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第二部 第5章
570.欲しいのは 〜 ロギオン王国 二代目国王視点 〜
しおりを挟むロギオン王国 二代目国王視点
「───ぅ⋯⋯オギャー、オギャー!」
「国王様、王子殿下がお産まれになりました」
「どうでもいい事を、いちいち報告してくるな」
ぼくが産まれた事は、父にとっては大したことではなく、それどころか、どうでもいい、取るに足らないものだった。
報告に行った産婆は、関心のない話をして、国王の業務を妨げた罪で斬って捨てられた。
産まれた時から影の養成所に放り込まれたぼくは、『父親』というものを知らなかった。
地獄を地獄として認識もできず、この痛くて苦しくて、辛い日々が普通だと思っていた。
「主の言う事を聞き、主の手足となり、常に主の為に在る。そして主の為に死ぬ。それが我々奴隷の存在意義だ」
主とは、どうやらぼくの⋯⋯いや、ぼくらの『父親』らしい。『父親』が何かはわからないが、ぼくらはその『父親』の為に生きて死ななくてはならないのだそうだ。
「『父親』は、良い子にすると、頭を撫でてくれる人だ」
物心がついてから、養成所に連れて来られたやつが、そんな事を言っていた。
だったらぼくも、良い子にすれば頭を撫でてもらえるんだろうか? 頭を撫でられるって、どんな感じなんだろう───
「あるじさまのまえで、おなかをならしたアイツが、ころされたって⋯⋯」
いつも一緒に訓練していた一人が見当たらなかったから、どうしたんだろうって思っていたら、誰かがそんな話をしていた。
お腹⋯⋯そういえば、ここ二日、雨が降ってなかったから、水が飲めていなかったっけ⋯⋯
「はやく雨が降らないかな⋯⋯」
そうやって毎日を過ごしていると、一人、また一人、いなくなっていく。そうして残ったのは、ぼく一人だけ。
「国王がお呼びです」
ある日、ぼくは主様に呼ばれた。お腹が鳴ったら殺されるから、水溜りの水をたくさん飲んでおいた。昨日雨が降って良かった。
⋯⋯あれ? どうしてぼくは、殺されたくないって思ったんだろう?
「───お前は侯爵家の娘と婚姻を結び、子供をもうけろ。健康な男児がいい」
ぼくはその日から、綺麗な水が飲めるようになって、美味しいご飯も貰えるようになった。
主様の言う通りにすれば、痛い事も苦しい事も、お腹が空き過ぎる事もなくなる。だから、侯爵家の娘と結婚したし、子供も作った。だけど───
「愚か者めっ、女児ではないか!」
主様の命令通りにできなかったから、たくさん殴られ、蹴られた。
痛いのは、嫌だ。良い子でいるから、だから、許してください⋯⋯っ
「次はない」
でも、妻を隠さなくちゃいけないって思った。だって、初めての子供は、主様に殺された。妻は、ずっと泣いていた。
「殿下、王子妃様が、お亡くなりになりました」
妻が⋯⋯隠す前に、いなくなった。
『子供の所にいきます』って、手紙だけを遺して。
ぼくが一人になるのは、普通の事だった。今までもずっとそうだった。なのにどうしてか、目から水が止まらなかった。塩っぱい水だった。
主様の言いつけを守る為に、今度は別の女性と結婚した。
「やっと器を作ったか。愚図め」
ぼくの息子は、主様の器なのだそうだ。
息子がある程度成長した頃、主様が死んだ。その日からぼくは王様で、ぼくの息子は、主様になった。
「お前はその身体を捨て、新たな身体に移れ。そうだな⋯⋯俺の補佐の身体が丁度いいだろう」
主様の命令は絶対だ。だけど、何だか胸がモヤモヤする。
何度も何度もそんな事を繰り返した。
最初は、良い子でいたら頭を撫でてもらえるんじゃないかって。でもすぐに、痛いのは嫌だから、主様を怒らせないようにしないといけない、に変わった。
こんな日々に、終わりは来るのだろうか。
「ノア、なんて可愛いの! いい子、いい子ね。わたくしの愛おしい子」
欲しいのは───
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