継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
76 / 186
番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 狙われたイザベル2 〜 ノア4歳、イーニアス5歳

しおりを挟む


テオバルド視点


「もう、朕はダメなのだ……」
「陛下、しっかり働いてください」
「公爵、朕はもうダメなのだ」
「口を動かせているうちは、死にはしません」
「手ではなく口で判断するのか!?」

この皇帝は、実務作業がとにかく苦手だ。そしてすぐに口が動く。これでもう何度目だ。

口ではなく手を動かせ。

「ネロ、この書類だけど……」

そこへ皇后がやって来る。その途端、

「レーテ、朕は頑張っておるのだぞ! 公爵っ、次の書類を寄越すのだ!」
「あら、その書類、急ぎだったわよね。ネロ、あんたまたサボってたわね!」

皇后には良い風に見せたいのか、仕事をしている風に装うが、結局すぐにサボっていた事がバレる。

いつも同じ事を繰り返しているこの男が、グランニッシュ帝国の皇帝だとは、この国は大丈夫だろうか。

「……テオ様、ちょっと良いかしら」

皇后が、真面目な顔をして話しかけてくる。ある程度距離を保ったまま頷けば、何の資料か、目の前の机に置いた。

「どうやらまだ、キナ臭い動きをしている者がいるようなのよ」

皇后の情報網は侮れない。特に国外の情報の正確さは、我が家の影よりも上かもしれん。

資料に目を通すと、前々から目をつけていた、他国と通じている疑いがある貴族と、他国の商人について、詳しく書かれていた。

「大規模な粛清後にも関わらず、まだ命知らずの阿呆がいたか」

なかなか尻尾を出さず、どうしてくれようかと思っていたが、これで一網打尽に出来るとほくそ笑む。

「テオ様が笑っているわ! 素適ぃ!」
「こ、怖いっ、悪魔の微笑みなのだ!」

陛下たちには、さらに働いてもらわなくてはならんな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「きゃーっ」
「ワンッ」
「ウォンッ」

きゃーきゃーと、楽しそうに庭を駆け回るノアと、ウチの番犬たちに、庭師たちも、メイドたちも頬を緩めている。

「の、ノア様……、カミラは、もぅ……ゼェ、げ、限界……ハァ、です……」

若干一名死にかけているけれど、概ね平和ですわ。

「でゅーく、なりゃ、こっちよ!」

ノアが滑り台の上から二匹を呼ぶと、滑り台の階段側へ前足をかけて尻尾を振るデュークと、滑る方へ即座に移動して、下で伏せをしてお尻を高く上げ、待ち構えまえているナラに笑ってしまった。

「なりゃ、しょこ、めっよ。わたち、すべれないのよ」
「くぅーん……」

ノアにめっされたナラは、少し後ろに下がり、尻尾をまたぶんぶんと振る。

賢いワンちゃんですわ。

「ワンッ」

するとこっちを見ろというように、デュークが吠えて階段をぴょんと上がったではないか!

「でゅーく、いっしょ、すべりゅ?」
「ワンッ」

ポカンとして見ていたら、デュークが伏せをして、滑り台をシューッと滑っていくではないか。ノアもその後を追って、滑っている。

「何かしら、この可愛らしい光景……」
「左様でございますね」

わたくしに日傘を差して、柔らかな表情をしながら応えるミランダは、眩しそうに目を細めていた。と、その時、

「失礼いたします」

ミランダに耳打ちをするメイドに、急な訪問客でも来たのかしら、と首を傾げる。
メイドが下がると、ミランダは真剣な顔で言ったのだ。

「……奥様、急なお客様の訪問があったようです」
「あら、どなたかしら?」
「それが、先日手紙を寄越された、ウィニー男爵領にある商人の同業組合の組合長だそうです。まだ返事もしておりませんが、やって来たらしく、現在門番が対応しておりますが、奥様に会うまでは帰らないと言って、門の前から動かないようで……」

ウィニー男爵領といえば、グランニッシュの最北端にある、未開拓の地が8割というあの……、確かにそこの組合から手紙をもらいましたけど、まだお返事が出来ていなかったのよね。

「そうね……お会いしてみましょう」

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...