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第二部 第5章
562.緊急招集
しおりを挟む正妖精のナサニエルの話に、初耳だと愕然とする。なーたんは『これ、言っちゃダメだった!』と慌てて話を逸らそうとしているが、わたくしの頭の中はハテナでいっぱいだ。
お父様が闇に愛されているって、どういう事ですの?
『とにかく、エンツォの魂は誰にも傷つける事はできないよ』
それだけ強力な闇で守られているというのだ。
「⋯⋯義父上の魂を、何者も傷つける事ができないのなら、憑依した者を身体から追い出せば、無事に救えるというのだな」
『追い出せれば、元に戻るんじゃないかな』
その話に、わたくしは希望が出てきたと目を輝かせたのだが⋯⋯
「⋯⋯デルベは⋯⋯」
テオ様のポツリと零した一言が耳に届いた時、わたくしは言葉が見つからず、ただ俯くばかりだった。
そうですわ。わたくし、お父様の事ばかり言っておりましたけれど、もしかしたら、テオ様がお兄様のように慕っていたデルベ伯爵も⋯⋯
『デルベ伯爵の魂は一つしかみえなかったんだけど⋯⋯』
「そうか⋯⋯」
テオ様は無表情だけれど、感情が無いわけではない。きっと心の奥底では泣いているのだわ。
寄り添うしかできないわたくしは、なんて無力なのかしら。
『あ、でも⋯⋯』
「なーたん?」
何か思い出したようにあ、と声を出す正妖精に何事かと問いかければ、
『魂が眠っていたら、憑依したヤツの魂が派手すぎて、存在感が薄くなると思うんだよね』
「え? ですがお父様の中の魂は二つ見えましたのよね?」
『正確には、闇に包まれているエンツォの魂と、憑依したヤツの魂が見えたのさ』
「では、もしかしたら⋯⋯」
テオ様の顔を見れば、ノアと同じアイスブルーの瞳に光が灯っていた。
『眠りについてるなら、僕が見落としたかもしれない』
「そうか⋯⋯」
先程と同じ相槌なのに、今の声には、もしかしたら、という希望がこもっていた。
「それならロギオン国王も、エリス王女殿下が仰っていた、心根の優しい方に戻るかもしれませんわ」
「その為には、身体から追い出す方法を考えなければならない」
「そうですわね」
と、結局憑依の特異魔法の詳細を知らなければどうしようもないのだ。堂々巡りに溜め息が漏れる。
『ねぇ、ねぇ、憑依の特異魔法って、アカとアオがテディに入って動かすのと、どう違うんだろうね?』
胡座をかいてふわり、ふわりと宙を漂う正妖精が、突然そんな事を言いだした。
「アカとアオは無機物に憑依できますわよね? 魂がある器と無い器では、全く違うのではなくて?」
と適当な事を言ってみたものの、憑依した事がないからわかりませんわ。
「妖精は、魂がある器⋯⋯人間にも憑依できますの?」
『えー、やった事ないからわからないよ。というか、人間に取り憑く妖精って、それもう幽霊じゃない? そんな怖い妖精いないよ』
「た、確かにそうですわね⋯⋯ホホホ⋯⋯」
ん⋯⋯? 幽霊⋯⋯、幽霊って、除霊できますわよね? 前世でも除霊できる占い師や、エクソシスト、イタコなどがTVに取り上げられておりましたわ。それなら、魔法や妖精、神が存在するこの世界なら⋯⋯っ
「テオ様、光魔法で、除霊⋯⋯魂を分離させる事って、できませんの?」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ほっ? 除霊ですか⋯⋯」
除霊といえば教会。そして現在教会のトップなのは、そう。クレオ枢機卿だ。
こういう時は専門家に話を聞くのが一番だ、とノアからももんちゅたちにお願いして連れてきてもらったのだ。緊急招集である。
「ぅえお、ぺぇちゃ、おやっちゅ」
「ほほっ、フェリクスは食欲旺盛ですなぁ」
「ぁーい」
枢機卿本人は嬉しそうにぺーちゃんを抱っこして、おやつを食べさせているので、緊急招集もティーブレイクになっているのかもしれない。
「そういえば、昔見た記憶が⋯⋯」
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