継母の心得

トール

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第二部 第4章

540.ディバイン公爵家のクリスマス

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クリスマスはざっくり言えば、地球の神様の誕生日。だから、この世界には無いのだけれど、日本のクリスマスを知っているわたくしとしては、冬にツリーが無いのも、クリスマスケーキやチキンを食べないのも、サンタさんがいないのもつまらないでしょう。
だからね、誕生日ではなく、冬の訪れを祝うお祭りとして浸透させようと、おもちゃの宝箱を起ち上げた時から、サンタの絵本や、ツリーにオーナメントを飾ったり、ブッシュ・ド・ノエルやサンタさん人形の乗ったケーキを期間限定で売り出してみたり、色々とやってきましたのよ。

そしてようやく……

「あーっ、サンタック!」
「サンタック、握手ー!」
「サンタック、もふもふー!!」
「ロースさんも、あくしゅー」
「ロースさん、プレゼントちょーだい」

なぜかサンタはおじいさんではなく、サンタックというもふもふが増したカピバラもどきがサンタの格好をしたような、もふもふぬいぐるみを指すようになってしまったのだ。

ちなみにサンタックを抱っこしている、立派な白髭をたくわえたおじいさんは、サンタックの飼い主のロースさんである。

「何故かしら……」

領地のおもちゃの宝箱は、内装はまさにクリスマスなのだが、ショーウィンドウにはサンタックが並び、もふもふをアピールしている。
もちろんお店のメインディスプレイは、サンタの格好をしたテディなのだが、サンタックが侵食してきている気がするのは、わたくしだけだろうか。

「おかぁさま、サンタック、ぺーちゃんにぷじぇぜんと、ちましょ!」

わたくしと手を繋ぎ、ご機嫌に領地のおもちゃの宝箱、本店にやってきたノアは、お留守番のぺーちゃんにクリスマスプレゼントを買いたいらしい。

「あらあら、ノアがぺーちゃんのロースさんになりますのね」
「しょうよ! わたち、ろーしゅさん!」

ロース……肉ではない。違和感は半端ないが、サンタックの飼い主であるロースさんは、子供たちにプレゼントを配る老人なのだ。

「おかぁさま、わたちのおうちも、ろーしゅさん、くるかちら?」

愛くるしい瞳で見つめてくる息子に、顔が崩れそうですわ。

「もちろんよ。ロースさんはサンタックに乗ってやって来ますわ」

そう、サンタックは大きさも自由自在に変えられる獣だ。ロースさんはクリスマスに、巨大化したサンタックに乗ってやって来る。

「わたち、ろーしゅさんに、サンタック、のせてくださいって、おねがいちたのよ」

知っている。ひと月前からベッドに靴下をぶら下げ、願い事の書いてあるお手紙を入れていたのだから。
今夜は巨大なサンタックが我が家の寝室にやってくる。

「アスでんかね、ろーしゅさんに、おひげに、さわらせて、くだしゃいって」
「サンタックではなく、ロースさんのお髭ですの?」
「しょうよ。ふわふわ!」

自分もサンタックとロースさん、どちらにするか迷ったのだと話すノアは、とても楽しそうだ。

「触らせてもらえると良いですわね」
「はい! どんなだったか、おちえてもらうのよ!」

あらあら、これは陛下が大変ですわね。
白髭をたくわえたクレオ枢機卿にお手伝いしてもらえたら、一番良いのかもしれませんが、それは難しいでしょうし……何しろ枢機卿猊下ですものね。

「さぁ、ノアロースさん、ぺーちゃんとフロちゃんにサンタックを買って、お家に帰りましょう」
「はい!」

大混雑しているおもちゃの宝箱を出て、馬車に乗る。
ディバイン公爵領の領都は相変わらず可愛い街並みで、だけど以前と違うのは、冬は雪が深いからかあまり外を歩く人はいないのだけれど、道路には雪かき馬車が走るようになり、歩道は火の魔石を等間隔に埋め込んだ、ロードヒーティングで雪を溶かすようになった事で、圧倒的に人の往来が変わったのだ。

まぁ、火の魔石は高価だから、ロードヒーティングは大通りにだけなのだけど。

「賑やかな冬になりましたわね」
「これも奥様と旦那様のお陰ですよね!」

馬車は火の魔石を設置しているので温かいからか、カミラはノアのマフラーを預かりながら、嬉しそうに頷くのだ。

「おかぁさまと、おとぅさま、しゅごいのよ」
「はい! ノア様。ノア様のお母様とお父様は、素晴らしい御方です!!」

カミラの言葉に胸を張る息子を見れただけで、テオ様に色々と提案して良かったですわ、と胸が温かくなる。

ちらちら降り出した雪を見ながら、ノアと今日のお夕飯やプレゼントの話をしながら帰路につく中、わたくしたちの乗った馬車の後ろで光が灯され始めたイルミネーションに、サンタクロースのソリから出る光の余韻のようだと、少しだけ自分がサンタさんになった気分でノアの頭を撫でる。

「おかぁさま、ぺーちゃんも、フロちゃんも、ぷぜ、じぇんと、うれちぃかちら?」
「ええ。ノアからのプレゼントに、二人とも大喜びしますわ」

賑やかな我が家を想像しながら、心の中で呟いたのだ。


“Merry Christmas”



ーーーーーーーーーーーーーーーー



いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。
このお話を続けられているのも、皆様のお陰です。
いつも楽しみにしてくださり、そして楽しんでお読みくださり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

今年はもう少し更新したかったのですが、風邪を引いてしまいまして、難しそうなので、本日の更新を最後に、今年の更新を終えたいと思います。

それでは皆様、良いクリスマスと、より良い一年をお迎えください。

来年も【継母の心得】を、どうぞよろしくお願いいたします。

※2025年は1/7~土日祝休みで更新していきます

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