継母の心得

トール

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第二部 第4章

538.おもてなし4

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「夢のような世界ではないか!」
「グランニッシュ帝国の子供らは、貴族も庶民もこのように楽しいもので遊んでいるのですか」
「なんと羨ましいこと!」

組み立て式模型に夢中なのは子供よりも大人のようで、各国の王たちが模型コーナーに集まって、子供よりも楽しそうに手にとって騒いでいる。その中にはもちろん無類の組み立て式模型好きである、ネロウディアス皇帝陛下の姿もあり、皆の中心で模型について語っているのだ。

「ほぅ、ほぅ、ネロウディアス帝は博識ですなぁ」
「まさかあの悪辣非道と呼ばれ、愚帝の中の愚帝であった、あのグランニッシュ皇帝が……」
「本当に……、韜晦とうかい皇帝と呼ばれている意味がわかりました」
「彼はまさしく、賢帝である!」

我が国の皇帝陛下の好感度は、現在爆上がり中のようですわ。



「───それでベルは、あの時のようにぺーとフローレンスが、玄関に部屋を作って待っていると思っているのか」

テオ様はわたくしが何を言いたいのか理解したようで、ふぅっと色っぽく息を吐き、ドキリとさせた。

「ウォルトとマディソンがいる屋敷で、そのような事は起きないだろう」

確かに執事長のウォルトと、侍女長のマディソンがいれば、そんな事はないだろう。しかし、最近のマディソンは、ぺーちゃんを孫のように可愛がっており、かなりの孫馬鹿なのだ。

ノアが玄関に部屋を作った事も、報告が上がっていると思いますし、ぺーちゃんが玄関を離れなければ、率先して部屋を作りそうですわ。

「ではテオ様、賭けをいたしませんか?」
「賭けだと?」

訝しんだ表情でわたくしを見ると、話を続けろと促す。

「わたくしは、ぺーちゃんたちの部屋が玄関に出来ていると思いますの」
「……なるほど、では私はウォルトとマディソンが止めている方に、私の所有する別荘を賭けよう」
「そんなものを遊びで賭けないでくださいまし!」

別荘って、こんな内輪の遊びで賭けるものではありませんわよ!?

「ならば何を賭けようか……」
「賭けるのならば、例えばテオ様の仕事の時間を融通して、わたくしやノアと一緒に過ごしてくださるとか、そういった事でよろしいのですわ」
「そんな事は、ベルが言うのならいつでも融通できる。賭けの対象にはならんだろう」

「君が仕事を休んで一緒にいてくれというのなら、喜んで一緒にいよう」と嬉しそうに仰るテオ様に、口説かれているようでドキドキしましたわ。

「それは嬉しいのですが、これはゲームですから、テオ様は負けたなら、お休みを作ってわたくしたちと過ごしてくださいまし」
「君がそれを望むなら、そうしよう」
「もしわたくしが負けたなら……」

わたくしは何を賭けようかしら。と考えていると、

「ベルが負けた時は、私に一日中愛をさえずるというのはどうだろうか」
「え!?」

何ですの、その恥ずかしすぎる罰ゲームは!

「おかぁさま、おとぅさま、ゲーム、ちてる?」

テオ様によって罰ゲームを決められてしまったわたくしの前に、天使が現れましたのよ。

「わたちも、ゲームしゅる!」
「こうしゃく、イザベルふじん、なんのゲームをしているのだろうか? わたしも、まぜてほしい」

ノアはわたくしたちの賭けに、自分もやりたいと言い出し、イーニアス殿下は興味津々で聞いてくるので、言い出した身としては困ってしまう。

まさか子供に、遊びとはいえ賭け事を教えるわけにはいきませんものね。

「まぁ、二人とも……こ、これはゲームではありませんのよ。ただ、ぺーちゃんとフロちゃんが、おうちの玄関に、以前のノアのようにお部屋を作っているかしら、と、お父様とお話しておりましたのよ」

ね、テオ様。と誤魔化すのだが、「ゲームって、きこえたのよ?」となかなか引き下がらないのだ。

「ノア、以前使用人たちが以前、玄関に部屋を作ってくれた事があったそうだな」
「はい! おかぁさま、まってたのよ」

ノア……健気に待ってくれていたのよね。あの時の自分に、ノアも一緒に連れて行ってあげて! と声を大にして言いたいですわ。

「ノア、げんかんに、おへやがあったのか?」
「しょうよ。カミラとね、めいどとね、にわちとね、みーんなで、ちゅくったの!」
「なんと! みんなでつくったのか」

イーニアス殿下が「玄関の部屋」というワードに食いつき、羨望の眼差しでノアを見るではないか。

これは、自分にも作ってほしいとか言い出したらどうしましょう。ぺーちゃんたちの前に、イーニアス殿下が皇城の玄関に部屋を作りそうな勢いですわ……

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