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第二部 第5章
578.アイスの数と呪い
しおりを挟む「チロ、まだおっき、してないの⋯⋯」
「うむ。まだねむっている⋯⋯」
お人形のベッドは、小さなチロには丁度いい。そこに小さな布団を作って寝かせているのだけれど、周りにノアとイーニアス殿下が集まってきて、心配そうに覗き込んでいる。
実は、チロがずっと眠ったままだという事を子供たちには伏せていたのだけれど、とうとうバレてしまったのだ。
『病気でも怪我でもないから、心配ないさ。チロはちょっと力を使いすぎちゃっただけで、ゆっくり眠っているだけだよ』
「ナサニエル、ほんとうに、チロはだいじょうぶなのだろうか?」
『アス、すごいや! ボクの名前、ちゃんと呼んでくれるのは、アスとドニーズだけだよ』
まぁ、ドニーズにはボクは見えないんだけどね~と、子供たちの周りでふわりふわりと浮きながら、上機嫌に笑う正妖精のなーたん。
よほどナサニエルと呼んでもらえた事が嬉しいのね。皆なーたんって呼んでますものね。
『ほら、アスも初めて魔法を放った時、すぐ眠っちゃった事があるよね』
「うむ。あのときのことは、あまりおぼえていないが、めがさめたら、はしりまわれるほど、げんきいっぱいだった」
殿下の5歳のお祝いの時ですわね。あの時は本当に焦りましたのよね⋯⋯まさかノアが、魔力コントロールの方法を殿下に教えているとは思わなかったですもの。
『チロもね、ちょっと頑張って、エンツォを守る魔法を使ったから、あの時のアスと同じように眠ってるのさ』
チロ⋯⋯、こんなに小さな身体で、お父様を必死に守ってくれていたのね⋯⋯。
チロの寝顔を眺めながら、なーたんから聞いた話を改めて噛み締める。
「では、めざめたら、げんきになるのだな」
「チロ、げんき、なるのね?」
『そうさ! だから今はたくさん眠らせてあげてよ』
「はい!」
「わかった」
チロが元気になると知って、子供たちがやっと笑顔になってくれましたわ。
チロが目覚めない事がバレてしまった時は、どうしようかと狼狽えてしまいましたが、なーたんが説明してくれて良かった⋯⋯。
『そういえばさ、何で浄化した時、あんなにたくさんの魂がいたんだろうね?』
なーたんの突然の質問に、わたくしはあの星の煌めきのような、魂の昇天する様子を思い出していた。
「それは、今まで憑依されていた方の魂が恨みで成仏できずに、留まっていたらではありませんの?」
『う~ん⋯⋯、余程の未練がなければ、亡くなった時点で魂は還っていくんだけど⋯⋯』
「では、余程の未練があの方たちにはあったのではなくて?」
自分の人生を突然奪われたのですもの。やっぱり未練はありますわよね。
『ベル、相当強い未練っていうのは、一種の呪いのようなものに変化して、鎖となって魂をこの世に留めるんだ。そしてゴーストやアンデット化してまう』
未練は、自分自身に呪いをかけるようなものですのね。
『だから普通はね、相当強い、マイナスの思いがないとそんな風にはならないんだけど、あんなにたくさんの魂が、ずっと留まっていたなんて⋯⋯』
なーたんは顎にてを当て、う~ん⋯⋯と、ぷかぷか浮きながら唸っていた。どうも納得いかないようだ。
「相当強い未練って、どのくらい強いものですの?」
『う~ん⋯⋯、すっごーく強い!』
ふわっとしすぎの表現ですわね!
「いえ、だからどのくらいか⋯⋯、たとえば、あんな事になるなら、あれをしておけば良かった! という未練と、呪いにまでなる未練は、アイスの個数で考えると、どの程度差がありますかしら?」
『あれをしておけば良かった! っていう未練がアイス3個だとしたら、呪いにまでなる未練は、その50倍の150個さ』
自分でたとえておいてなんですけど、更に分かりにくくなりましたわ。
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