇后様と、出されたお菓子を食べすぎて、お腹が膨れ服がはち切れそうなのに、どら焼きに手を伸ばしてぷるぷるしているブラビオール王国のビオラ女王が睨み合っている。というか、戯れている?
「な、何ですのあれ……?」
「どうやら、ブラビオールの女王と、副帝は気が合うようだな」
テオ様が、出されたお茶などには一切手をつけず、イーニアス殿下と楽しそうにおもちゃで遊んでいるノアを眺めながら、わたくしの疑問に答える。
相変わらず、外で出されたものは召し上がれないのね。
「そうでしたのね」
宝石などの華美なものを好むビオラ女王と、キャリアウーマンで仕事大好きの皇后様。見た目も好むものも正反対のお二人だけど、気が合いますのね。素敵な友情ですわ。
「しかし、よくこの量の玩具を城に持って来れたものだ」
テオ様の言葉に、わたくしは周りを見る。
皇城の一室に、おもちゃの宝箱を作ってくれと皇后様から依頼され、お店を再現したのだ。
ミュージカルもだが、玩具も手にとって見たいという他国の王族たちの要望があったらしい。さらには美味しい菓子や料理もと、グランニッシュに来たらやってみたい事、食べたいものをそれはもう熱望され、用意出来なければ、他国の王族が一気に帝都に繰り出す所だったのだと聞かされた時には、ゾッとした。想像しただけで恐ろしいものがある。
さすがに巨大滑り台は用意出来なかったけれど、この広いホールにお店と、おもちゃカフェで出てくるメニュー用意されたお茶会が同居している。
「今ある在庫をかき集めて、それを皇后様が貸し出してくださった馬車と人手で運び込みましたのよ。お陰で帝都支店の在庫は心許ないので、わたくしハラハラしておりますの」
「そうか……。ベルにはいらぬ苦労をかけたようだ」
テオ様はそう言ってわたくしの手を両手で包み、「他国の王族には早々に帰ってもらおう」と毒づくのだ。
「まぁ、テオ様ったら、そんな御冗談を」
ホホホッと笑って返すが、テオ様の目は本気だ。
「そ、それにしても、ノアのあのはしゃぎよう、殿下たちと遊べる事が余程嬉しいのでしょうね」
「ああ、このように大人数で遊ぶ事はあまりないからな」
「ぺーちゃんやフロちゃんも一緒でしたら、もっと賑やかだったに違いありませんわ」
「ぺーはまだしも、フローレンスをこの場に、というのは難しいだろう」
いくら聖女とはいえ、表向きは一般庶民。貴族ですらないフロちゃんを、皇城に連れてくる事は不可能なのだ。聖女だと、正式に発表すれば別だけれど、それはまだ幼いフロちゃんとドニーズさんを離れ離れにしてしまう事になる。それは本意ではない。
「そうですわね。わたくしとしては、娘のように思っておりますが」
「君は私の妻で、ドニーズの妻ではない」
無表情なのに、声は焦ったようにそんな事を言う夫に、思わず瞬きをしてしまいましたわ。
「テオ様ったら、当たり前ですわよ。わたくしはテオ様以外の妻にはなりませんわ」
そう笑っていると、テオ様は安堵し、頷いた。
「フロちゃんといえば、わたくしたちが出かける時、ぺーちゃんが大泣きして、ぺーちゃんの頭を撫でてあげておりましたでしょう」
「ああ」
「あの時にわたくし、以前ノアを領地に置いて帝都に来た時の事を思い出しましたのよ」
「皇帝陛下に、夫婦でパーティーに招待された時か」
そんなに昔の話でもありませんのに、テオ様は懐かしそうに目を細める。
「あの時、ノアが寂しくなって、ずっと玄関でわたくしたちを待っていた事はご存知でしょう」
「あの時のノアは、君だけを待っていた」
あの時のテオ様は、最低の父親でしたものね。
「ゴホンッ、そうではなく……、あの時にノアは、玄関にお部屋を作ってもらって待っておりましたの」
「ああ……」
複雑そうなお顔ですわ。公爵家の当主としては、使用人たちの行動は、あまり良いとはいえないものですものね。
だけど、わたくしはあの時の使用人たちの行動を褒めて差し上げたいのよ。だって、あれがあったからこそ、ノアの心は救われたのだから。
テオ様もそれを感じていたから、使用人たちに罰を与える事をしなかったのだわ。
この人は、優しい人ですもの。
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