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第二部 第5章
553.エンツォの決意 〜 イザベル視点/テオバルド視点 〜
しおりを挟む『テオ、制圧完了したよ!』
夜中の事だ。寝室に突然ポンッと現れ、テオ様に褒めて、褒めて! と興奮気味に報告したのは、正妖精のナサニエル、なーたんだった。テオ様はそれに頷くと聞き捨てならない単語を吐き出したのだ。
「義父上は?」
『もちろん無傷さ! 存分に褒めてよ!』
「⋯⋯よくやった」
『何でそんなに渋々なのさ!? でも、テオに褒められたー!』
そんな会話をして、なーたんはテオ様の周りをくるくると飛んでいる。
「テオ様!? 今のはどういう事ですの!?」
「ベル、目が覚めたのか」
「なーたんの声に驚いて起きましたわ」
『あ、ごめんね。ノアは起きなかった?』
わたくしの隣で眠っているノアを覗き込み、『よかった~。気持ちよさそうに寝てるや』とあぐらをかいたような体勢でふわふわと浮いている。
穏やかな寝顔の息子に安堵し、テオ様となーたんを見る。
「別室でお話しいたしましょう」
◆◆◆
テオバルド視点
「───ロギオン国王はエンプティを四つのグループに分けている。一つは我々、ディバイン公爵家を占拠するグループ、皇后陛下を捕らえるグループ、そしてシモンズ伯爵を捕らえるグループ、自身の護衛という構成だ」
エリス王女の話に義父上は真剣に耳を傾けているが、肩に力が入っているようで緊張を隠せていない。こんな所はさすが親子だ。ベルに似ている。
外見はあまり似ていないと思っていたが、仕草は良く似ているのだな。
「ディバイン公爵を占拠するグループと、皇后陛下を捕らえるグループは私の仲間だが、国王の護衛とシモンズ伯爵を捕らえるグループは顔を合わせた事もない者たちだ。問題なのは、伯爵グループの人数、アジトが我々に知らされていない事、そして我々に付けられた監視者だ」
「つまり、アジトを特定し、そのグループの規模を知る為に私がわざと捕まったらいいんだね」
この作戦は義父上を危険に晒す上、ベルとオリヴァー殿を心配させてしまうだろう。ノアの誘拐事件では、ノアだけでなくベルも心的外傷を負っている。これ以上負担がかかれば、お腹の子にも影響があるだろう⋯⋯。
私は正直迷っていたのだが───
「もちろん協力するよ」
義父上は、躊躇う事なく頷いたのだ。
「私は閣下を信じているし、娘はそんなにヤワではありませんよ」
何も言っていないにも関わらず、義父上は私の考えを読んだように微笑む。
「あの子は妻にそっくりだから」
そう呟き、どこか遠くを見るように窓の外に目を向けた彼は、懐かしそうに目を細めたのだ。
ベルの柔軟性や芯の強さは、義父上に似ているが、義母上も芯の強い方だったのだろう。
「私から提案しながら躊躇うなど、情けない姿を見せてしまいました」
「ハハッ、閣下の珍しい姿を見る事ができるとは、娘に羨ましがられてしまうかもしれませんね」
「ベルには、このように情けない姿は見せられません⋯⋯」
秘密にしてください、と頼めば笑われてしまった。
「シモンズ伯爵、危険な役割をさせてしまう事になり、申し訳ない」
「エリス王女、気になさらないでください。私は私の為にこの役を引き受けたのですから」
「シモンズ伯爵⋯⋯」
「大丈夫ですよ。閣下が必ず、良い方へ導いてくれますから」
義父上の期待に応えられるように、必ず成功させる。
「義父上、安心してください。危険のないようお守りします」
「閣下がそう言ってくださるなら、大丈夫ですね」
頼もしいと笑ってくれる義父上と、表情の読めないエリス王女を前に、私はロギオン国王が用意したそれぞれのグループをどう殲滅していくのか、詳しく説明したのだ。
「すでに四つの内二つはこちら側に寝返りました。残る二つの内、一つは義父上が囮となり、アジトとグループの規模を特定後、影を突入させ速やかに制圧します───」
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