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第二部 第5章
576.本来の目的
しおりを挟むエリス王女視点
「エリス王女、大丈夫ですか? 顔色が悪いですが⋯⋯」
「大丈夫だ⋯⋯」
兄の姿を見た瞬間、反射的に身体が強張った。兄のいる所から離れた今も、こんなにも震えが止まらない。暴力で支配されていた人生だ。頭では大丈夫だと思い込もうとしても、恐怖が根付いている。
いつもは仲間がそばにいるから、何とか耐えられていたのだろうか。
「王女は少し休んでいてください。ロギオン国王も怪しんではいないようですし、私はこのまま、奴の周辺を探ってきます」
「⋯⋯ルネ、無茶はするなよ。兄は⋯⋯いや、兄の中の者は、何百年と生きている。その経験は、私たちが逆立ちしても得られないものだ。あの様子が計算でないとは言い切れない」
「承知いたしました」
マルグレーテ皇后の密偵であるルネは、優秀な事はわかるが、経験値に差がありすぎる。深入りすれば何が起きるかわからない。
私の言葉に頷き、まるで消えるように移動した彼女を見て、マルグレーテ皇后の人望に関心する。
「皇后陛下の周りには、優秀な人間が集まるようだ」
あの氷の大公、ディバイン公爵までもが従っている女傑⋯⋯何より、その女傑に最も寵愛されているディバイン公爵夫人。この先、彼女の考え出すものは世界をひっくり返すだろう。
「女性と男性の垣根なく活躍できる時代か⋯⋯」
ロギオンでは考えられない変革に、正直羨ましくもある。
「我が国の意識も、変えることができるだろうか───」
ーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
「エリス王女は、ロギオン国王に暴力を振るわれてはいないかしら⋯⋯。以前大怪我を負わされておりましたし、心配ですわ」
「王女には妖精や影も付いている。ベルは心優しいから、心配になるのはわかるが、そう皆の心配をしていては君の身が持たない」
「テオ様⋯⋯」
そうですわよね⋯⋯。心配するよりも信じて情報を待つ方が、エリス王女もルネさんも喜んでくれますわ。わたくしも同じ立場なら、心配かけるより、信頼されている方がいいですもの。
「ロギオン国王の性格上、女性の身体に憑依する事はなさそうなので、そこは安心ですけれど、そろそろわたくしたちが王都にいない事がバレそうではありませんか?」
ロギオン国王の元に王女たちが行って一週間以上経っている。ロギオン国王の隠し玉であった二代目がディバイン公爵領都までやってきて、戻って来ないとなると、怪しまれていそうだ。
「ロギオン国王は、二代目が帰ってこない事にも気付いていない。それどころか、我が物顔で皇城を闊歩しているようだ」
まぁっ、なんて人ですの!
「だが、そろそろ部下を呼び戻すだろう」
「では、それまでに除霊しないといけませんのね」
「ああ⋯⋯、だがベル。私はロギオン国王がこのままあっさり引き下がるとは思えない」
テオ様の言葉に、子供たちの顔が過る。
「仮にも数百年生きてきた男だ。私は部下の裏切りにも気付かない愚かな者が、数百年も王として君臨できるとは思えない」
テオ様の言う通りだ。愚か者の王であれば、ロギオン国内ですでに大規模な謀反が起きているはず。民の気持ちを重んじない、絶対王政を強いる国はほとんどが革命で滅びている。
「もし、君や義父上、そして皇后を狙った事がカモフラージュだとしたら⋯⋯」
今までの事が全て、カモフラージュ⋯⋯?
「この時期に他国の王たちがグランニッシュにやって来たのは、会議の為だけではない」
「そういえば、各国の王は長期滞在されておりますわね⋯⋯」
「ベル、王たちの本来の目的は───」
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