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第二部 第5章
541.ロギオン国の歴史
しおりを挟むモヤモヤする時には初心に戻って、貴族名鑑と歴史書を読むに限る。もちろん我が国ではなく、ロギオン国の貴族名鑑と歴史書だ。
「ロギオン国も、グランニッシュ帝国ほどではないにしても、古い歴史のある国ですのよね……」
1500年前、グランニッシュ帝国がまだ小国のランス王国だった頃、ロギオン国はニース王国という国で、ランス国に攻め入った国の一つだった。ランス王国に敗戦したニース王国は、多額の賠償金を支払うのだが、それにより国は衰退し、ニース王国は滅びる。そうして新たに建国されたのが、ロギオン国だった。
珍しいのは、ロギオン国の初代国王が二人いたという事だ。偶然だが、現在のグランニッシュ帝国のように、王と副王がおり、二人は仲の良い双子だったのだそうだ。
しかし、初代国王であった双子の兄は、外国の女性に懸想し、叶わぬ恋に心を病み、結婚する事なくこの世を去ったのだとか。その後は副王であった弟の子供が国王となり、現在の形になっていった───
「外国の女性に懸想し、恋焦がれて亡くなる……」
恋焦がれて過ぎて亡くなるというのは、誇張かもしれないけれど、随分情熱的……というか、執着心が過ぎているというか……
「まるで、デルベ伯爵みたいですわ」
ウェッジウッド伯爵の娘に恋……というか、執着した挙句、テオ様に手酷い裏切りをした人。
「……にしても、恋焦がれ過ぎて亡くなると歴史書に書かれるほど好きになった女性って、どんな方なのかしら」
そこまでの恋話なら、語り継がれていてもおかしくはないと思いますのよ。皇宮の図書館にありそうなのだけど、わたくしは皇后様や子供たちのように転移なんてできませんし……、けれど気になりますわ。
「双子の王というのも珍しくて気になりますし……そうですわ! エリス王女に聞いてみましょう」
お父様はテオ様と皇后様が大丈夫だと言っておりましたもの。わたくは、わたくしに出来る事をいたしますわ。
敵対する相手の情報を、出来るだけ多く手に入れておく事は、戦において勝敗を大きく左右しますわ。
「───という事で、もし双子の王の事で何か知っておりましたら、教えていただきたいのです」
「双子の、王……、ロギオン国の初代の事だろうか……?」
翌日、王女様に話を聞こうと客室に訪れると、彼女は目を丸くしていたが、快く招き入れてくれた。
「そうですわ。気になるのは、双子の兄が恋をしたという外国の女性ですの」
わたくしはロギオン国の歴史書や貴族名鑑を広げ、王女様に説明した。
「ああ、その話はロギオン国では有名で、吟遊詩人の歌にある」
「吟遊詩人の歌……、どのような内容なのでしょうか?」
前のめりに質問するわたくしに、王女様は少し顔を引きつらせながらも、教えてくれた。
「確か内容は……、たまたまロギオン国に商売にやってきたグランニッシュ帝国の商隊に、美しい女性がおり、街を視察していた王の目に止まるところから始まる。双子の兄王は、毎日商隊に通い、女性を口説くが、彼女にはすでに婚約者がいた。それもグランニッシュ帝国の貴族だというのだ。しかし兄王は諦められず、権力を使って女性を手に入れようとする。しかし、女性は逃げ出し、グランニッシュ帝国へ帰国すると、その後はウェッジウッド伯爵家に嫁いだ」
え?
「ロギオン国の双子の兄王は、逃げた女性に恋焦がれ、手に入らない事に苦悩し心を病んでいく。そうしてついに、食事も受け付けなくなった王は衰弱し、亡くなったのだそうだ───」
ウェッジウッド伯爵家って、デルベ夫人の生家ですわ……
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