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第二部 第5章
559.憑依の特異魔法
しおりを挟む「ロギオン国王二代目か⋯⋯。確かに同じ血筋なら、憑依の特異魔法を使用できる可能性はある」
テオ様は、わたくしの突拍子もない話を真剣に聞いてくれ、真剣な顔で頷いた。
「はい。しかも突然死で、病死と言われておりますが、初代が孫の身体を乗っ取り、二代目は⋯⋯従者の身体を乗っ取り、初代がそれを重用すれば⋯⋯」
初代は国王のまま、そして息子は従者として───
「しかも、それをずっと繰り返してきていたら」
「エリス王女らと同様のやり方で、子供を洗脳していれば、子供は疑問ももたず初代に従うだろう⋯⋯」
ロギオン国王の性格を考えれば、あり得ない話ではない。
「死亡したエンプティの男が、二代目だとして、今義父上の身体に憑依している者が同一人物だとすると、身体を乗っ取られている者がロギオン国王、デルベ、そして義父上の三人という仮説は成り立つ」
この話は想像でしかないが、その仮説でさらに彼らの能力についても考えてみる。
「憑依の特異魔法ですが、他人の身体を乗っ取る時、相手が死体の場合、すでに身体の機能が停止しておりますわ。それだと憑依した瞬間亡くなってしまうのではないかと思いますの」
テオ様は、ふむ⋯⋯とわたくしの話を聞いて相槌をうつ。
「ベル、君は憑依という大きな力を伴う魔法には、何かしらの制限があると言いたいのだな」
「はい。身体を乗っ取るという行為は、自らの魂を別のものに移動させる、人外の使うような魔法です。そんな強大な力を、普通の人間がぽんぽん使えるとは思えません」
「そうだろうな⋯⋯火や水とは違い、憑依は神の加護というよりは⋯⋯まるで悪魔の力のようだ」
テオ様は少し言い淀んだが、そう言って眉間に皺を寄せる。
「使用条件の一つに、乗っ取る身体の機能が正常に働いている、というのがあるのではないかと考えておりますわ」
テオ様の言うように、大きな力には制限が伴う。
「仮にそうだとして、生きている者の身体にはその魂が宿っているわけだが⋯⋯、憑依した場合、魂は二つあるという事か」
「それは⋯⋯」
その時、部屋扉をノックする音に会話が途切れる。ウォルトの声が聞こえるから、もしかしたら、亡くなったというエンプティの人について、何かわかったのかもしれない。
「入れ」
「失礼いたします。旦那様⋯⋯、奥様もいらっしゃったのですね」
わたくしに気付いたウォルトは、何かを言い淀む。するとテオ様は、「報告を」と話を促したのだ。
わたくしに聞かれても大丈夫だと判断したらしい。
「死亡したエンプティの男の、死因が判明しました」
やっぱり、その事でしたのね。
「死因は⋯⋯服毒死です」
服毒⋯⋯っ
「ならば、その瞬間まで生きていた、という事だな」
「テオ様、それではやはり⋯⋯っ」
「ベルの言うように、生きている状態の者に憑依しているのだろう。しかし、魂が二つ共存しているのか、それとも、死という状態にもっていかなければ憑依できないのかは、まだ判断がつかない⋯⋯」
もし、死の状態でなければ憑依の魔法は使用できない、という条件なら、お父様は⋯⋯
最悪の結末に血の気が引いていく。
「ベル、大丈夫だ。必ず義父上は取り戻してみせる。どんな手を使ってでもな」
「テオ様⋯⋯、おかしな事は考えないでくださいましね?」
悪魔召喚が頭をよぎり、それは絶対ダメだと念を押す。
悪魔は、悲惨な結末しかもたらさないのだから⋯⋯
「わかっている」
わたくしを抱きしめ、頭を撫でてくれる夫に身体を預ける。
⋯⋯大丈夫。テオ様は愚かな選択をする方ではありませんわ。
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