継母の心得

トール

文字の大きさ
355 / 369
第二部 第5章

568.浄化のイメージ

しおりを挟む


ノアたちに、お父様の部屋の前で一芝居打ってもらった後、リビングに集まっていると、そこへテオ様がやって来て、わたくしに箱を差し出した。

「ベル、空の魔石を用意したが、一体何をする気だ」
「テオ様、ありがとう存じますわ」

そう、テオ様からいただいた箱の中に入っているのは、魔法が込もっていない空の魔石だ。
公爵家にあるものをかき集めてもらった。
空とはいえ魔石は魔石。高価なそれがぱんぱんに詰まった箱は重い。

こんなにたくさんありましたのね⋯⋯。さすが帝国一のお金持ちですわ。

「治癒魔法や浄化魔法は、聖女様しか使えませんでしょう?」
「そうだが⋯⋯、まさかフローレンスに治癒と浄化の魔法を込めさせる気か?」
「そのまさかです。フロちゃんを恐ろしい悪霊に対峙させる事はしたくありませんから、あらかじめ魔石に魔法を込めてもらおうと思いますの」

テオ様は幼いフロちゃんの魔法を信用していないようで、微妙な顔をしている。

「テオ様、躊躇う気持ちはわかりますわ。わたくしだって幼い子供の力を頼る事はしたくありません」

だけど、一番安全で、一番確実な方法が聖女の力なのだ。
フロちゃんはまだ、祝福の儀を受けておりませんが、ノアと同様すでに神々から祝福されている。だからこそ治癒魔法を使用しているのだ。イメージさえ教えれば、浄化魔法もすぐに使えるようになると考えた。

「もちろんフロちゃんの力を借りずに、何とかする方法も考えておりますが、何かあった時の為に何手も作戦を立てておかなければなりませんでしょう」

お父様の身体から追い出す事が出来れば、他の身体を乗っ取られない限り消滅するのでは、と考察してはいるのだけれど、それだと二代目は、生まれ変わる事もできなくなりそうなのよね⋯⋯

「だが、フローレンスに浄化魔法が使えるのか?」
「それですが、テオ様は魔法をどうやって使っておりますか」
「どうやって⋯⋯? 改めて聞かれると困るが⋯⋯」

そうですわよね。テオ様ほどの天才なら、無意識に魔法を構築されているのかもしれませんわね。

「わたくしが生活魔法を使用する時は、魔力を全身に巡らせて、手のひらに集め、どういった魔法を使うのかをイメージするのですわ」
「ああ、そういう事か」
「フロちゃんは今、傷を治したいと思って魔法を使っているのでしょう。だから、浄化のイメージを教えてあげれば、浄化魔法を使用できるようになると思いますの」
「ベル、簡単に言うが、幼子に浄化のイメージを伝えるといっても、見た事がないものをイメージしようがないだろう」

テオ様は、クレオ枢機卿から浄化魔法を使用する聖女の話を聞いたせいか、イメージが凝り固まっていますのね。

「テオ様、浄化のイメージは案外簡単ですのよ───」


◇◇◇


「フローレンスが、じょうかまほうを、つかうらしい」
「フロちゃん、ピカッしかできないの。だいじょぶかしら?」

わたくしがフロちゃんに、浄化魔法のイメージを伝えようとしていれば、後ろでイーニアス殿下とノアが心配そうに覗いてくるではないか。邪魔をしないように少し離れている所に、二人の優しさを感じる。

「フロちゃん、この石を持って、石に向かってピカッをしてもらえるかしら?」
「あーい! ふりょ、ピカッ、しゅりゅ」

片手を上げて元気よくお返事をしたフロちゃんは、魔石を掴むと「ピカッ」と可愛い声を出しながら治癒魔法を使用したのだ。

「ませきのいろが、かわった」
「さっきと、おいろちがうの」

空の魔石は灰色で、普通の石とあまり見分けがつかないが、今フロちゃんの手の中にあるものは、白く輝いている。それはすなわち、魔法を込める事に成功したという事だ。

「フロちゃん、とっても上手に出来ましたわね」
「あーい! よーてーたん、ふりょ、しゅっごーい!」
「ええ。フロちゃんはすごいですわ!」

もうっ、可愛いですわ。

「ではフロちゃん、今度はこちらの石に、お掃除した後のように、ピッカピカになぁれって思いながら、ピカッしてみましょうか」
「あーい」

わたくしが教える浄化のイメージは、お掃除ですわ!


しおりを挟む
感想 11,966

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。