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第二部 第5章
547.こっそりと
しおりを挟む「とはいえ、これはわたくしの推測であり、絶対というわけではありませんわ」
ただ、こう考えると全てが繋がってきますのよ。
「ですから、ここから先、聞く価値があるかどうかは、皆様にお任せします」
有能な為政者である人には、素人の推測など耳汚しになってしまうかもしれませんわね……。
「強奪の能力……。そんなものがあるのなら、アベラルド様が様々な特異魔法を使用できた理由にも納得がいく」
テオ様がわたくしの話に興味を持ってくださったようだ。
「確かに、身体を乗り換える能力だと、身体の主だった者の特異魔法までは使用出来ないかもしれないわ。あれは、身体に宿る能力ではないもの」
「そ、そうなのか? 朕は魔法については詳しくないからわからぬのだが、特異魔法は血筋だから、身体に宿るものだと思っていたのだ。だから身体を乗っ取れば、特異魔法も使えるようになるのだと……」
皇帝陛下の考えは、誰しもが思う事かもしれないが、皇后様の言うように、特異魔法は身体ではなく、魂に宿るものだろう。何故なら、神の祝福で魔法は使用出来るようになる。
そして、ノアやイーニアス殿下が初代ディバイン公爵や初代皇帝の生まれ変わりだったように、輪廻転生の世界でもある。
教会によると、この世界の神は、魂に祝福を与えるそうなので、身体に宿る能力ではなさそうですのよね。
ただ、皇帝陛下の言うように、血筋で能力が引き継がれるのは、魂が以前と近しい血筋の家系に生まれ変わるルールでもあるのかもしれない。
「ネロ、もし身体に宿るのなら、両親の魔法をどちらも使えるようになるじゃないの」
「そうなのか……?」
単純に考えれば、魔法が身体に宿る場合は、皇后様の言うように複数の特異魔法持ちが現れてもおかしくはない。
「皇帝陛下の仰るように、血筋……身体も重要なのだとは思いますわ。通常は、精神と肉体が一致して初めて、祝福という名の魔法が発動するのではないでしょうか」
「なるほど。……う~む、ちょっと朕には難しいのだ」
むむっと真剣に考えているような皇帝陛下だが、理解する事を早々に諦めたらしい。
「まったくもう……。アンタねぇ、話が進まないから黙ってなさいよ」
「!? 酷いのだレーテ! 朕だって何かこう、賢そうなやり取りがしてみたいのだぞ!」
「バカな事言ってないで、ちゃんと話を聞きなさいよ」
仲良し夫婦の皇帝陛下と皇后様を眺めながら、話を進めてもいいかしら? と苦笑いしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ノア、とくいまほうを、うばいとるまほうが、あるらしい……」
扉を少し開け、中を覗くノアとイーニアス。その後ろでは、フェリクスとフローレンスがきょとんとし、カミラがアワアワと子供たちを止めようとしている。マディソンはその様子に溜め息を吐き、見守っていた。
ノアとイーニアスは小声で話をしながら、大人たちの会話を盗み聞きしている最中だった。
「うばい、とりゅ……? アスでんか、しょれ、わたちのこおり、ビューって、だちたら、こおりもって、にげてく?」
「それにちかいが、すこしちがうようだ」
「ちがう?」
「うむ。ノアがつかう、こおりのまほうを、ノアがつかえなくなって、てきが、つかえるようになる、ということだろう」
「てき……」
ノアは誘拐犯や悪魔を思い出し、眉をキリッとさせて「わたちのまほお、とっちゃ、めっ」と言ってから拳を握る。
「うむ。そうならぬよう、ははうえたちが、さくせんをたてているらしい」
「さくせん!」
ノアは良い事を思いついたと、顔を上げこう言ったのだ。
「アスでんか、わたちたちも、さくせんたっち、すりゅの!」
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