継母の心得

トール

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第二部 第5章

575.各々の過ごし方

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「───足元に気を付けろよぉ!」
「ゆっくり運べ!」
「そっちに頼む!」

岩や土を運ぶ荷馬車が行き交い、男たちの大きな声があちこちで上がる。見たこともないような珍しい道具があちこちで稼働し、現場の作業を手助けしている。
ここ、ディバイン公爵領都の公園開発地では、今日も賑やかに公園の工事が続けられていた。

「おーい、新人さんよぉ、こっちに運んでくれや!」
「うす⋯⋯」
「新人さん、こっちも頼まぁ!」
「うす⋯⋯」

そんな急ピッチで進められる工事の中、頼りになる男の姿があった。それは、

「ドルンさん、あんたすげぇな!」
「ドルンさんが来てから、一気にペースが上がったぜ!」
「うす⋯⋯」

ロギオン国の影の一人で、エリス王女と共にイザベルたちの側についた、土の特異魔法の使い手である大男、ドルンだ。
彼はエリス王女が皇城に行っている間、ディバイン公爵領で留守番をしていたのだが、屋敷でじっとしているのは性に合わないと、現在大規模工事をしている公園に、自ら進んで手伝う事を決めて参加している。
ちなみにうっかり娘こと、カルカは子供たちと遊んだり、公爵家の裏庭にあるアスレチックに挑戦したりと、楽しく過ごしている。各々好きに過ごしているが、真面目なドルンは働く事を選んだ。

「さすが公爵様直々の推薦者だけあらぁな!」
「まさかこんなすげぇ魔法が使えるとは、羨ましいぜ!」

ドルンの土属性の魔法は、大工や土木作業をする者にとっては、喉から手が出るほど欲しい能力だろう。
彼がやって来てから、恐ろしいほどのスピードで公園が出来上がっていた。とはいえ、なにぶん広大な公園だ。工事の4割が出来たという所なのだが、この分ならあっという間に完成に漕ぎ着けるだろう。

「特異魔法ってなぁ、お貴族様しか使えねぇんだったか?」
「なら、ドルンさんはお貴族様かぁ」
「そりゃあ、ドルン様って呼ぶべきだなぁ」

現場の作業員たちは、貴族だろうと庶民だろうと、フレンドリーさを崩す気は無さそうだ。

「貴族⋯⋯違う⋯⋯」
「ん? お貴族様じゃねぇのか」
「んじゃ、ドルンさんでいいかね」
「ドルン⋯⋯で、いい⋯⋯」
「なら俺の事ぁジョーって呼んでくれや」
「オレぁサイって呼び捨ててくれ!」

フレンドリーすぎる彼らに、今まで物のように扱われ、いつ死んでもおかしくなかった奴隷のドルンは、戸惑いを隠せなかったが、何だか悪い気はしない、と思うのだった。

「うす⋯⋯」

胸の辺りが、少しだけ温かくなった気がしたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「テオ様、ドルンさんが公園の工事を手伝ってくれているとは、本当ですの?」

父エンツォを取り戻したわたくしは今、テオ様の心配性が悪化し、妊娠中だからという理由でベッドから出してもらえないでいた。

お父様は何事もなかったかのように、というか気絶後の事は覚えていなかったから、わたくしたちや子供たちの反応に首を傾げておりましたわ。
今は子供たちと庭で楽しそうに遊んでおりますけれど、わたくしもあの輪に入りたいですわ⋯⋯。

雪遊びをしているのだろう。楽しそうな声が微かに聞こえる。

わたくしの手の中にはチロがいて眠っているのだけれど、お父様が目覚めた後からずっと目を覚まさないのだ。
正妖精のなーたんが言うには、お父様の魂を守っていたから、力を使いすぎただけ。数日寝たら元気になるよ。との事だったが、⋯⋯子供たちの声を聞いて目を覚まさないかしら、とチロの頭を撫でる。

「ああ。土属性の特異魔法を使用してもらい、崩落事故の遅れを取り戻すスピードで工事が進んでいる」
「まぁっ、ですがドルンさんの負担になっていないかしら⋯⋯」
「本人の希望だから大丈夫だろう。もちろん労働の対価として、賃金を渡している。それに、労働時間や休みもベルのいうように遵守させている」

エリス王女からお預かりしている、他国の大切なお客様を、公園の工事に参加させるって、良いのかしら⋯⋯?

「王女からも、個人の意見を尊重してもらえないか、と頼まれているからな。心配しなくていい」
「そうですのね。⋯⋯テオ様、エリス王女とルネさんは大丈夫ですの?」

ロギオン国王が滞在中の皇城に居るのだ。大丈夫だろうか、とアカとアオから状況を聞いているであろう、テオ様を見たのだ。

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