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その他
番外編 〜 使用人昇級試験 〜
しおりを挟むディバイン公爵家に最近導入された、使用人昇級試験。
それは私たち平民から起用されたものにとって、大きなチャンスである。
何しろ平民は昇級などもなく、下級使用人として雇われた者はずっとその地位というのはどこの貴族家でも変わらない事実だからだ。
それが、ディバイン公爵家は実力主義で、平民の下級使用人であろうと、昇級試験で合格さえできれば、昇級していくし、比例して給与も上がる。責任ある仕事も任せられ、やる気のある者はキッチンの女中頭にもなれるチャンスがある。
女中頭は下級使用人の中でもトップの地位で、もし、そこで昇級試験を受けたら……上級使用人に召し上げられる可能性もあるのだ。
ただし、試験はかなり困難で、今まで一発合格したものは無いに等しい。が、昇級試験は年に二度もある。
私は二度目のこの試験に全てを注ぐつもりで試験対策をしてきたつもりでいる。
絶対、今回の試験でキッチンメイドになって、女中頭になった後、上級使用人として奥様付きのメイドになるのだ!!
「───それでは、筆記試験を開始します。机の上にはインクとペン以外は置かないようお願いします」
インクとペンなど平民の私からすれば高級品すぎてほぼ触る事もできないけれど、一回目の試験で感覚は掴んだから大丈夫。私なら出来る!
「今から問題用紙と答案用紙を配っていきます」
ランド・スチュワート(執事長)であるウォルト様の掛け声で、植物紙が配られる。
多分前回と同じ、一問目は使用人の役職名と仕事内容を書いていくはず。それは大丈夫。
二問目にきそうなのは、マナー問題、もしくは貴族位に関する問題だろう。手紙の代筆問題が出る可能性も……はぁ、緊張する。
周りは私の同僚たち。後輩に新人までいる。皆がライバルだ。負けるわけにはいかない。
「では、始め!」
掛け声と同時に問題用紙を読み込む。
よし! 一問目は予想通り!
インクの付けすぎに注意し、落ち着いて答えを書いていく。
「───やめ!」
よし! 解答欄は全て埋めた。手応えはある!
筆記試験の結果はその日の夕方に発表される。
私の合否はというと、“合格”だ!!
こうして、無事筆記試験に合格した私は、翌日二次試験に臨む事となる。
二次試験は護身術だ。週に一度護身術を教えていただけるので、真面目にやっていれば大丈夫だろう。
それに私は、筆記より身体を動かす方が得意だ。というか、成人する前は男の子とよく喧嘩をしてボコボコにしていたほど、腕に覚えはある。
ストレス発散にやってやるぞぉ!
と思っていたのがいけなかったのか……。
「あなたは本日付けで、ノア様の護衛兼任メイドになっていただきます」
キッチンメイドを飛び越えて、天使と言われる坊ちゃまの護衛メイドに就任してしまったのだ。
「本日からあなたは上級メイドです。皆の手本になるよう、精進しなさい」
ランド・スチュワートのウォルト様からそのようなお言葉を直々にいただき、夢でも見ているようだ。
「ほ、本当に、平民の私が坊ちゃまの護衛メイドでよろしいのでしょうか!?」
「筆記試験も全て正解していましたし、何より騎士たちにも負けない体術には目を見張るものがありました。ノア様はまだ幼いですので、騎士が周りを固めてしまうと威圧感があり、怖がってしまうかもしれません。護衛も出来るメイドというのはとても貴重なのです」
どうやら夢ではないらしい。下町の男共をシメて……ゲフンッ、注意してきた人生は無駄ではなかったのだ!
「ノア様に付き、衣装選びやお世話の技術を侍女や他のメイドから学べば、いずれ奥様や、これこらお産まれになるかもしれないお子様の侍女へ昇進もありえるかもしれませんので、頑張ってください」
侍女!? 侍女は貴族出身しかなれないはずなのに!?
「は、はい! 精進いたします!!」
ディバイン公爵家に就職出来て本当に良かった!
これから、全身全霊をかけて、天使をお守りしますのでお任せください!!
その後、坊ちゃまに妖精が見えるようになり、やはり本物の天使なのだと納得してより一層体術の腕を磨いていたら、いつの間にかディバイン公爵家の影と呼ばれるようになっていたのだが、後悔はない。
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