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第二部 第5章
560.ニセモノちがうのよ
しおりを挟む「おとぅさま、わたし、なに、おてちゅだい、したらいいかちら?」
「こうしゃく、わたしも、おてつだい、するのだぞ」
わたくしたちが話している間、気持ちが落ち込んでいるノアを心配したイーニアス殿下が、一緒に遊んでくれると仰ってくれたのでお任せしたのだが、リビングに行くと、すっかり凛々しい顔付きに戻っていたノアと、ノアから話を聞いたらしいイーニアス殿下が、やるぞ! という気合に満ちた表情でテオ様を見上げて言ったのだ。
「⋯⋯やる気があるのはいい事だ」
「しょうよ! おじぃさま、おたすけ、する!」
「うむ! シモンズはくしゃくを、おたすけするのだぞ!」
まぁ、テオ様が二人にタジタジですわ。
「二人とも、エリス王女たちの件では、よく頑張ったと思う。合格だとも言ったが、今回は身体を乗っ取られる危険もある」
「のっと、る⋯⋯?」
「やさしいノアが、こわいノアになる、ということだな」
「わたち、こわい、なる!?」
イーニアス殿下の子供にもわかりやすい言い回しに、ノアが真っ青になる。
「そうだ。もしお前たちの身体が乗っ取られでもしたら、この国は悪い方向へと進むだろう」
「ちちうえも、ははうえも、こくみんも、みなが、ないてしまうのだな」
「おかぁさま、かなちぃ」
イーニアス殿下はテオ様の目を見ながら、ノアはわたくしを見て、それは嫌だと首を横に振った。
「しかしわたしは、しんかを、みすてることはできぬ」
「殿下⋯⋯」
「わたしは、グランニッシュていこく、だいにおうじだ。だから、こうぞくとして、せきにんを、はたさねばならない。それに、シモンズはくしゃくは、とてもやさしいひとで、だいすきだから」
まだ五歳だというのに、イーニアス殿下には皇族としての自覚がありますのね。皇后様は、素晴らしい教育をされているみたいですわ。しかも、お父様を慕ってくださっているのね。
「イーニアス殿下、その思いは素晴らしいものですが、あなたを危険に晒す事はできません。皇族だからこそ、臣下である我々を信じ、お任せください」
しかしテオ様は譲らない。臣下として、国防に携わる者として、皇族は命を賭しても守らなければならないからだ。
「信じて待つこともまた、皇族としての務めではないでしょうか」
「しかし⋯⋯」
「イーニアス殿下、此度はどうか、引いてくださいますよう」
「こうしゃく⋯⋯」
テオ様とイーニアス殿下のやり取りに、ノアは思うところがあるのか、口出しすることなくその姿を、じっと見つめていた。
ノア⋯⋯、きっと色んな事があり過ぎて、心が急激に成長してしまっているのね。だけど、あまり急いで大人にならなくてもいいのよ⋯⋯。
わたくしは、この短期間で色んな事件に巻き込まれたノアが、とても心配になったのだ。
「もし、それでも協力したいということならば、イーニアス殿下とノアは、義父上が偽物だと、我々が気付いていると思わせないよう行動してもらいたいのです」
「!? わかった! わたしたちは、シモンズはくしゃくが、ニセモノだと、きづいていない!」
「はい! わたし、おじぃさま、ちがう、しらないの!」
テオ様ったら、いつの間にか子供たちの扱いが上手くなっておりますわ。
にしても、子供たちと偽のお父様との接触は極力避けた方がいいですわね。危険ですし⋯⋯何より、素直な子供たちには嘘がつけないですもの。
「ノア、がんばろう! はくしゃくは、ニセモノではない」
「はいっ、わたし、しらない! おじぃさま、ニセモノ、ちがうのよ」
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