継母の心得

第二部 第5章

574.フェリクスの夢

【───フハハッ⋯⋯お前の身体を乗っ取ってやるぞ～!!】
【にゃ!? ちょっ、にゃ、ぅっちょ、ちゃーっ、ちぇ、にゃぃ!(な!? そんなことは、させない!)】

フェリクスは夢の中で悪霊と対峙していた。しかし、いつもは恐怖が勝つフェリクスは、今はちっとも怖くない。気分はイザベルの絵本で見たヒーローだ。

【ハハハッ、お前のような赤子に、何が出来るというのだ】
【にゃ⋯⋯】

とはいえ、身体は赤ちゃん、頭脳は大人。何も出来ぬ身の上に、落胆してしまうフェリクス。

何故私は赤子なのか!

悔しい気持ちで涙目になるが、悪霊はどんどん近づいて来るのだ。

【フフフ⋯⋯お前の人生は、俺のものだ!!】

すぐ目の前まで悪霊がやって来たその時、

【───しょんなこと、させないのよ!】
【にょあ!】

颯爽と現れたのは、フェリクスのヒーロー、ノアだった。

【ぺーちゃん、わたし、きたから、もうだいじょぶよ!】
【にょあ～!】

しかし、悪霊はニタリと笑ったのだ。

【ククク⋯⋯俺の本当の狙いは、お前だノア!!】


◆◆◆


「っにゃ、にょ!?」
「ぺーちゃん!?」

早朝、怖い夢でも見たのか、突然叫び声を上げて目を開けたぺーちゃんに、わたくしも飛び起きましたのよ。
本人も何が起きたのかわかっていない様子で、わたくしがベビーベッドに駆け寄ると、涙がだんだんおめめに溜まって⋯⋯

「ふにゃ⋯⋯ふぇ⋯⋯っ、ふぇ～!」
「あらあら、よほど恐ろしい夢を見ましたのね」

抱き上げて背中をぽんぽんしながら、よしよしと身体を揺らす。

「かぁちゃ⋯⋯」
「大丈夫ですわよ。ここに居ますわ」
「ぁい⋯⋯」

徐々に落ち着きを取り戻してきたのか、涙も止まり、自分の親指をちゅっちゅと吸い始めたので安堵する。

眠ったのが深夜過ぎだったから、目がシパシパしますわ⋯⋯

「! かぁちゃ、じっ、ちゃ⋯⋯!」
「? じっちゃ⋯⋯あっ、もしかして、おじい様が大丈夫なのか、気になっておりますの?」
「にゃ!」
「まぁっ、優しい子。ぺーちゃんはいい子ね」
「ぁーい」

可愛いお返事をするぺーちゃんに頬ずりし、にゃんにゃん言っている可愛い赤ちゃんを抱き直しながら、「おじい様の身体は無事、取り戻しましたのよ」と教えてあげる。

「ちょ～!? ちゅ、おーぃ!」

驚いて目を丸くした後、手をたたくぺーちゃんは愛くるしい。

「ノアが起きたら、一緒に会いに行きましょうね」
「ぁーい!」

ノアは昨夜から、イーニアス殿下と一緒に眠っておりますの。色々あったけれど、イーニアス殿下のお泊まりに、ノアも嬉しさが隠せないみたい。

「かぁちゃ、にゃじぇ、にゃ～じぇ」
「ふふっ、ぺーちゃん、頭をなでなでしてもらいたいのね」　
「にゃ」

照れたようにふにゃっと笑うぺーちゃんの可愛い事。もちろん、赤ちゃんならではの柔らかでふわふわの髪の毛を堪能しつつ、なでなでさせてもらいましたわ。

クレオ枢機卿は帝都の教会にお戻りになったから、ぺーちゃんは寂しいのだろう。いつもよりわたくしに甘えているような気がする。

「ぺーちゃん、まだ起きるには早いから、もう少しお母様と
ゆっくりしましょう」
「にゃ!」

マディソンたちも休ませてあげたいですし、静かにベッドへ座って、ぺーちゃんの背中を優しくぽんぽんしていたら、ぺーちゃんはまた眠ってしまいましたのよ。

「お父様の件は何とかなりましたけれど、問題はロギオン国王ですのよね⋯⋯」

ロギオン国王はぺーちゃんとノアを誘拐するよう指示した張本人だと、エリス王女が教えてくれた。ぺーちゃんに至っては、能力も知っているようだし、顔を見たいと皇宮にまで呼び出している。

「もしかして、ロギオン国王の次の器として、ぺーちゃんが狙われておりますの⋯⋯?」