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第二部 第5章
549.双子の行方
しおりを挟む双子兄がもし、意中の女性の婚約者の身体を乗っ取ったとして、自分の身体を捨ててまで追いかける異常な執念は、愛する女性と共に年を重ね最期を迎えた時、どうなるのだろうか。
「朕ならば、来世もまた夫婦になりたいと思うのだ」
皇后様を深く愛していらっしゃる皇帝陛下の呟きは、皇后様にも届いたようで、耳が真っ赤に染まっていた。
「だが朕は、誰かの身体を乗っ取るのはごめんなのだ」
己の気持ちを一方的に押し付ける事は愛ではない。相手の幸せを考えられぬのならば、それはただの独占欲なのだと陛下は言った。
「そうですわね。もし双子の兄王が特異魔法を使用して、恋焦がれた女性を追いかけたとしたら、完全なストーカー行為ですわ」
「もし、そのように身勝手な者であったのなら、相手が生まれ変わるまでずーっと待ってそうなのだ……」
想像したのか、お化けでも見たかのように顔色を悪くし、自身の身体を抱きしめて震えている皇帝陛下に、想像力が豊かですわね。などと思いながら頷く。
「皇帝陛下の仰る通りかもしれませんわ」
「ベル、そう言い切る何かがあるのか」
「テオ様、エリス王女からいただいた資料の写しに、双子兄が恋焦がれた女性の嫁ぎ先が書かれておりましたのよ」
テオ様に資料を指差す。
「ウェッジウッド伯爵家。デルベ夫人の生家ですわ」
わたくしの話にテオ様がハッとし、目を見開く。
「もし、ウェッジウッド伯爵家の者の身体を乗っ取り、恋焦がれた女性が亡くなった後も、女性が生まれ変わるのを待っていたとしたら……」
「イザベル様、まさかその生まれ変わりが、あのデルベ夫人だと言いたいの!?」
皇后様は驚愕し、口元を押さえた。
「そうですわ。そして……テオ様、デルベ伯爵はご結婚されてから別人のようになったと仰っていましたわよね」
「……ああ」
家庭を持ったから、雰囲気が変わったのだろうと思っていたそうですが、デルベ伯爵の身体をロギオンの双子兄が乗っ取っているとしたら……
「テオ様を裏切り、前妻様をけしかけた事も繋がりますわ」
あの、ディバイン公爵家の為だったという、納得出来ない言い訳より余程、説得力があるだろう。
「確かに、異常な執着心を持っている女性が、やっと生まれ変わったというのに、テオ様という完璧な男の婚約者候補だったら、取られないように他の女を充てがおうとする行動は、不自然ではないわ」
「うぬぬ……っ、なんという陰湿さ!」
「ネロ、アンタが思っている以上に、デルベ伯爵に乗り移ったやつは陰湿かもしれないわよ」
「どういう事なのだ?」
「テオ様の前妻は、ウェッジウッド伯爵家の私生児の家系だったのよ。ウェッジウッド伯爵家としては、私生児の家系とはいえ、主家に自分たちの血筋の者を嫁がせる事は歓迎するはず。となると、デルベ夫人は表立って反対する事もできないでしょ」
「己の妻にも希望を持たさぬようにしたのか!?」
なんと恐ろしい真似を……っ、と皇后様の話を聞いていた皇帝陛下はブルブル震えていた。
「さらにテオ様への嫌がらせでもあったのよ」
「怖すぎるのだ!」
そして、今は何事も無かったかのように妻を屋敷に閉じ込め、のうのうと暮らしているのだ。
「ねぇ、やっぱりデルベ前伯爵夫婦は、息子の異変に気付いたから殺されたんじゃないかしら」
「皇后様、その可能性は非常に高いですが、今のところはわたくしの推測ですから、何とも言えませんわ……」
ただ、ロギオン国は多くのスパイスが作られており、生薬学(漢方)の進んでいる国でもありますのよ。食べ合わせに関しての研究がなされていてもおかしくはありませんわ。
皇后様もそれを思って、わたくしと同じ考えに至ったのでしょう。
「ならば、現ロギオン国王の身体は、双子弟が乗っ取っている、とベルは考えているのか」
「その通りですわ。現ロギオン国王は双子弟、デルベ伯爵は双子兄だと、わたくしは考えております」
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