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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜
番外編 〜 メイドから見た公子様 〜 ノア4歳
しおりを挟むノアのお世話係のメイド視点
私は平民だけど、裕福な商家の娘だったから、こうしてディバイン公爵家のメイドとして推薦してもらえ、働く事が出来ている。
つい最近まで、ご主人様であるご当主様も冷酷で恐ろしく、絶対に近付いたり声をかけたり、目に入る位置にいたりしてもダメで、すごく気をつかう緊張感のある職場だった。
洗濯場の仕事は冬は赤切れだらけになるし、夏だって常にふやけて、手は荒れ放題。出世なんて出来ないし、このままずっと洗濯場担当なのかなって、本当に毎日が憂鬱で、もう辞めようかと何度も思っていたほどだ。
そんな日常が変わったのは、奥様がいらしてからだった。
奥様が嫁いでこられて、暫くした頃、子育ての経験があるメイドが集められた。
私は弟妹がたくさんいて、世話をしていたからという事でその中に選ばれた。
そして、公子様付きの侍女であるカミラ様の補佐をするよう命じられたのだ。
それからは他のメイド三人と交代で公子様のお世話をさせていただいた。
そんな私が見た、天使のように可愛らしい公子様の一日を、今日は話そうと思う。
朝、公子様は奥様と旦那様の寝室で眠られるので、私達メイドも、カミラ様やミランダ様も緊急でない限り、近付く事を許されてはいない。
旦那様の寝室と執務室は同じ階にあり、その階に女性は立ち入りを禁止されている。
なので私達メイドやカミラ様は、執事に連れられて降りて来られる公子様を、階段の下で待つ。
「みんな、おはよ、ごじゃいましゅ」
「「おはようございます。ノア様」」
少し眠そうな公子様は、使用人皆に挨拶してくださる天使だ。
朝から天使様が拝める幸運に感謝しよう。
「ノア様、朝のお支度をいたしましょう」
「はい! カミラ、わたち、どりゃごんさん、のりゅ!」
「ドラゴンさんとは、お顔を洗ってお着替えされた後、たくさん遊ぶのはどうでしょうか」
「はい!」
公子様は本当にウチの弟妹とは大違いで、大人しい良い子だ。
普通は朝から起きてこないわ、ギャーギャーうるさいわ、顔は洗わないわで大変なのに……これが貴族と平民の違いなのだろうか。
4歳なのに気品も漂っているし。
その後は公子様のお部屋で支度を整えて、部屋の真ん中に鎮座するリアルなドラゴンのぬいぐるみで遊ぶのがいつものルーティンだ。
ここでたまにドラゴンが消えたりするが、これは公子様の契約された妖精様の仕業らしい。
最近は私も慣れてしまったが、初めは妖精様が本当に存在するのが信じられず、毎日ドキドキしていた。
悪戯好きな妖精様だけど、私達に害はないので、皆心霊現象のようなそれを楽しんでいる。
「どりゃごんさん、おそらとぶのよ!」
「ノア様、危ないので、低く飛んでくださいね」
ふかふかの絨毯の上で、公子様は風魔法を使い、ほんの少しドラゴンを浮かせている。
こんな神のような所業に驚くこともなくなった、最近の自分の感覚、麻痺したなぁと、ふと我にかえる時があるのだが、気にしたら負けなのだろう。
そして、ご家族で仲良く朝食を召し上った後、旦那様と一時間ほど魔法の訓練をされるので、その時は公子様のお部屋のお掃除をして戻って来られるのを待つ。
「ノア、わたしはすこし、ふゆうできるように、なったきがする!」
「アスでんか、しゅごいの!」
戻って来られた公子様の隣には、偶に私たち平民が口にするのもはばかれるような、高貴な御方がいることがある。
今日はどうやらその日のようだ。
「カミラ、みな、おはよう」
「イーニアス殿下! おはようございます。ようこそお越しくださいました。すぐにお茶の準備をいたします!」
さすがカミラ様。皇子様にもいつも通り対応している!
「うむ。むぎちゃを、いただこう!」
「かしこまりました!」
「カミラ、わたちも、むぎちゃほちぃの」
「すぐにお持ちしますね!」
幼児なのになんという威厳……皇族はやはり平民やそこらの貴族とは違う。
もちろん我らが公子様は威厳も負けてはいない。
お茶を飲みながらお話する公子様と皇子様は、子供とは思えない落ち着きだ。
子供なんて、こんなに大人しくお茶をする生き物ではない。こぼしたり、割ったり。奇跡の天使様たちだ。
お茶の後はいつの間にか皇子様はお帰りになっている。一体どのようにお帰りになっているのか、皇子様は本物の天使なのではないかと私は疑っている。
「───階段は下を見ながら歩いてはなりません。前を見て、優雅に……そうです。もう一度……、はい、お上手ですわ」
お昼まで、マナー講師とマナーレッスンをする公子様は、きりりとして、真剣に授業を受けられているその様子が、何だかとても可愛らしい。
レッスンの後は、奥様とお二人、楽しそうに昼食をとられ(ご主人様はお仕事で外出)、昼食後は公子様がもっとも楽しみにされている、奥様と遊ぶ時間がやってくる。
「おかぁさま、パズル、しゅる!」
「そうですわね! ノアはパズルも得意ですものね」
「しょう! わたち、パズルとくい!」
奥様に褒められ、胸を張る公子様が愛らしい。尊いとはこのことをいうのだろう。
少し遊んだ後は、お勉強の時間がやってくる。
文字や計算など、4歳児のレベルをはるかに超えた勉強内容に、公子様はやはり天才なのだと戦慄してしまう。
アフターヌーンティーを挟み、夕食まで勉強で埋まるスケジュールは、子供のそれではない。
これが、公爵家に生まれた者の定めなのだろう。
貴族は大変だ。
「わたち、おべんきょ、しゅきなのよ」
以前公子様がカミラ様に言っていた事を思い出した。
勉強が好きな子供など幻だと思っていたが、ここに存在した。弟妹たちに公子様の爪の垢を煎じて飲ませたいものだ。
夕食は家族揃って召し上がられ、そしてまたご家族でお休みになる。とても仲の良いご家族で、私の憧れだったりする。
「みんな、おやしゅみなさい!」
こんな可愛らしい公子様のお世話が出来るなんて、公爵家で働けて良かった。
公子様のおやすみの挨拶に、毎日そう思いながら、一日を終えるのだ。
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